江古田リヴァー・サイド57
首都高1号羽田線を港区方面に向け、オレ達を乗せた黒いハイエースが走る。
今ドライヴァーズ・シートでステアリングを握っているのは、謎のチャイニーズではなく、我らが高野セバスチャンだ。
白髪三つ編みのヅラを被りっぱなしなのは確実にツッコミ待ちなのだろうが、全力でスルーする。
「あ~~~~~~~~~! もう! ムカつくムカつくムカつくーーーーーーー!!」
仁美は憤懣やるかたない様子で地団駄を踏む。その度にハイエースはデンジャラスな縦揺れを起こし、乗り物酔いの気のあるヒロムの胃にクリティカルなシェイクを喰わせる。
「おい仁美!ヒロムの胃がMAXだ!そろそろシャレにならんから落ち着け!!」
「だって!だって!だって!アタシ達拉致られたんだよ!! 誘拐されたんだよ!! コレ犯罪だよ!! みんななんでそんな大人しくしてられんのよ!! それに何!?あンのクッソ親父!! どんだけ偉いか知らないけど、こんな事してタダで済むと思ってんの!?」
「タダで済んじゃうんだな〜、コレが」
ナヴィゲーターズシートで煙草を燻らせていた尹さんが応える。つか、煙草の臭いも乗り物酔いの人には辛いらしいのでやめろください!さもないと「車内大もんじゃパーティー」開催不可避なので!!
フルオープンにした窓からヒロムの顔を出してやり、外の空気を吸わせる。尹さんが続ける。
「鷺沢清隆氏はただの金持ちじゃない。鷺沢家は旧財閥だ。明治まで遡れば鷺沢男爵家の爵位持ちさ。政財界へのパイプも太く、芸能出版マスコミおまけにヤクザにも顔が利く。前警視総監の高山さん、あの人って清隆氏のオトモダチだったよね?鷺沢さん」
「…...ああ、懇意にしてたはずだ」
「そういうこと。全方位無敵。生まれながらに強くてニューゲームのチート人生を歩んでるのが清隆氏だよ。日本人の若造数人と在日朝鮮人一人が消える程度の事なんて、いくらでも揉み消せるよねー。こわいこわい♪」
言葉とは裏腹の軽さで語る尹さんに、テイルランプの洪水を凝視しながら高野氏が続ける。
「やるかやらないかはともかくとして、容易い事であるのは間違い御座いませんな」
ダン!と両足でフロアを踏み鳴らし、仁美が言葉にならない雄叫びをあげる。
やめて!もうヒロムのライフはゼロよ!!
「何よ!なんなの!! 金持ってたりコネもってたりするのがそんなに偉いの!? もーーーームカつくーーーー!! 意味わかんなーーーーーーい!!」
「偉いんじゃないよ、強いんだ、ひーちゃん」
目を瞑り、怒髪天を衝く勢いの仁美に、尹さんがそう応え、続ける。
「そう、強い。金もコネも、強大な力だよ。だけど旧い。僕達の勝機は、まさにそこにある」
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