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COVID-19重症者、治癒後3年経過しても心臓血管系に後遺症
心筋梗塞や脳卒中のリスク、死亡率も上昇
2019新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中でいまだに膨大な数の感染者と少なからぬ死者をもたらし、人間社会の脅威でありつづけている。日本ではワクチンの普及などで重症化リスクが低下したことなどを理由に、2023年5月に季節性インフルエンザなどと同等の「5類感染症」に移行された。しかし、5類移行後1年間(2023年5月~2024年4月)の死者数が約3万2500人以上と、季節性インフルエンザの15倍にもなることが、厚生労働省の人口動態調査から明らかになっている(共同通信:コロナ死者、年間3万2千人 5類移行後、インフルの15倍, 2024年10月24日)。しかも、その脅威は感染時だけのものではなさそうだ。
COVID-19では、ウイルス消失後にもさまざまな症状がつづく「ロングコビッド=COVID-19後遺症」が問題となっている。おもなロングコビッドの症状としては、倦怠感や疲労感、関節・筋肉痛、息切れ、記憶障害や集中力の低下、嗅覚・味覚障害などがある。
アメリカ・南カリフォルニア大学などの研究者らは、イギリスの大規模生体試料・疾患情報データベースである「UKバイオバンク」を使い、COVID-19患者の心血管系後遺症にかんする追跡調査をおこなった。グループは、ワクチン接種前の2020年2月1日~2020年12月31日に新型コロナウイルスに感染した約1万人と、対照として同時期に感染歴のない約22万人をUKバイオバンクから選び、心筋梗塞や脳卒中などの発症の有無を調べた。すると、3年経過しても感染者グループ、とくに重症化し入院したケースでは、非感染者グループに対して3倍以上そうしたリスクが高くなっていたという(James R. Hilser et al.:COVID-19 Is a Coronary Artery Disease Risk Equivalent and Exhibits a Genetic Interaction With ABO Blood Type, Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 0ctober 9, 2024)。
インフルエンザウイルスなどに感染・発症すると心血管系疾患のリスクが高まることは知られているが、通常治癒すればこのようなリスクは消失する。COVID-19も例外ではなく、感染によって心血管系疾患のリスクが高まるという報告がある。また、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が資金提供した研究(Natalia Eberhardt et al.:SARS-CoV-2 infection triggers pro-atherogenic inflammatory responses in human coronary vessels, Nature Cardiovascular Research, 2(10), 2023)では、重症COVID-19患者では感染1年後にも心疾患を起こすリスクがあるとしている。そのカギとして挙げられるのが、白血球の1つマクロファージだ。
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マクロファージは、細菌やウイルスを含む体内に侵入した異物を取り込んで消化すると同時に、サイトカインやケモカインといった免疫情報伝達物質を放出し、炎症を引き起こす。マクロファージには、体内の変性物質や死んだ細胞などを取り込む性質もある。動脈内皮細胞に入り込んだコレステロールを除去するのもその1つだ。その際にコレステロールや脂肪を取り込んだまま血管内壁に蓄積して「泡沫細胞」となり、そこにとどまってコブ状のプラークを形成してしまうのだ。この状態がつづくと、しだいにプラークが大きくなり、アテローム(粥腫)と呼ばれる塊となって血管内壁が厚くなる。これがアテローム性動脈硬化で、動脈硬化というとふつうはこのアテローム性動脈硬化をいう。アテローム性動脈硬化は、血液の通り道を狹め血流がとどこおったり、一部がはがれたり、血のかたまりができたりして、血管をつまらせ、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患の主要な原因となっている。
知られているように、新型コロナウイルスは細胞表面に発現したACE2という酵素を介して細胞内に侵入する。ACE2は動脈内皮細胞表面にも発現しているので、動脈内皮細胞は新型コロナウイルスのターゲットになっている。同時に新型コロナウイルスは、動脈内壁に形成されたプラークにあるマクロファージや泡沫細胞にも感染する。とくに泡沫細胞には感染しやすいとされる。感染したマクロファージや泡沫細胞からはサイトカインが放出されて、新たなマクロファージを呼び寄せる。こうして炎症が亢進され、プラークの形成が進むことになる。
今回の南カリフォルニア大学などの研究は、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが治癒後(ウイルス消失後)3年経ってもつづくということを示した。これも、新型コロナウイルス感染が動脈内壁にダメージを与え、動脈硬化を発症・進行させたとすれば、説明がつくかもしれない。つまり、血管内壁はより詰まりやすくなり、プラークがよりはがれやすくなり、血栓がよりできやすくなってしまうわけだ。その状態は後戻り(改善)しない。
非O型で心臓血管系疾患リスクが上昇
一方、血液型によって心血管系疾患のリスクに違いがあることが、以前から知られている。A型、B型、AB型の血液型(非O型)の人は、O型の人よりもリスクが高いのだ。たとえば、2017年の報告は、非O型の人はO型の人より心筋梗塞など心血管系疾患を起こすリスクが9%高いとしている(Non-O blood groups associated with higher risk of heart attack, Science Daily, April 30, 2017)。理由ははっきりとはわかっていないが、O型の人ではフォン・ヴィレブラント因子という血液凝固にかかわる成分のレベルが、他の血液型の人に比べてかなり低いことが関係しているのではないかといわれている。そのためO型の人は非O型の人より出血が止まりにくいとされる。逆に、非O型の人はO型の人に比べ血栓ができやすい。
O型と非O型の心血管系疾患リスクについては、今回のCOVID-19の後遺症にかんしても同様の傾向がみられた。先の研究報告によれば、COVID-19で入院した非O型の血液型の人では、心筋梗塞や脳卒中などの血栓性疾患の発症リスクが、O型の人に比べて著しく上昇していたという(ハザード比が前者は1.65なのにたいして後者は0.96)。
COVID-19では、パンデミック初期から血栓性の症状が報告されている。メタボリック症候群や糖尿病のような既往症が重症化につながりやすいのも、これらの疾患ではアテローム性動脈硬化が進行していることが多いことが理由の1つと考えられる。今回の研究は、COVID-19感染によってもたらされるリスク上昇は一時的なものでないことを示した。ただし、この研究はあくまでイギリスのバイオバンク登録者を調べたものであり、その多くはヨーロッパ系の人々である。そのまま日本人に当てはまるかどうかを知るには、別の研究結果を待たなければならない。