メタノールナイツストーリー16 Blue
第十六章 両手に華(ただしトゲと毒あり)
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じっっっっとりと、僕と柚葉はリードルを見ていた。
修羅の如き戦闘力と色気過剰なアヴァターのビジュアルを有効活用した色仕掛け、からの泣き落とし……はかりかねる……
「お……おう……」
言葉に詰まる。
柚葉が、僕だけに見えるウィスパーチャットで『騙されるんじゃないわよ』と言っている。あーもう、なんでこう女って女に厳しいんだ……
「キミのその言い分が本当だったとして、にしても僕にこだわることもなくない? 確かに僕は、とっさに柚葉を助けに入ったけど、実際キミに助けてもらわなかったらどうなってたことか……割と真面目に、僕をパートナーにするメリットって、ホントなにもないとおもうよ」
自分で言ってて哀しくなるけど。僕は柚葉に目線を移し言葉を継ぐ。
「でもさ、ここまで言うなら、お試しで少しの間、パーティー組んで見るのもよくないか? 実際、くやしいけど僕はまだ柚葉の盾として機能していないし、リードルのスピードと強さ(あとおっぱい)は魅力的なのはホントだろ?」
「う……」
柚葉だって、いや、柚葉こそ僕以上にしんどい筈だ。僕は更に押す
「正直、僕もしんどい。僕自身が、ってのもあるけど、柚葉の役に立ててない歯がゆさが、ずっとある。すこしハードな狩りの後グリーンポーション飲んでるの、気づいてないと思った? 『盾』がちゃんと機能していれば、僕達が今メインにしてるような狩場でシンガーソングダンサーが傷を負うんてことは、まずない。能力的には、柚葉とリードルの方が釣り合う位だ」
「「全力でお断りするわ!」」
おお!ハモった!
もしかしてこの二人、結構気が合うんじゃね?
「信用できない。色仕掛け仕掛けてくるような人、どうやって信じろっての?」
「使える能力をフルに使うのは当たり前のことでしょ? その貧相な胸じゃ、オトコ一人靡かせられないでしょうけど……」
「……言うわね。いっぺん死んどく?」
「あら〜♪ そっくりお返しするわ♪ 詠唱する余裕があれば、だけど」
まぁ実際には、そうなったら柚葉は瞬殺だ。それは当の柚葉もわかってはいる。
「何が目的?」
柚葉が短くリードルに問う。
「いや、だから彼、ユーリが目的なんだけど」
何言ってんだこいつ? といった風に、リードルが応える。
「意味がわからないんだけど……彼、ジョブも持てない低LVの初心者よ? なんで?」
「いやそれ、盛大なブーメランじゃない……」
ツッコまれた柚葉は、ぐぬぬ顔になる。
「マトモなスキルもジョブもないニュービー(初心者)にご執心な理由は何なのかしら?シンガーソングダンサーさん?」
柚葉は質問を質問で返す。
「あなたこそ、何故なの? 何故彼なの?」
「好きだから」
即答だった。
「はぇ!?」
僕の口から、思わずマヌケな声がでる。
「えっと……どこかでお会いしてましたっけ……」
「ないわよ。初めて会ったよ、私達♪」
「え……なんで?」
「やーだぁー♡ 人を好きになるのに理由なんて要るぅ? アナタのアヴァターの中途半端なパツキンと、可愛らしい顔立ちに似合わない男らしさ……似てるのよね……」
誰に?と訊くほどには、さすがに僕も野暮じゃなかった。リードルの『中の人』の想い人がどんな人なのかは知らないけれど。
「……ばかみたい」
呆けた顔で、柚葉が呟く。
「うん、バカだよ、私。バカになれる自分、わりと好きだし」
誇らしげに言うリードルを、柚葉は驚いたように見つめていた。