冤罪報復コロッケ

毎年毎年おじさんになっていって、毎年毎年去年よりも楽しい1年を過ごさせてもらいながら、このまま生きてりゃ計画通り笑いながら死んでいけるなあなんて思いながらも、それでもやっぱり、中学高校くらいの青春なんてのは異質な時間であったことに、こんな年になろうがごくごく稀にセンチメンタルな気持ちになることもある。
他の時間が満たされていないわけでは決してなく、ただそれでもあの時過ごした時間は、なぜだかわからないが他の時間と比べられるものではない全く別の記憶の引き出しにしまわれているのである。

昔実家の向かいに住んでいた、千葉市から木更津までの30kmを高速に乗ったら単車で8分で着くと豪語していた荒木先輩というバイク屋の大嘘つき息子がいた。
初めて買った原付の修理をしてくれたり単車の後ろに乗せてくれたりと、高校時代に新しくわいた好奇心の面倒を見てくれていたのだが、大嘘つきの荒木先輩が言っていた言葉の中で、今になってもあれだけは本当だったなあと身に染みる言葉がある。

中途半端が1番楽しい

パッと聞いた感じだけでは、なんてくそみたいな言葉なんだろうといった印象であるだろうが、これがまたなんとも説得力のある言葉であると思っているのだ。
今現在、生涯の仕事に就いて、やっとこさスタートラインくらいの感覚であったとしても、やりたいことやなりたい未来に向かってのらりくらりと過ごす時間に満足はしているしとんでもなく楽しいとも言える。
言えるのだが、やりがいやら達成感やらを全部取っ払って、純粋に楽しさだけを追求した時に、やはりあの全てが中途半端で志1つなかった時間には僅差で及ばないのだろう。
残り時間が見えてくる大学時代のあの焦りすらない高校の3年間、なにをしていたかと聞かれたら、本当に答えられないくらいになにもしていなかったはずのあの時間が、どういうわけか今でも鮮明に思い出せる要因の1つは、全てが中途半端であったからに他ならないのである。

かといって、周りの全高校生が同じような過ごし方をしていたかというともちろんそうではなかった。
学業に必死で取り組んだり、部活動に全青春ベットしたり、ヤンキーだってヤンキーなりの本気の生き方をしている奴もいたであろう。
それでも、そんな人間に囲まれても眉1つ動かさずに過ごしていけたのは、とにかく毎日が楽しかったのと、とにかく頭がおかしかったからとしか言い様がないのである。 

ただ、そんななんてことない生活を送っていた僕らでも、なんやかんやで色々な事件に巻き込まれることはあった。
なんにも考えないで愉快にだけ特化した生活をしてると、危険察知センサーが完全に故障していることにも気がつかないのである。
詳しくはまた別日にでも書くかもしれないが、ヤンキーの先輩に、全くヤンキーでもないのにも関わらず、夜の公園に集められ同級生同士で無理矢理喧嘩させられたこともあった。
デコがハンマーナオくらい腫れあがった。


友達が彼女と別れる際に、女の子側は納得いかず仲間の20人くらいのギャル軍団に囲まれたこともあった。
とてもいい匂いがした。


原付のガソリンタンクが壊れていることに気づかず、漏れたガソリンに着火しダイハードみたいな爆発に巻き込まれたこともあった。
怖すぎて泣いちゃった。

なぜだかわからないが、僕達は昔からジョンマクレーン刑事並みにトラブルにだけは巻き込まれやすい体質であったのだ。

大体の事件はただただ震えたまま終息を待つ以外のコマンドを選ばなかったのだが、なんだか戦えそうな時は戦うこともあった。
1度だけサッカー部のエースと、初めて我々中途半端ズが全勢力をあげて大奮闘を繰り広げたことがあったのである。

ことの発端は確か教室での盗難事件。
よくある話だが、移動教室の間に何人かの財布が何者かによって盗み倒されたというのだ。
全くもって手がかりなんてものもなかったのだが、その時ちょうど学校に遅刻していて、あとからノコノコ登校した僕達には信じられないくらいアリバイがなく、まんまと容疑者へとしたてあげられたのである。
それにしたってやってないもんはやってないわけで、僕達は必死の弁解の末にどうにか冤罪は免れたのだが、どうやら僕達がやったという噂を流した張本人が、サッカー部のエースであった木下君であるという情報を掴んだのである。というか普通にいないところであいつらに違いないとみんなの前で力説していたとのこと。サッカー部のエースであり人望もあった彼の言葉に、クラス中が首を縦に振ったのだという。
根拠のない噂から犯人扱いされた我々はさすがに怒り狂ったが、だからと言って喧嘩になるような内容でもないしどちらもそんなタイプではない。
ただこのまま泣き寝入りするのは相当悔しい。

すると、我々中途半端ズのブレーンである庄子君が、俺に任せろと、この悔しさを晴らす作戦を発表し始めたのである。

ちなみにこの庄子君という男は、以前の投稿でも紹介したことがあったが僕の幼稚園からの幼馴染みであり、また度の過ぎたイタズラの名手であった。
庄子君の犯行の数々は、後々別の記事で詳しく書くことになるが、本当に死ななきゃ笑えるといった思想の持ち主であり、僕自身、カラオケでトイレに行っている間にドリンクの中へ睡眠作用があるとされる目薬を入れられ、そのまま5時間程眠りにつき、全員先に帰っていた中全く払う必要のなかった5時間分の延長料を支払わされた経験があった。

そんな彼から作戦があると聞かされた僕達は、こいつが味方で本当に良かったと思いながら彼の言葉に耳を傾けた。

あいつの机の裏にコロッケくっつけちゃおう

こいつが味方じゃなくてもそんなに困らないなと思った。かつて僕らを苦しめたイタズラの名手は、完全にスランプ期に突入していたのである。
机の裏にコロッケくっつけられちゃったからなんだというのだろうか。正直ラッキーまでありそうなもんである。
とは言いつつも、それに代わる代案が浮かばずに、僕らはあいつの机の裏にコロッケくっつけちゃおう作戦を実行することにしたのである。

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