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ながれてカエルの結ぶ #001 - 母子手帳
母は母子手帳にほとんど書込みをしなかった。
わたしの母子手帳は、古いはずなのに新品かと見まがうほどのキレイさで残っている。
中学だか高校だかの課題で、自分の過去を調べるというようなものがあった。わたしが自分の母子手帳を見たのはそのときだった。ほとんど何も書かれていなかったそれに、つまんねーなとため息をつきかけたそのとき、にわかには信じない記載があった。
それは8ヶ月のページだった。そこに書かれていたのがこんなメモだった。
うたう
・きんぎょ
・ことり
「きんぎょ」は『金魚の昼寝』、「ことり」は『ことりのうた』という童謡。
今となっては、わたしが本当に8ヶ月のときのこれを歌ったのか定かではない。母に確認もしたが自分がそれを書いたことも覚えていなかった。ただ、わたしの記憶によると少なくとも2歳のときには、大人と遜色なく話すことができた。言葉が早かったのは確かなのだ。
最近知ったことなのだけれど、わたしはギフテッドらしい。本人に全く自覚がないし、ギフテッドのこと自体わたしはよくわからない。だからなんだとう話だ。
思い返してみると、覚えている限りでは3歳の時には体の仕組みを理解していた。これは絵本を読む前に父が趣味で買った百科全集を、わたしが読み潰していたからであると思う。5歳のときには、その百科全集の一部、わたしが何度も読み返した本たちは、ボロボロになりページが取れ落ちていた。
当時は特に魚と道路標識に興味があったようで、辞典のどこをも諳んじることができた。
それを考えると8ヶ月で歌い出したというこのメモは、ページ間違いではなかったようにも思えてくるものだから不思議だ。
なんにせよ、常識的に考えて8ヶ月の赤ん坊が歌を歌うのはありえない。事実であれミスであれ、わたしの宿題は不発に終わったのだった。
なぜなら、それ以外の情報がほぼ書き込まれていなかったから。
母よ……
おしまい