江古田リヴァー・サイド59
「「「「っっカーーーーーー!!」」」
白酒を一気に呑み干したオレ達は、クミンのスパイシーな香りと味の羊肉を頬張りつつ、『餃子は飲み物です!』とばかりに水餃子をちゅるりんとドリンクし、男子中学生並の食欲で目の前の皿を平らげていった。ミーティングがてら、という名目は、最早完全に立っていなかった。
「董さーん!干し豆腐炒めと醤大骨追加ーーー! あと青島!」
董さんはこちらを一瞥し、右手を挙げる。オーダーは通ったようだ。
「あー、あとさー……一琳(イーリン)、いるかな?」
「アイヤー! 尹、オマエどの面下げて一琳に会うつもりか! ワタシの娘、何度泣かすか! ダメよ。一琳には会わせないよ!」
「……ってことは、居るんだね?」
「……」
董さんは答えない。耳聡い仁美が、wktkしながら二人の会話に割って入ってきた。
「ねぇねぇ! なになになに!! 一琳さんって誰? 女の子の名前よね! も・し・か・し・てーー? 尹さんの彼女?」
「ご明察〜♪ さすがひーちゃん、するどいねー♪」
「一琳はワカレタいってたよ!」
グワッと目を見開き、董さんは言う。
「あっれぇー、おかしいな。僕達ラブラブだよー、董さん。とりあえず、お邪魔するねー♪」
鬼の形相の董さんの威嚇をさらりと躱し、尹さんは厨房へと消える。
程なくして、中から尹さんの声と女の子の声が聞こえてきた。聞き耳を立てるつもりはないが、どうにも気になってしまう。
『尹! ナニシニキタカ!』
『いや、ちょっと一琳の顔がみたくてさ』
『ワタシとオマエ、ワカレタ! モウ他人!! サワルナ!』
『一琳……ホントにそんな風に思ってる?』
『……』
『美玲(メイリン)のことは誤解だって……一琳だって、ホントはわかってるんだろ?』
『デモ! 美玲がワタシに……』
『僕よりも美玲を信じるの?』
『ソレハ……ダッテ……』
外野の俺達は、もう耳ダンボ状態だ。特に仁美と玲さんのテンションが滅茶苦茶高い。
「なにやってんのよ尹さん! もう、いいから押し倒せ!!」
「仁美ちゃん……はしたなくてよ……(;゚∀゚)=3ハァハァ」
だめだこの子達。どげんかせんといかん。
『一琳……』
『ダメ……尹……ソユの、ズルイ……』
『……』
『ン……ダメ……』
……
…………
………………
……………………
「うん……という事で、紹介するよ。僕のパートナー、董一琳」
「……」
完全に『事後の顔』の一琳さんが、頬を紅潮させてぺこりと一礼する。
高い位置でポニーテールにしているにも関わらず腰まである長い黒髪に、切れ長の一重瞼のエキゾチックな顔立ちは、日本人の女の子とは違うタイプの美を感じる。とても後ろで修羅の如き形相で中華包丁を舐めている董さんの娘さんとは思えない。
「ところで一琳、呂大人に会いたいんだけど」
尹さんの言葉を聞いた一琳さんの顔が、一気に青ざめた。
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