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「朝食欠食」という社会課題を、新しい購買習慣からアプローチ ~統合コミュニケーション事例カルビー フルグラ®「目覚める仕送り」~

前回に続き、我々が担当させていただいた具体的な事例にフォーカスし、PR会社ならではの統合コミュニケーションについてひも解いていきます。今回は、2024年に実施したカルビー様・フルグラ®のキャンペーン「目覚める仕送り」を紹介します。シリアル市場で高いシェアを持つフルグラ®ですが、改めて存在感を打ち出していくにあたり、朝食を抜いてしまう「朝食欠食」という社会課題に注目。PRの視点でのアイデア開発から、どういった成果を得たのでしょうか。

<スピーカープロフィール>
登坂泰斗
統合コミュニケーション戦略部 部長
外食チェーン・商業施設・日用品などのナショナルクライアントをメインに、戦略PRの立案やPRコンテンツの企画開発を手がけた後、PR発想での統合型コミュニケーション戦略に挑戦する統合コミュニケーション戦略部を立ち上げる。早稲田大学 商学部特別招聘講師など複数の講師を務めるほか、産学連携の研究プロジェクトなどにも携わる。
主な受賞歴として、ACC、PRアワードグランプリ、日本マーケティング大賞等。

早藤優樹
統合コミュニケーション戦略部 コミュニケーションディレクター
PR視点のアクティベーションを、企画から実行まで一気通貫して担当。2023年より博報堂ケトルにも参画。主な受賞歴として、ACC、PRアワードグランプリ、PR AWARDS APAC、Saber Awardsなど。

朝食市場のリーディングブランドとして、市場の拡大を目指す

――まず、今回のフルグラ®「目覚める仕送り」の概要を教えてください。実家の親が一人暮らしの子どもに送るような“仕送り”の意味ですか?

早藤:はい。そこに、フルグラ®も一緒に入れて届けられるという企画です。オリジナルの段ボールにフルグラ®を入れ、キャンペーンに申し込んだ方にまず送付します。空いたスペースに食品や日用品などを詰めていただき、いったん事務局を経由してお届け先に送付することで、キャンペーン参加者が無償で仕送りができる仕組みです。もちろん子ども世代から親へ、また親せきや友人などへも送れるようにしました。

――受け取った方が段ボールを開けると、慣れ親しんだ地元の食べ物などとともに、フルグラ®が入っているわけですね。

早藤:そうですね。フルグラ®を通して、朝食もしっかり食べてね、という思いを込めています。

――フルグラ®はシリアルの代表的な商品としてよく知られ、シェア率も高いとのことですが、今回の企画の発端を教えてください。

登坂:2024年の春に大々的なキャンペーンを実施されたいと、前年にカルビー様からコンペの打診をいただきました。
フルグラ®は、近年、テレビCMを中心とした広告で、商品のおいしさや楽しさを情緒的に訴求し、一方でPRでは主にメディアコミュニケーションを通して、成分や効果などの機能的な部分を訴求し続けてきました。今回は、後者の企画となります。
フルグラ®は10年ほど前に「朝食革命」を宣言し、これまでのシリアル市場から、朝食市場に打って出ることで、大きくシェアを拡大された経緯があります。本企画は、その大きな成功を受けての企画と位置付けられ、改めて、PRの力で朝食市場におけるフルグラ®の存在感を示すとともに、同時に朝食市場を活性化する意図がありました。

50g増量パッケージは2024年4月に期間限定販売したもの

「朝食欠食」という社会課題に向き合う

――お話を受けて、どういった点から探っていったのでしょうか?

早藤:まずは市場調査を実施したところ、例えば10年前と比べると、シリアルの種類が増えて顧客が分散していることがわかったのです。また、ライフスタイルの変化や多様化によって、朝食を食べない人が増えていることも見て取れました。
機能訴求も意識しつつ、しかし機能を全面に打ち出すと、さまざまな情報があふれる中で埋もれてしまい、メディアにも響きません。顧客に高く支持されているブランドならではのコミュニケーションを展開したいと思いました。
そうすることで、「シェアを奪うのではなく、新市場(新習慣)を切り開けないか」という思いもありました。
その上で、どうしたら新市場を切り開けるか、まだない需要や消えてしまった需要を喚起できるかを検討しました。同時に今の社会や世の中の人々との接点を踏まえて、フルグラ®がどういった社会課題を解決できるかを考えたところ、「朝食欠食」というキーワードが挙がりました。

朝食を摂ることが健康において大事なのは、広く知られています。そこで「朝食を食べない人、食べなくなってしまった人に対して、フルグラ®が朝食を提案する」というアイデアに行きつきました。また、この「朝食欠食」というキーワードを設定したことが、ブランドから社会への提唱となり、メディアへの露出につながったと思っております。

50g増量パッケージは2024年4月に期間限定販売したもの

――では、「朝食欠食」から、どう思考を広げていったのですか?

早藤:手がかりになったのは、与件の「4月に実施予定」の点です。新生活の時期、入学や入社を機に実家を出て1人暮らしを始める人は、これまで実家で食べていた朝食を食べなくなることがあるのではないか、と。
一方、もしかしたら実家では、子どもが主に食べていた分のフルグラ®消費量が減っているかもしれません。さらに、これを機に、朝食の内容自体を変えてフルグラ®から離れてしまっていることも考えられました。
そこで、どうやったら朝食を食べてもらえるかを考えたときに、「仕送り」が浮かびました。「朝食欠食」をフックとしつつも、離れて暮らす家族・親族の体調を心配する人の気持ちを捉えることで、一過性のトレンドにとどまらない普遍的なテーマとなり、より多くの人に共感してもらえると考えたのです。
実際に調査したところ、仕送りをもらい始めたのは「進学で実家を離れてから」が最も多く、また仕送りをする側の心配事としては「健康面」が1位に挙がりました。

「カルビー 仕送りに関する意識調査」全国18~69歳の男女200名を対象に実施。(2024年2月22日~2月26日)

――なるほど。仕送りというと、段ボールにいろいろ詰められて届くイメージがあります。

早藤:そうですよね。なので、最初にお話ししたような仕組みを考案しました。受け取る側に好評なら、今後、「親がフルグラ®を買って仕送りに入れる」という代理購入も成り立つのでは、と考えました。

仕送りセットと一緒にオリジナルアイテムを入れられる仕様を考案

情報の山をつくり、話題喚起を最大化

――提案時のカルビー様の反応などはいかがでしたか?

登坂:「朝食欠食」や「仕送り」といったスキームには、ご納得いただけたと思います。あわせて、私たち統合コミュニケーション戦略部が得意としている情報設計についても細かくご説明しました。
PRはすべてが想定通りにいくわけではありませんが、過去の事例では、メディアやSNSを通じて緻密に情報発信を計画することで、狙った話題化を実現してきました。何となくメディアにリリースを送ろう、インフルエンサーを巻き込もうといった粗さだと、効果もぼんやりしがちです。まずSNSでキャンペーン実施の事実を広め、次にメディア向けに発表会をし、その後に一般の方が参加できる体験会を行う……といった情報の山のつくり方が大事です。
今回は事前の調査や識者への取材を通して、朝食の大切さがわかるファクトを見いだし、メディアPRに活用しました。また、キャンペーンと同時に一般の方に実際にフルグラ®入りの仕送りセットを作ってもらう体験イベント「目覚める仕送り 大梱包会」も計画しました。
実際には、事前の計画通りにはいかない部分も数多くありましたが、なんとか大きなスキームやアイデアの部分は計画通りにできたのではないかと思います。

――実施してみて、どういった反響がありましたか?

早藤:まずキャンペーンには先着450セットを用意しましたが、カルビー様には根強いファンの方が多いので、Xの公式アカウントで募集するとあっという間に予定に達してしまって。そこで追加して、計550セットを発送しました。
体験会​イベントも2時間で予定数になったため、少し増やして最終的に220個​となりました​。いずれも、参加された方から好意的な感想が多く聞かれましたね。
テレビ露出も、情報番組で「朝食食べていますか?」という街頭インタビューから始まって、「朝食習慣を応援する“目覚める仕送り”」としてキャンペーンを紹介していただきました。「朝食欠食」という皆が理解しやすい社会課題を軸に、ストーリーを描けたので、取材につながったと思います。
その他、テレビや新聞、ウェブメディア合わせて、444件もの露出を獲得できました。

――SNSでは、どんな投稿がありましたか?

早藤:1,000件の投稿をKPIにしていましたが、1万5,000件以上に上りました。「この企画を機に、離れた家族と久しぶりに連絡をとった」という声や、段ボールとフルグラ®の写真とともに「〇〇を足して子どもに送ります!」など投稿されていましたね。兄弟姉妹、甥や姪などへも送られていたようです。
仕送りにまつわるエピソードも募集し、「留学中に母から国際小包が届き、胸がいっぱいになった」といったたくさんの思い出が寄せられました。また、ショートムービーも制作したのですが、「感動した」​など​の反響がありました。総じて、どの反応もポジティブなものだったのが印象的でしたね。

オリジナルムービー「母から娘へ目覚める仕送り」

サービス化や事業化を見越したPoCとしての可能性

――今回の実施を通して、どういった知見が得られましたか?

登坂:社会課題の解決を軸に、というのはかなり語られていますが、課題に根差したアイデアや企画がしっかり情報発信に寄与するケースになったと考えています。PRの観点で実施する統合コミュニケーションとして、これからのPR業務の先行例​に​なりました。

早藤:また4月の実施後、離れた家族などに対してまさに代理購買していただける「目覚める仕送りセット」という商品が、カルビー様のECサイトでテスト的に販売されたんです。ECサイトの口コミ欄によると、こちらも好評でした。

――キャンペーンが、新しいサービスのきっかけになったのですね。稀有な例ではないですか?

早藤:そうですね。実は、もともとこのような形でサービス化も可能なのでは、と企画段階で描いていました。キャンペーンを実施してみて、参加者の満足度が高かったことから、送料や商品代をご負担いただいても「大事な人に仕送りしたい、ちゃんと食べてほしいからフルグラ®を送りたい」という意向が成り立ちそうだと感じました。

登坂:本格的に商品化されれば、キャンペーンは終わっても、企画に共感した方々に利用し続けていただけます。SNSで話題化するPR施策は単発で終わってしまうことがありますが、私たちはなるべく、そうならないようなコミュニケーションアイデアを意識しています。サービスや商品となることで、それ自体がメッセージの発信装置として生活者と長くつながり巻き込み続けられます。
今後、キャンペーンを戦略的にPoCのように位置づけて展開する可能性もあると思います。サービス化、事業化を見越したPRはハードルが高いですが、前向きに取り組みたいです。

オズマピーアールの統合コミュニケーション部の紹介記事もぜひ合わせてご覧ください。


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