仙台の食品工場は、仙台市の南、海沿いの工業地帯に位置していたが、この場所は、小高い山がいくつかある麓で、いくつかの町があるものの畑が一面に広がっていたが、都市開発のため工業団地建設が10年ほど前から活発化し、その時に一番安い土地を購入したてたのだった。すぐそばの山側には石炭採場があり、粉塵が多いことが低価格の一つの要因だった。当社は完全隔離した食糧工場、上から見ると一つの大きなボックスが土地いっぱいにたち、それ以外は従業員たちの車だけだった。資材搬入のトラックさえ、そのボックスの中に直接入り、中で積み降ろしや荷積みを行っていた。
工場内は最新おバイオテクノロジーと工業生産プロセスにより完全自動化、されており、作業者たちは主に装置の監視、製造された食品の品質チェックなどを行い、直接食糧にさわることはなかった。空気などは外部から取り込むもののエアーフィルターが完備され、工場内全体がクリーンな環境が整備されているのだった。建設当時、大泉もプロセス稼働に尽力したが、それ以来あまり来ていなかった。設計図は頭におぼろげながらのこっているが、それから改造されたことは聞いていなかったので、工場内にトンネルの入り口があるとは思っていなかった。
仙台工場に到着した大泉は、巨大ボックスの中に入り、昔の知り合いに挨拶しながら、視察に来たと思わせるためにいろいろ見て回った。
「や、久しぶり。いい工場だ。稼働状況は業務レポートでみてたので満足です。今回、この工場も私が見ることになりましたので、よろしく。」と会う人すべてに挨拶する大泉。ボックス内のトラック搬入エリアに出て、様子を見るがいままでと大きな違いはないと思った。北側に設計されたトラックエリアは、西から入り東に向けていく、ボックスの北側全部が搬入搬出エリアで、トラックをバックでつけれるように、のこぎり上に設計されている。これは、面積効率とスループットを上げる最良に方法になっていた。しばらく進み、東に近くなったある場所にトラックを洗浄する部屋が新たに作られていることに気づき、中を除くと、ただ、トラックが洗浄されている様子が見られただけだった。そのエリアを通りこして、次に進もうと歩き始めると、ふと、ある事に気がついた大泉は、再びその中をのぞきこむと、トラックが地下にまるでエレベーターに乗っているように、下に沈み、そして次に違うトラックが上に上がり、走りさって行くではない。
結局、ここが地下トンネルへの入り口で、我が社が放射性物質とダイヤモンド鉱石の取引に関与していることが明らかになった瞬間だった。このことを確認できたので、今日は、なにも知らないふりして工場を後にした大泉は、状況をCIAに連絡し、東京にもどるため、ホテルで支度をしようと戻っていった。
早速九州に飛んだ大泉は、北九州市に降り立った。北九州市は古くは製鉄で発展したが、今では、製鉄業は廃校し、町も活気が亡くなっている。しかし、この地域は日本海に面した大きな港湾設備があり、中国やアジアからの荷揚げの設備は十分に整っている。また、広大な空き地が残っており、しかもただ同然の価格で売りに出されていた。そこで、大泉は北九州市長を訪れ、広大な土地を購入し、最新鋭の食品工場を立てること、その際、約束として税品を限りなくゼロにしてほしい、そうすることで雇用は創出できることを掛け合い、了承を得る事ができた。
港湾設備からの道路の舗装は必要なく、港湾のすぐ隣に工場を建設できる土地を手に入れることができた。そうすることで、運搬費用の削減、そして、中国からの入荷と搬出をスムーズに行うことができる。工場建設の図面起こしを始めるために、青写真をいつものシンキング手帳に手書きでスケッチし、構想を練る大泉は、そういえば、放射性物質とブルーダイヤについては今回の工場建設で私にも明らかにするのだろうかと、疑問を感じた。
東京に帰り、計画の青写真を竹村社長にご説明した際、この件みはちゅーさんも入れて2人でやってくださいと言い渡された。予算作成を1ヶ月と、超短期間の立ち上げの指示。これは大変と大泉はその場で神戸の何人かのサポートの許可を求め了承された。しかし、指示事項として計画の骨子はサポートチームには言わずに実行タスクのみ指示すること。全容は教えるな。なんか変だなと思っている矢先に竹村社長がおもむろに言い始めた。
「実は、この工場んp建設の際、幾つか極秘のプロジェクトも任したい。以前から取り組んでいる、国防関係の仕事です。工場の地下にいずれお渡しする図面の設備を導入するスペースの建設もお願いします。これは極秘です。ちゅーさんのみ話してもいいですが、それ以外は私のみです」と言い渡された。無言で頷き部屋を後にした大泉は、内心、釣れたと思っていた。
北九州市の工場計画を準備し始めてすぐに、竹村社長から、地下の図面が手渡された。仙台工場で見た、トラックヤードのトラック洗浄工場とエレベータ構造、広大な地下スペース。何が入るかは書かれてないが、かなり広く設計されている。大泉は竹村社長にそのスペースを何に使うかは聞く事はなかった。放射性物質かもしくはブルーダイヤモンドの工場なのか、何に使われるのかも分からないが、建設届けには記載されていないため、秘密の工場であることは間違いなかった。
竹村社長の指示で、上海に飛んだ大泉は、再び、ちゅーさんと会食していた。いつもの個室の中華料理店。相変わらず、むちっとした身体にぴたっと張り付くような真っ赤なチャイナドレスを着て現れたちゅーさんはすぐに大泉を虜にしていた。一通り、増産計画について話た後、個室での二人の楽しみを満喫し、二人とも息絶えたような開放感に浸っていた。
「ねえ、大泉さん。竹村社長から、ブルーダイヤモンドの話は聞きました。」と突然、ちゅーさんが切り出してきた。その時には、すでにチャイナドレスを身につけ終えて、鏡に映る姿でチェックしていた。大泉はそそくさと身につけ、話を会わせ始めた。
「いいえ、その事は何も聞かされてないですね。ブルーダイヤモンドですか。何に使われてるのですか? 地下のスペースは関係しているんですか?工場建設はそろそろ終わりますけど、設備は何を入れるのか全く聞かされていないんです。」と大泉はちゅーさんが話し始めるのを少し待った。
「そうですか。まだ、ダイヤモンドのことは聞かされてないですか。ブルーダイヤモンドは宝石として非常に高価ですので、竹村社長たちの収入源となってますが、実は、ブルーダイヤモンドに特殊カットを施し、そこにあるレーザを当てると非常に協力な光線を四方八方に発信し、沢山の人を殺傷することができる兵器になります。それと、もうひとつ、放射性物質が関係しているのかどうか。そこがまだ不明です
おそらく北九州市の地下工場で何かが作られると思います。それをさぐりましょう。」とちゅーさんは大泉に伝えたあと、すぐに中華料理店を後にした。大泉は一人残された店の中で、これからどうしたものかと思案していた。
東京本社に戻り、工場建設の状況報告を竹村社長に行う、大泉は、それとなく、地下工場の使い方について探るために、搬入物についてなどを、報告後の雑談にまぎれて探り始めた。竹村社長は表面上は特に変化無く、喋り始めた。
「そうですね。あのスペースの使い方はまだ説明してませんでした。あの工場の地下では新しい製造設備の試作と食品の試作を行う予定です。上海のドクター・チャンさんが考案した新プロセスを試すのですが、これがなかなかうまく行ってないのです。原因は、環境の影響と言ってますが本当かどうか。その検証も兼ねてます。もしうまく行けばかなりの収益源になることは間違いないのですが。」
「そうですか、搬入はそろそろできますので、タイミングはご連絡ください。受け入れ準備を進めますので。」と大泉は竹村社長に告げた。
その日遅く竹村社長から搬入は明後日の夜11時からから行う。立ち会うようにと指示が出た。
仙台工場に続いて、北九州工場の立ち上げは順調に進み、いよいよ例の地下工場への搬入の運びとなった。竹村社長から立ち会うようにと指示を受けた大泉は、夜21時には搬入車両が次々とトラックヤードに入り、コンクリートで覆われ、中が見えない洗浄エリアの秘密のエレベータでどんどん地下に運ばれ、空荷になった大型トラックが排出されていた。大泉は誘われたわけではないが、地下に降りるために洗浄エリアに入り、次に来たトラックと一緒に地下におりて行った。そこでは青い光が満ちていて、別世界の雰囲気を醸し出し、地下工場の奥に進むと、先端技術と一眼でわかるチャンバーとそこから溢れる青い光が、すでにそこで何かが動きだしていることを示し、自分の腕に巻かれたガイガーカウンターも若干の放射線を感知したことを示す弱い光を発していた。
大泉はふとチャンバーには地上からのダクトが日本繋がれていることに気がついた。無数に並べられたチャンバーの一つに近ずく大泉はチャンバーの中を覗き込んだ。どうやら上海で作られたバイオジャガイモやレタスなどの食材がチャンバーの中で青い光のシャワーを浴びせられ、また地上に戻されているようだ。放射性物質を浴びた食材はまた地上に戻されているので、当社の商品が放射性物質になり、それを人々は食べることになるー。たくさん食べると被爆することになるかもしれないと、大泉はなぜこんなことを竹村はするのか、目的が理解できないが、これを食べた人はある時体調不良になることは間違いない。これは報告せねばと大泉はその場を離れて、地上に戻り、搬入作業が完了する間その場で考えながら時間を過ごした。
東京に戻った大泉は、工場の立ち上げ状況を簡単に竹村社長に報告した後、上海の工場に向かい、食材の調達状況を視察するために羽田空港から上海国際空港に飛んだ。空港でちゅうーさんが、また、真っ赤なチャイナドレスで迎えてくれたのは嬉しかったが、北九州工場のことを簡潔に伝えると、いつもの中華料理店に入り、例のCIAの男と三人で対応を密談した。食品が放射性物質となっていることで、日本での人体への汚染とその後遺症の影響で死亡者が増加するが、その原因を特定することは難しいかもしれない。また、放射性物質による汚染食品が出回ったことが世間に知られるとパニックが発生するかもしれないことから、日本経済は大きく混乱することが想像できた。
ちゅーさんと大泉は、放射性物質の日本への密輸を今やめさせるべきとの意見であったが、CIAはまだ、竹村の企みの全容を着かんでいないので、その処置はできないと言って、突っぱねた。それよりも、仙台工場から運び出されたものの行方が分からないことの方が重要で、その調査を大泉がするべきとの意見であったが、そもそもその調査はCIAの別のチームがすると聞いていた大泉は、自分の身の安全のことも気がかりで調査に乗り出すにみ中書していた。
「な、大泉さん。これは、日本人と日本の国家として一大事です。ここまで組織に入り込めたのは大泉さん、あなただけですので、やるべきです。」とCIAの男は、小型のペンシルを大泉に手渡しながら、少し優しく微笑みながら、話した。
「しかし、私は何も訓練も受けてないですし、それにこのペンシルはなんですか? これで何を私にしろというのですか。」とペンシルを受け取り、しげしげと見ながら伝えた。
「小型のピストルみたいなものです。フックを回して、ノックすると先から針が飛びます。その針はしびれ薬が入っていた、人間なら1時間は眠らせられるので、きっと役に立つでしょう。あ、それから、それは、空港などでのX線装置などにも問題なく通過できるので常に身に付けておいてください。
だいたい、100回打てますので。」と、すでに、大泉が調査をする事が決まっているかのごとく、説明を続けるCIAの男のそばで、ちゅーさんは、じっとして話を聞きながら、スマートフォンでメイルを送信していた。
「何をしてるんです。ちゅーさん。こっちの話に集中してもらわないと。チューさんには上海の動きを逐次私に教えていただかないと。連携しないと調べる事は不可能ですよ。」と、少し不安なところを隠す事ができずチューさんに助けて信号を送る大泉は、少し自分が情けないようなきもするのだった。
ブルーダイヤモンドにより発信されるレーザーと放射性物質との関係性がよく理解できない大泉は、CIAの男にレクチャを受けていた。CIAによると2つの使い方が想定されている。一つは北九州工場で大泉が目撃したもので、ブルーダイヤモンドから発信された光を放射性を持つモンゴルの鉱物の薄くスライスしたシートに通すことで、光そのものに放射性を持たせることができ、その光を浴びるとDNAレベルで異変が起こり、放射性を帯びる物質となる。ただし、それは、潜伏期間があり、ある一定の時間が過ぎないと、検査装置で検知することができないようだ。もう一つは、もっと恐ろしく、新型の核爆弾のようだ。
ブルーダイヤモンドから発信されたレーザ光をモンゴル鉱物をあるサイズで、特定の形状に加工されたものに照射すると、ある臨界値を超えると、凄まじい威力の核反応が起こることが中国の国立研究所で発見されたとの極秘情報がCIAに入っており、おそらく、その爆弾を製造に使われていると当局は考えているとのこと。そして、そのどちらもが、中国による日本侵略もしくは日本壊滅のシナリオを成立させるステップになっていると想像していることも大泉はここでようやく知らされたのだった。ようは、日本を壊滅させるか、支配するかのどちらかをもくろんでおり、その片棒を竹村社長はなんらかの見返りをもらいながら、対応しているとしか考えられない。
大泉は、自分の家族のこともあるが、日本が中国に負けるのだけは許せない。これだけ支援している中国なのに、勝ってすぎる。と感じながらも、無力なんだよ、俺はと思わざるおえなかった。
上海から神戸に戻り、兵庫県立大の大岩教授を大泉は尋ねた。例のブルーダイヤモンドと鉱物を通して放射性物質を植物などに照射することでどんなことが起きているのか、元々理系だが物理学はさっぱり分からない。遺伝子工学の知識は少しあるので、その関係でいろいろ考えてみたが、正解にはたどり着けそうになく、アカデミズムにいる大岩教授だとヒントが得られるかもと尋ねることにした。教授室は質素で、普通、本や資料でごった返していると思いきや、壁に少し本と資料があるだけで、デスクの上も広いがノートパソコンとノートが広げてあるのみで、スペースが十分に開いていた。
「先生、お久しぶりです。その節はお世話になりました。あのデータのおかげでなんとか私の身の潔白は明かす事ができました。ただ、今もっとややこしいことに巻き込まれてまして、できればご助言をいただきたく、参上しました。でも、他言無用でお願いできますでしょうか?でなければ、ある程度のこともなかなかしゃべれなくて。」と大泉は大岩教授の目を見ながらお願いした。
「ううううん。。 どうでしょうか。聞いてみないとと思いますが、実は御社からかなりの研究予算をいただいている事はご存知と思います。先日竹村社長もSpring8をご見学された際、私がご案内したのですが、かなり前からの付き合いです。ですので、会社のことについてはご心配なく、他言無用で対応いたします。それでなんでしょう」と大岩教授は大泉の目をじっと見返して催促した。
しかし、その目の奥に潜む何かを感じた大泉だった。
「そうですか。できれば竹村社長にも、だれにも秘密にしていただけないですか。時期を見て私から竹村社長にはご説明しますので。実は上海工場のことですが、どうやら、少し植物の遺伝子に異変があるようなのです。その異変が仙台の工場のプロセスとからんで、何らかの突然変異を起こし、人体に悪影響を及ぼすことになる可能性が心配でして、そのメカニズムと安全性というか、不安材料の有無を確認する手段を今探してまして、Spring8でなんとか評価できないか、ということでして。もし評価可能となれば、さらに研究予算を増額してお願いすることになるかと思います。いかがでしょうか?」と大泉は知りたい事を聞き出すが、できるだけ秘密には触れずに話を続けれないか、頭はフル回転しているのだった。
「そうですか。それでは、上海工場の原料、プロセス後の出荷物、仙台工場の出荷物をそれぞれ適量お送りください。同一手法で分析して遺伝子構造や結晶構造や原子構造などの状況をみてみようではないですか?もちろん、すでに遺伝子分析を行っているが、それでは判別できなかったということでしょうから。物質の構造と遺伝子の原子構造をみてみますか。どうです大泉さん」と大岩教授は何の疑いもなく依頼を受けるような態度で話を進めてくれている。大泉は、2、3日後にすべて届けさせると約束し、大岩教授室を出て、東京に向かうため姫路駅にタクシーで向かった。
タクシーで姫路駅に入る直前に携帯電話が着信のアラームを知らせてきた。画面には竹村社長からのメイルであることを告げる表示があり、すぐに本社にもどるようにとのこと。ひょっとしたら大岩教授の件が竹村社長にばれたのかもと大泉の直感がアラートをならしていた。どちらにしろ、本社にもどり、必要なら対決するしかないと大泉はなんとなく覚悟を決めるのであった。
東京本社。竹村社長室。大泉は竹村社長と対峙して座っていた。何のことかとハラハラして駆けつけたが、結局、北九州工場立ち上げが順調なことのお祝い会をするため呼びつけたのだった。ただし、銀座に出向く前に、追加のお願いがある。そう言われて、1分が過ぎたが、竹村社長は何も言わない。じっと自分の手帳を見ながら考えている。ひょっとして、CIAとのことに感づかれたのか、と大泉は、自分の心拍数が徐々に上がって行くのが気づかれないかと、必死で自分の振る舞いをコントールしていた。
おもむろに口を開く竹村社長。「な、大泉君。兵庫県立大では何をしてたんだい。大岩教授からメイルがあったよ。何やら遺伝子構造がどうのこうもと、私は全く内容がわからないんだけどね。」ここで言葉を止める竹村社長。大泉はどうするか、フル回転した。
竹村社長と対峙して座る大泉は、背中に汗をびっしょりかいていたが、どう切り抜けるか頭はフル回転し、不思議と落ち着いていた。と、いうか、完全に集中していたのでトリップしたような心理状況だった。
「それがですね。社長。北九州工場の立ち上げ中にふと思いついたんです。上海工場でもう少し遺伝子操作に工夫をすることで、健康食品ができないかと。特に、福島のように原発の事故で放射能の見えない恐怖を気にしながら生活しているところとか、原子力発電所で働く人や核兵器の近くで働く人のための健康食品です。
新しいコンセプトでして、その狙いは、放射性物質を食品が吸収して、体内から除去するデトックス効果が狙えないかと。ま、たんなる思いつきですので、その説明は教授にはしてませんが、その予備調査にいろいろ遺伝子構造解析をお願いしたというわけです。」と良いストーリだと思いながら、すらすらと説明する大泉。
「そうですか。じゃ、少し進んだら教えてください。新コンセプト、いいじゃないですか」と少し引きつったような笑顔で答えた後、電話をとり移動することを告げた。無言で同時に立ち上がる二人は、味方なのか、敵なのか、と第三者からは到底わからない会話だった。
ハイヤーで移動した先は、銀座の高級料亭で、大泉は初めてだったが、出迎える様子からするとどうも常連らしい。赤い門仕立ての入り口から入ると、靴を脱いで一段高いところの木ばりの廊下を進む。一番奥のところを右に曲がり、突き当たりの襖を開けると、左手にはミニ庭園が見れる雰囲気の落ち着いた座敷だった。堀があり、足は楽に下ろせるところが大泉はホットするところだったが、料理が始まると少し緊張して、話すのを忘れて食べる事に集中するほど美味しい料理ばかりだった。気まずいと思い、大泉は話始めた
「今日はありがとうございます。北九州工場は順調に立ち上げることができました。予定より早く出荷検査をすませることができると思います。ただ、地下工場の扱いをどうするかですが、何か良い案がありますでしょうか。工場検査の際、地下は秘密にしたいのですが、」と大泉は、自分は社長の味方ですといいたげに話かけた。
大泉はどうしても聞く必要があると思い、話し始めた。
「あの、地下工場の設備のですが、何を入れているかおしえていただけないでしょうか。何に関連しているのかよくわからないのです。」
しばらく、何も言わない竹村社長。そして、おもむろに話し始める。
「そうですね。あれな、モンゴルの鉱山で見た鉱物にかんけいしています。
植物の欠陥を除去してより栄養価が高く、そして、健康に良い作用が付加できることがわかったんです。まさに大泉さんが先ほど言っていたことと同じことをすでに始めているわけです。どうですか、その件について、責任者として進めて見ますか。そうすれば副社長になることは間違いないと思います。」とここで竹村社長はは大泉の目をじっと見て試すような眼差しを向けて沈黙した。
どうすべきか、躊躇すれば疑われる、しかし、深みに入り、どうなるのだろう。いやいや、ここまで来たのだから行くしかない。
「是非私に任せてください。全力で取り組みますので、面白いかんがえです。その技術的なところはどなたに相談すればいいのでしょうか? まず、理解してから取り組みたいと思いますので」と大泉は、焦ってないようなフリをして、精一杯前向きな雰囲気を醸し出し、努めて明るく、未来に期待しているというように表現した。
「そうですか、それでは、兵庫県県立大の大岩教授に連絡しておきます。あの方が技術開発責任者で、多額の研究費を社長口座から直接しはらってます。もちろん会社としてですが。」とそこまで言った竹村社長の目の奥にキラリと光る、あざ笑うかのような光が点滅したことを大泉は見逃さなかった。
「わかりました。それでは、大岩教授に連絡を私からもとります。」と言った大泉はすこし日本酒を舐めてから、最後のシメの鯛ご飯に箸をつけた。内心、捕まったように思えたが、進むしかないことは確かだった。このことを連絡を入れてから、ペンシル型の武器の練習とチェック、それから補充をお願いする必要があることを心のメモに記載した。
大岩教授の研究室。大泉は先生と対峙するかのごとく、警戒して話を聞いていた。教授から、5年前から放射性物質による植物のDNA改良の研究、特に、前後の変化の分析を依頼され、取り組んできた。実は、そのアイデアはどうも中国のバイオ工場の人が発案したようだった。ドクターチャン。その人がどうやらキーマンのようだ。
ということは、はじめから私は竹村社長に取り込められる計画にまんまとはまったということかもしれないと、内心、大泉はがっかりしたと、力が抜けて行くのが自分でもわかった。しかし、ちゅーさんやCIAはどうなんだ。そえも竹村社長とグルなのだろうか。それとも、そこは本物で、中国と竹村社長の企みを阻止したいのだろうか。それは大泉には既に疑うべきとのアラームがなっていた。
大岩教授はどうやら全体像はしらず、分析のみ協力しているようだった。ブルーダイヤモンドのことも知らないのか、モンゴルで採掘されている鉱物の話はまったく理解できないようだ。しかし、ひとつだけヒントがつかめた、放射性物質を浴びた植物のDNAは一見人体に無害のように見えるが、胃液とまざることによって突然変異し、毒性を示す。とくに、神経を徐々に蝕み、身体が動かなくなる、さらに、薬物と同じで、幻覚も見えるように脳内物質に影響することを大岩教授は見つけ、竹村社長に報告した。その後も同じような分析は続き、今もSpring8を使って分析を進めている。その突然変異の確率がどうも高くなっているようだとも大岩教授は大泉にすこし心配しながら話していた。
大岩教授と大泉は2時間に渡り、教授室で議論していた。竹村社長の狙いが大岩教授はよくわからない。
「大泉さん。はじめは多額の資金をいただけるので何の躊躇もなく、協力していました。しかしですね。特に、ここ数ヶ月の間にさっき言った、っ津禅変異による毒性の示す確率が高くなっていている。しかも、今までは40%ぐらいだったのが、90%近くにまで高くなっている。竹村社長に話すと、心配いらない。もうこの手段は適用を諦めたから、世間に出回ることはない。しかし、今度はこのプロセスを改良して、できれば理想の健康食品を作りたい。そうするには、そのメカニズムの解明が必要なので先生にお願いしつづけているのです。お願いします。もとは健康食品でしたから、狙いは。毒物なんてもってのほかだ。と言うばっかり。しかし、今回のサンプルも毒性は安定していて下がる気配もなにもない。これは、生物兵器ですよ。味方によれば」と大岩教授は、落ち着けない様子で大泉に話し続けた。話を聞きながら、何も言わず、真実が何かを頭の中で考え続けていた。
「先生。あまり心配する必要はないようです。先生は分析しているだけですから、何かあっても大丈夫でしょう。それより、その植物はどこで、誰が、どのように処理しているかですね。それを見つけないと、阻止する事もできない。」と上海だけでなく、北九州でもこの処理を始めていることは明らかだった。そして、当社の食品に仕込まれた毒物が、出荷される。後3日で出荷開始だ。何としても阻止しないと。大泉は、北九州に向かうことにし、教授室を後にした。
大泉は、北九州の工場に着くと、すぐに出荷を停止し、地下工場の視察を強行。屈強な男が2名現れたが、ペンシルを使うとあっというまに倒れたので、驚きながらも、息があるかどうか確認することはできずに、地下工場の電源を落とす方法を探していた。地下工場の一番奥の部屋に入ると、そこには、チャンバーの解体されたものが置かれていた。調整中と書かれていた。中には何もないが、その横に、内部の発光部分が置かれている。
青い光は出ていないが、手のガイガーカウンターは反応を示していた。あまり長い時間はダメだと思い、携帯で写真をとりさっさと部屋を出ようとしたそのとき、屈強な男が入り口から突進してきた。大泉は右にはねてかわすもののすぐに捕まり、格闘の状態になり始めた。そこで、ペンシルをだして反撃しようとしたが、はねとばされた拍子に、ペンシルを手放してしまう。そのペンシルは発光体に飛んでいき、接触したとたん、もの凄い轟音と光が発せられた。床に押し付けられていた大泉は幸い光りを見ることも浴びることもなかったが、上から多い上総っていた屈強な男はもろに光りを浴び、悲鳴を上げてはね飛び、床に倒れてもだえていた。
見ると肌がただれ、放射線をあびた状態と同じだった。ようは、光は原子爆弾と同じ機能があるのだった。
床をはいながら部屋を出て、急いで地上にでる途中、ほかの装置も光がだんだん大きくなってきている。止めるすべは大泉にはないので、地上に出るしかなかった。地上に出てくるまで急ぎ、逃げ出した大泉は、2、3分全速力で車を走らせていたふが、一瞬、揺れを感じたのでバックミラーを操作して工場の方をみると、上空に向かって火の柱がたっているのは見えた。手のガイガーカウンターは大きくは反応していないので、被爆はなさそうと少し安心していた。空港まで走り、すぐに上海行きのチケットを手に入れ、日本から中国に向かったのだった。
上海に降り立った大泉はすぐにちゅーさんと合流した。その時にはすでに心は植物工場とモンゴルの鉱山のことでいっぱいになっていた。明らかに、竹村社長はなにかを隠している。それが何かを突き止めるには、鉱山で採掘されているブルーダイヤモンドが何に使われているのかを突き止める必要があった。ちゅーさんに北九州工場でのことを伝えたが、すべてを話すことはやめた。究竟な男に教われた事は話さず、工場を後にしたとき、突然、後方で大きな音がしたので振り向くと、黒煙が立ち上がり、工場がダメになっていることを確信したと。そして、その原因は全く分からないが、引き返すのはよして、上海に来たと伝えた。ひょっとしたら、ちゅーさんも私の敵ではないかと直感が警笛をならしているので、今まで通りの会話をしながら、いままでにない何かのサインがないか、意識して注意した。
上海植物工場に向かうメルセデスの後部座席にならぶ大泉とちゅーさん。ハイウエイはいつものように渋滞し、空はスモッグで灰色に近かった。
「ね、大泉さん。本当はなにかったんですか。北九州で。ブルーダイヤモンドが関係しているんでしょ。」とちゅーさんは確信を探ろうと話かける。
「いや。そうだ。放射性物質とブルーダイヤモンド。この二つがどう関係しているか。それに竹村社長が何をしているのか。それが知りたい。ちゅーさんもそうでしょ。我々は、それを、その確信を探っているはずですが」と大泉は、一番の疑問点をほのめかした。本当に、例のCIAもちゅーさんもみかたなんおだろうか。それが分からない今、駒を出しながら前に進むしかない。
「そうです。ブルーダイヤモンドと鉱物、放射性物質ですね。それを使って、大規模なテロを中国政府が企んでいると前からにらんでました。その事を、ほら、亡くなられた奥寺さんも探ってました。彼は私たちのアンダーだったんです。残念です。もう少しだったんですが。」とちゅーさんは新しい真相を一つまた明らかにした。それを聞いた大泉は、複雑な気持ちになっていた。敵だったと思っていたが、味方だった同僚の顔を思い浮かべていた。
ちゅーさんの声で我にかえる大泉。どうやら、植物工場に着いたようだった。ゲートを潜りエントランスに滑り込んだメルセデスをおりた大泉は、ロビーを見渡しいつもの様子と違いがないか確認していた。受付のチャーミングな女性に声をかけて、ゲートを素通りし、最上階のドクター・チャンのオフィースにちゅーさんと向かった。
ドクター・チャンは留守にしていたが、執務室に入ることができた。綺麗な花がデスクの中央に添えられていた。蘭。ドクター・チャンが好きな花だ。大泉は、デスクの前に座ると、PCを立ち上げ、あらかじめ秘書に確認していたIDでログインした。数十秒でシステムは立ち上がり、メインフレームにアクセスし、ファイルシステムを立ち上げた。
フォルダ名をちゅーさんと見ながら、どこかにヒントがないか探り始めたが、数分で、一つのフォルダの青く底に格納された、竹村社長とのメイルが保存されているのを見けた。
メイルといくつかパスワードが設定されてファイル群。大泉は、CIAから渡されたデータ収集用ツールのUSBをPCにさして立ち上がったシステムを使って、そのフォルダの全データをUSBに吸い上げた。その時にちゅーさんが教えてくれたが、USB経由ですでに吸い上げたデータはCIAに送られている。10分ほどで吸い上げ完了し、少し気になったので、もう少しファイルシステムの中をうろうろしていると、メイルの着信を知らせるポップアップが立ち上がったので大泉はポップアップをクリックし、メイルを開けた。
「ドクター・チャン。天地創造。X」とだけ書かれていた。