ねえ、大好きだよ
夏が終わる。
8月始めの暑い時期、「お盆は帰ってくるの」
とお母さんから尋ねられた。
帰省時、よく前日に「帰るかも〜」だなんて急に連絡をする私と
「もっと早く言ってよ、お母さん仕事休みにしたかったな」
とお決まりみたいなお母さんとの会話がいつもそこにある。
「ちょっとまだ分からない」
お茶を濁す。
こんな時だけ察しの良い母は、何も聞かずに
「仕事頑張ってね〜」
という言葉と共に最愛の愛猫の写真を送ってきた。
毎回この手書きの文字のクリティが愛おしくて笑ってしまう。
(愛猫にいつも喋らせがち)
決まってピンクと黄色と時々使われる赤の線のハート。
機械に疎いお母さんが「まあ良いか」なんて笑いながらでも得意げに書いている姿が目に浮かぶ。
よく考えると
私は全く両親に会っていないことに気付く。
お母さんから絵文字でニッコリ笑ったその文面は
少しだけ私に、後悔をさせてくる。
実家に最後に帰ったのは、なんだかもうよく思い出せない。
別に仲が悪いわけではないし、むしろ家族とは仲良しだ。
でもやっぱり明確な成果や結果が無くては
少しだけ帰りにくかったりする。
最後に会った時に車で連れて行ってもらった
一軒家のアイスクリーム屋さんで言っていた「いろんなアイスクリーム屋さんのスタンプを集めているの」なんて言っていたスタンプは無事に目標に達したのだろうか。
月日の流れに驚きながらも新幹線で2時間の距離を、
私は明確なチャンスが無いときっと
会いに行かない。
一昨日、お母さんからメールが届いた。
「台風すごいみたいだけれども、大丈夫?」
些細なことかもしれないが、
お母さんは決まって東京で何かが起こると
私に連絡をくれた。
昨日も「電車は動いているの?」というLINEに私は朝、気付く。
私の仕事場の近くや、住んでいる区域、最寄りの駅で何かが起きると
「もう家に帰っているの?」
とLINEが飛んでくる。
家にテレビがない私は、それで事件を知ったりもした。
「私より東京のこと詳しいよ!」
冗談のような本当のことを
笑いながら伝えるとお母さんは、嬉しそうに笑う。
最近、会社で、周りで出産の話を聞く。
携帯を放り投げ出しそうになるほどの嬉しさと同時に
真っ先に頭に、でもぼんやり頭の中に浮かんだのは、お母さんの顔。
携帯のアドレスは、子供の頭文字が入っているし
お母さんの夢は子供が元気に過ごすことだよって言っているし
いつだって帰って来なさいって電話の度に言ってくる。
たった一つで良いのに
照れ臭いので言えない言葉が、多い。
一言が出てこなくて、ありがとうとか、ごめんねとか
そういう言葉って都合が良いなと思う。
次の電話では伝えられるのだろうか。
次なんて明確にあるわけでもないチャンスに
賭けている自分は
長野の天気予報をぼんやり眺める。