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さる海辺

ライカのシャッター音が凪に溶けてゆく。

保存会に寄付されるとかで蔵から出た彼らは、湿っぽい薄闇で突っ立っていた時より余程生き生きして見える。
盆の漆に鮮やかな影を落とす豆皿など、実に満足げだ。

重い扉を閉め、最後の被写体に向き合う。
「なくしたくないから預けたい」という気持ちはよくわかる。人も物もなくなってからでは遅いのだ。
白壁のシミが、かすかに微笑んだ気がした。

ライカのシャッター音が凪に溶けてゆく。

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