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メタノールナイツストーリー 2 Blue
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第二章:ユーリ爆誕
"Octopus(オクトパス)"
イスラエルの企業、Octopus社が開発したVR端末。
当初は軍用として、新兵の訓練用途として開発されたが、不正アクセスによる製品仕様の流出により民間転用されることとなった......
チュン......チュン......
朝チュン。それは漢のマロン!......じゃない、ロマン!!
……のはずなのだが、僕にとっては何時もの憂鬱な朝の始まりでしかない。
「またやっちまった......」
バッテリーが切れたオクトパスを外すと、窓から差し込んだ朝日が目を刺した。うんざりするほど健康的な晴天。陽光に照らされるふぅわりとした雲が、不健康な僕を見下すようにぷかぷかと高みに浮かんでいる
眠気とVR酔いで覚束ない足取りで一階に降り、顔を洗う。洗面所の鏡で顔面チェック。オクトパスのストラップの跡をつけたままでは、さすがに学校に行く気にもなれない。
左右逆転した世界の中には、僕にそっくりな中学生男子がいる。生活指導の教師が常に疑念の目を向ける母親譲りの茶色い髪と瞳、紙のように生白い肌。目の下に散らばるソバカス。
「悠里(ユーリ)!起きたんなら朝ごはん早く食べちゃってー!」
Oh……現実様が追っかけてくる。
「わーかったって!今顔洗ってんの!!」
現実の権化たるマーマの声にうんざりしながら、リビングに向かう。
背中越しにちら、と、もう一度僕は鏡を見やった。逞しさなどカケラもないガキ臭い顔立ちとひょろっちい体。
あの子は……昨夜メタスト(メタノールナイツストーリー)で出会い、即席パーティーを組んだ彼女は、強かった。2つのジョブをLv20まで経験することで選択できる12の上級職の中でも、シンガー職とダンサー職の掛けあわせで選択できるシンガーソングダンサーは、シブすぎるチョイスだ。実装当時こそそのビジュアルの華やかさから目指すプレイヤーも多かったが、習得できる魔法は攻撃力UPや防御力UP、状態変化等の支援型ばかりの上、防御力の高いアーマーやシールドは装備不可、メインウェポンはナイフ(短剣)かウィップ(鞭)と、実に微妙なジョブだった為、実装から3ヶ月後には、シンガーソングダンサーを目指すプレイヤーは余程の物好きかメタストをよく知らない初心プレイヤーがビジュアルだけでなんとなく目指すかのどちらかのみとなった。でも彼女は......いや、女性形アヴァターとはいえ、中の人も女とは限らないけど。
「だよなぁ……女とは限らねぇよなぁ......」
そんでも、なんとなく、なんとなくまた会いたいな、と、僕は思った。今夜も、夕飯食べたらソッコー風呂入ってログインしなきゃだな。
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