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メタノールナイツストーリー 6 BLUE
第六章 用心棒はニュービー
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「そこっ! 4時の方角に弓ゴブ!!」
響く声に反応し、振り向きざまに覚えたての『投擲Lv1』スキル、”スローイング” を発動し、アーチャータイプのゴブリンに石つぶてを投げる。『投擲』は、最終的にランス(投擲槍)やスローイングナイフ、シュリケンといった、『投げる』武器をメインウェポンとするプレイヤーには必須の能力だ。
クレリック×ナイト=パラディンを最終目標とする僕には、本来必要のないスキルなのだけれど、柚葉曰く
”『投擲』はLv3位までは上げておいて損はないわ。敵の強襲に石つぶてや手持ちの投擲武器で対応できれば、倒せないまでも攻撃を逸らすことはできるし、戦闘中のパーティー内でのアイテムの受け渡しにも重宝する。案外あるのよ、戦闘中にアイテムを使うんじゃなく、渡すシチュエーションって”
との事で、現在絶賛修行中だ。
<<Et Witz Spalken!!>>
速度優先の簡易詠唱で発動した柚葉の雷撃が、ゴブリンアーチャー(弓ゴブ)の右こめかみにヒットする。デコピンレベルの攻撃はLv差により致命傷となり、Lv8弓ゴブのボディーは光の粒となって昇華した。
チャリンという金属音とともに、フィールドに20コルドとクエストアイテム『ゴブリンのマント』がドロップした。計7枚目、あと3枚でLv15クエスト、『賢者への貢物』クリアのためのキーアイテム、”土竜の爪”を得ることができる。文字通り、土竜(モグラ)の爪なんだけど、何かを勘違いしてる東方の賢者に『土の竜の爪』を渡すことで、Lv20になった際にクレリックへの転職の口利きをしてもらえる。いわゆるコネだ。こんなトコを無駄にリアルに寄せなくてもいいのにとも思う。
「ユーリ!注意力散漫!!いくら私のアシストがあるからって気を抜かないで!!」
「私の注意力は3万(散漫)です(キリッ)」
「ドラゴンキッドのガルーダ様のモノマネだと思うけど、全然似てないし」
「いきますよマートンさん、セブリアさん」
「続けなくていいから......少し休みましょ、MP尽きちゃったし」
僕と柚葉は今、『賢者への貢物』クエストクリアの為、アイテム集めとレベルアップに奔走していた。前衛型で、回復魔法も使えてソロもいける攻守バランスのとれたパラディンを当面の目標としている僕だけど、未だに柚葉との圧倒的なLV差のせいで、素手の殴り合いでさえ全然勝てない。一昨日の夜、『体術』の基礎固めの為、ガイヤード内に幾つか存在するFBA(Free Battle Area)、つまりプレイヤー同士の戦いでもPK扱いとならず、状態変化もデスペナルティも発生しないエリアのひとつであるマルククの港で対戦モードで闘っていたときも、金髪マッチョ男がロングスカートを纏ったスリムな美女にいいようにボコられるという非常に残念な状況が展開されていた。
「「ホレホレがんばれ!見習いのにーちゃん!」」
「「ボ……ボクも蹴って欲しいお……ハァハァ……」」
「「一方的過ぎて哀れみを禁じ得ない件......」」
人の気も知らないで気楽なものだなぁ……などと思いながら野次を受け流しつつ、地べたとキスをすること数十回。やっと『体術Lv1』スキル、”受身”をマスターしたのは、またも朝チュンの時間だった。
「柚葉ってさ、学生?」
「ネットの付き合いでリアルの詮索するのはあまり関心しないわね」
「いや、そういうつもりはないよ。たださ、いつ寝てるんだろう?って思ってさ。夜勤系のお仕事で昼間寝てんのかな?とも思ったけど、それなら夜は仕事でいないはずだし……消去法で、『お金を稼ぐ必要が必ずしもない』立場の人かな、って」
「その論法が正しいとするなら、ユーリも学生、って事なのかしら?」
「そうだけど、ユーリ『も』ってことは、柚葉も学生ってことでFA?」
「ノー・コメントね」
「了解。ゴメンね、もう訊かないから」
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