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メタノールナイツストーリー12 Blue

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第十二章 バカ(♂)とバカ(♀)とオッパイと

 PKKトラップにガッツリ引っかかった僕と柚葉。

 狙いは当然柚葉だ。他ジョブに比べて圧倒的に攻撃力と防御力が低く、防具の代わりに装備している宝飾品はショップにもプレイヤーにも高く売れる。「カモがネギと鍋とダシ汁背負って包丁とまな板とコンロまでもってきた」とまで言われるほどに、ただでさえカモネギなシンガーソング・ダンサー、それもハイレベルプレイヤーとなれば、装備品もレアアイテムや高額アイテムが目白押しだ。

 Lv50……それは膨大な時間と地道な努力の結晶のような数字だ。ナイトやモンクのように力押しで強いモンスターと闘えないシンガーソング・ダンサーは、パーティーの回復や攻撃力・防御力UPの祝福を付与するダンスや唄で、補佐役に回る事がほとんどだ。ソロのシンガーソング・ダンサーなんて、僕は柚葉しか見たことがない。そんな柚葉が、何故か半人前の僕をバディに選んだ。

 そう、この僕を!

「逃げろ!」

僕が逡巡している間に、柚葉は間合いを取り、少し離れた樹の枝の上でそう叫んでいた。

 逃げる? なんで? いやいや、なんでさ!!

「うわああああ!」

 気付けば僕は、PKKギルドの親玉と思しき僧侶に挑みかかっていた。

 後先なんて、全く考えていなかった。

 柚葉に向け、そっちこそ早く逃げろと叫びながら、一気に間合いを詰める。

 ギンッ!

 虚を突かれたギルドリーダーは、僕のLv1ナイフ技『流し切り』をモロに喰らい……などと言うことはなく、ハエでも追い払うかのように振られたワンドでこともなげに受け流され、僕はよろけて倒れこんだ。ただ振り払われただけなのに、HPゲージが半分程減っている。カッコ悪いとか恥ずかしいとかそんな事よりも、自分の身ひとつ守れないばかりか、一矢報いる程度のことすら叶わない自分が、ただただ情けなくて哀しかった。

「んぁ? なんか掠ったか?」

 圧倒的なLv差と装備の差を強調するように、ギルドリーダーは薄ら笑いを浮かべて言う。つんのめってorzになった命知らずな初心者と複数人のPKプレイヤー。

 あ、死んだ。これ僕死んだわ。

 柚葉が退避した木の上にも、PKギルドのメンバー達が群がっている。クッソ!せめて連中の目を引き付けるだけでもと思ったけど、それすら叶わなかったか……柚葉……ゴメン……

「きゃあああああ!!」

 カクゴを決めた僕の右斜め前に立っていたPKギルドの女魔導師が、頸から赤い血のようなダメージエフェクトを盛大に吹き出し、ドサリと倒れた。程なく女魔導師のアバターは点滅し、魔力値増大効果のある+4シルバーリストを残して消えた。

 たゆん♡

 女魔導師を屠った何者かは……なんというか、『たゆんたゆん』だった……

 長い黒髪に黒い瞳、ピッタリとしたボディスーツのような黒衣、両の手に握られたダガーまで黒だ。そして圧倒的な質量の胸部装甲(という名の乙π)!!

 アサシン。シーフ(盗賊)とモンク(武闘家)のジョブをマスターすることで選択できる上級職の一つで、メタストの全ジョブ中最速のスピードとDEX(器用さ)値を誇る職業だ。ジョブの持つ特殊能力として、敵の急所がマーカーされ、そこを正確に攻撃することで一撃で倒すことができる『一撃必殺』の能力があるが、神速のスピードの制御が難しい上にマーカーの当たり判定がシビア過ぎて、メタスト中最も扱うのが難しい職業だったりもする。『一撃必殺』が発動しない限りはアサシンの攻撃力は決して高くなく、職業特性から鎧兜盾の装備もできない為、手数でちまちま削るようなプレイになり、アサシン感のまるでないプレイヤーが大半だ。

 だが、目の前のアサシンは、神速で命を狩る、まさに『暗殺者』そのものだった。

「下衆が……狩りはスマートにやれ……」

 見た目にそぐわない、どちらかと言えば可愛い声で、乳神様…….もといアサシンの女は呟くと、睨みを利かせてナイフを握り直し、再び臨戦態勢を取った。

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