
初心者が25鍵盤MIDIキーボードを使ってはいけない理由
駆け出しDTMerの机画像を見ると、結構な確率で25鍵のMIDIキーボードが置かれているが、そもそも25鍵盤のMIDIキーボードは上級者向けアイテムだ。絶対にメイン鍵盤にしてはいけない。
今回はその理由について書いていこうと思う。
なぜ25鍵を選んでしまうのか?
25鍵MIDIキーボードは価格が5000~10000円程度と比較的安く、場所も取らないため初心者に選ばれやすい。しかも手軽に持ち運びもできる。
……しかし少し考えてほしい。例えば下のモデル「microKEY2-49」(49鍵盤)だが、
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/209190/
14000円程度なので頑張って少し多く払えば鍵盤数が2倍になる。
また、ミニ鍵盤なので幅70センチ程度。小学生の部屋によくある学習机の一般的な幅は80センチ程度らしいので、ほとんどの机に載せることができるだろう。
(ちなみに、フルサイズの49鍵の場合、幅は85センチくらいになる)
唯一の欠点は持ち運びがしにくい点だが、そもそもお聞きしたい。この1年で、何回外に持ち出して作業した?
おそらく数回なのではないだろうか。しかし、もしかすると事情があり頻繁に外に持ち出している方もいるかもしれない。だがその場合なら、持ち出し用に25鍵を別に持ち、メインには鍵盤数が多いものを使えばいいだけなのだ。
また、学生に使っている理由を聞くと「自分は鍵盤を弾けないし、音の確認ができればそれでいいです」という声が多い。これは自分が死ぬほど聞いたフレーズである。
結論から言うと、25鍵ではその「音の確認」すら満足にできない場合が多い。何故かと言うと、鍵盤楽器やシンセは基本的に両手で演奏するため、少ない鍵盤数だと片手ずつしか鳴らすことができない場合が多い。
つまり、25鍵ユーザーは両手で鳴らした状態を予測しながら打ち込みをし、再生ボタンを押した時点で初めて両手で鳴らした状態のものを聞く、という制作になりやすい。上級者向けと言ったのはこのためである。
鳴らした時点で運良くイメージ通りであればそれでいいが、イメージが違っていたらもちろんやり直しだ。結果、トライアンドエラーが多くなり時間がかかりすぎる。
ひどい場合だと、25鍵を使用しているがゆえに両手でピアノを鳴らす、という発想に至ることができない人すらいる。
25鍵MIDIキーボードの危険性
以上のような理由で、初心者が25鍵MIDIキーボードを使うのはかなり危険な選択というのがお分かりいただけただろう。25鍵という鍵盤の少なさにより、アレンジの発想力を大きく制限させられてしまったり、無駄な時間を取られたりする恐れがある。
たとえば下のようなGコードを25鍵盤で押さえたとする。素晴らしい、両手で押さえることができているね!

しかし、もう少しコードに厚みがほしいので、左手を1オクターブ下げるべき場面というのがある。

当然ながら、25鍵ではこの弾き方はできない。そのため、ルートが1オクターブ下がった状態で弾いているのを想像しながらアレンジしていく必要がある。もちろん、再生ボタンを押すまで実際にその状態になった音を聴くことはできない。
鳴らしていないのに「おそらくこんな感じの厚みで鳴るだろう」と予測できるのは、もう上級者と言っていい。あなたはその領域に入っているだろうか?
そもそも、25鍵を使っているために「1オクターブ下げてコードに厚みを稼ぎたい」という発想にすら至れない可能性もある。
別の場合も考えてみよう。下図のように、25鍵でDコードを押さえた場合を想定してみよう。

今度は逆で、サウンドが厚すぎるので、少し軽い感じにしたい。そのため右手の音域を上げる必要がありそうだ。
ここで25鍵ユーザーはオクターブシフトボタンを押して、右手が1オクターブ高い状態になったボイシングを試すことが多いだろう。

しかし、ここにも罠が潜んでいる。25鍵ユーザーはオクターブシフトボタンに頼りすぎることが多い。
オクターブシフトボタンで簡単に音域を上げることができるので、下のような右手を転回させたボイシングをあまり試さないのだ。


オクターブシフトボタンを使うと極端に音域が上がってしまうので、今度は音が軽くなりすぎる、という事態が発生してしまうことがある。
鍵盤が少なく、押さえ方が大きく制限されるため、右手を転回させてちょうどいい厚みの箇所を見つけるのが困難になるのだ。
鍵盤が少ないと、ボイシングをどうするか?という試行錯誤を行うことが困難になるため、音の適切な厚みのコントロールができなくなる。
結果として、音に厚みや迫力が出なかったり、音域が低すぎてもっさりしたサウンドに陥りやすい。どの音色をどのくらいの音域で鳴らすのか?という試行錯誤ができないと、アレンジがいつまで経っても上達しない。
また、コードからコードへ繋ぐときも、鍵盤の少なさによって、適切なボイシングに移動することが困難になることもあるだろう。弾きやすい調、弾きにくい調というのも出てくるはずだ。
繰り返しになるが、25鍵は上級者向けのアイテムだ。足りない鍵盤は脳内で補完するしかない。
制作に必要な最低鍵盤数は?
自分の経験も踏まえて言うと、音楽制作に必要な最低鍵盤数は49鍵だ。
ピアノの音域を広く使うピアノバラードなどは少し工夫が必要かもしれないが、シンセを使ったデジタル系のジャンルは49鍵で十分制作できるはず。
49~61鍵程度あれば、両手で押さえてどんな感じで鳴るのかを試聴したり、和音を転回させて最もいい感じに鳴るポイントを探ったりしやすくなる。
自分は長いあいだ61鍵のシンセサイザーをMIDIキーボードの代わりとして使っていたが、その後76鍵→88鍵と徐々に鍵盤を増やしていっている。置き場所が確保できるのであれば、鍵盤数が少ないメリットは一切ない。完全に「大は小を兼ねる」だ。
キースイッチ用としてはあり
25鍵が唯一輝くとき、それはキースイッチ用のサブ鍵盤として、メインキーボードに乗せて使用するときだ。
ストリングス音源、ギター音源などは、低音鍵盤にあるキースイッチ(奏法を切り替えるための鍵盤)を押して演奏表現する必要がある。49鍵~61鍵では微妙にキースイッチのある音域に届かないことが多く、オクターブシフトの上下を何度も押すのが煩わしい。そのため、25鍵のほうをキースイッチ用として使用すると作業が楽になるのだ。
自分も61鍵時代にはサブ鍵盤を使用していたが、88鍵を使用するようになってからはあまり使うことはなくなってしまった。
さあ諸君、机に49鍵を置け
自分がこの記事で最も伝えたいのは「25鍵は上級者向けアイテムである」ということ。25鍵MIDIキーボードの手に取りやすい価格、コンパクトさによって、それが隠されてしまっているのだ。
DTMが上手くなりたいのであれば、25鍵は絶対に使い続けてはいけない。49鍵、できれば61鍵を置いて、両手で音色を確認するようにしよう。何度もそれを繰り返していれば、楽器のおいしいポイントがわかるようになり、サウンドの質もどんどん良くなっていくはずだ。