町田商店は家系ラーメンなのか
町田商店は家系ラーメンなのか
そも、○○は××なのかを白黒つけようとすること自体不毛であると思う。
でも最近、町田商店や壱角家などを「家系ラーメンでない」と論じる人をSNS上で見かけますね。それに同意する人、反論する人、色々います。
不毛な争いは避けたい。君たちはどうして争うのか。
考え込んでしまったので、個人的な意見を書いていきたいと思います。
町田商店は家系ラーメンである
最後まで読んでください。
まず、家系ラーメンの定義が非常に難しい。情報の正確性を求めるのにWikipediaはダメだと思いますが、中立的な解説がWikipediaしかなかったため引用します。
上記の条件からすると、家系ラーメンといってよいと思います。
うずらのトッピングがありますが、ほかの壱六家などの家系ラーメンでも見られるので、家系ラーメンのスタンダードから大きく外れているということにはならないでしょう。
Wikipediaの引用元の記事とリンクも載せておきます。
[2]
[3]
「家系ラーメン 豚骨醤油 海外に広がる」読売新聞 2014年4月6日 朝刊 神奈川版 27面
[4]
では、なぜここまで大きな論争が生まれているのでしょうか?
家系のスープ
Wikipediaを引用した部分に、
「豚骨や鶏ガラから取った出汁に醤油のタレを混ぜた豚骨醤油ベースのスープ」
とありました。
この水平思考クイズでは、
「スープは店の中で仕込んでいますか?」
という質問が非常に重要になります。
資本系家系ラーメンの台頭
家系ラーメンは、1974年、神奈川県横浜市で誕生しました。
吉村実氏が考案した豚骨醤油(醤油豚骨)ラーメンは、「○○家」と名乗ることが多く、次第にのれん分けなどで「家系ラーメン」が広まっていきました。
ある程度市民権を得てきたころ、いわゆる「資本系」と呼ばれる、外食産業チェーンの企業がこの家系ラーメンに目を付け始めます。現在の町田商店を筆頭とした、「資本系家系ラーメン」の始まりです。
現在の論争のテーマになっているのが、この「資本系」の家系ラーメンが、本当に家系ラーメンなのかそうでないのか、ということ。
その決め手は「家系のスープ」にあると考えます。
「スープは店の中で仕込んでいますか?」
いい質問ですね。ここが「資本系」と「個人店」の最大の違いです。
資本系のスープ
資本系の家系ラーメン店は、店の中でスープの仕込みのすべての工程を行っていません。
工場で生産された豚骨スープが店に送られてくるので、それに多少手を加え完成です。いわゆる「セントラルキッチン方式」です。
ビジネス的な視点からすると、均質なスープを多くの店舗に届けられるため、味のブレがなく、働き手にスープづくりのノウハウがなくても営業可能です。このことが、急速な店舗拡大につながっています。
個人店のスープ
対する個人店では、店で一からスープを仕込んでいます。
店主や店員が豚骨や鶏ガラから出汁を取り、手間暇かけてその日のスープを完成させます。
そのため、毎日全く同じ味とはいきません。時間帯によっても味に差が出てしまいます。そこでお店を閉めて、あるいは営業しながら「スープの調整」を行います。多くの家系ラーメン店に中休みがあるのはこのためです。
完全に余談ですが、麺をゆでるのにも、相当な技術が必要らしいです。テボ、いわゆるよくある麺の湯切りをするカゴではなく、平たいザルで湯切りを行うお店が多いからです。平たいザルでの湯切りの習得がかなり大変らしく、吉村家での鬼の修行の様子がたまに話題になりますね。
味と工程が違いすぎる
長くなりました。
仮に資本系・個人店どちらも家系ラーメンだとした場合、
「味が違いすぎる」「工程が異なる」ことが最大の争点だと思います。
工場で作ったスープと個人店で仕込んだスープ、使っている材料は同じだとしても、鮮度では個人店に勝てません。安定感では工場スープに分があります。
どちらがよいという話ではなく、味が違いすぎる、工程が異なる、ここが問題なのです。
定義か工程か
定義的にはどちらも家系ラーメンでも、味と作っている工程が全く異なります。
家の味噌汁とカップの味噌汁くらい違います。
かなり極端な言い方をすれば、「手作り」なのか「レトルト」なのか、ということです。
一蘭の話
私は一蘭が大好きです。まだ替玉をしても1000円を切っていたころ、かなりの頻度で通っていました。川崎、横浜、渋谷、行く先々にあるのでつい食べてしまいます。
博多の人が一蘭をどう思っているのかもなんとなく察しています。邪道なのかなあ、と思いつつ、おいしいから食べてしまいます。
レトルトなのも、王道博多ラーメンじゃないのも理解しています。でも食べたくなる。それはそれでいいのかなと思います。
これは横浜市民が全国で横浜の看板を掲げる資本系を快く思っていないのと同じなんじゃないかと思います。
レトルトのやつが横浜家系ラーメンを名乗ってんじゃねえよ、って感じでしょうか。丸亀製麺と丸亀は関係ないみたいな、名前だけ借りてるみたいな。
一蘭はわかったうえで食べてるから許して。
カフェの話
少し前に、京都のおしゃれな雰囲気のカフェで、冷凍のパスタを出されたり、既製品のケーキが出されたりして炎上したことがあったと思います。
これが炎上した理由に近いような気がします。
言ってしまえばサイゼリヤも冷凍パスタですが、それはみんなそういうものだとわかっているから問題ない。たいていのファミレスがそうでしょう。
レトルト食品は悪か
でも、おしゃれなカフェに入って厨房から電子レンジの音が聞こえてきたらどうでしょう。これは、「おいしいものが食べられる」と期待している人の、それぞれの期待の仕方が違うところがミソなのかな、と思います。
同じように、ラーメン屋に入った時、手作りのスープじゃないとがっかりする人、レトルトでもおいしく食べる人、あるいは区別がついていない(何でもおいしく食べる)人がいるんだと思います。
つまり、
「冷凍だからマズい」=「工場製のスープだからマズい」という人と、
「冷凍でもまあまあおいしいからいいよね」=「違いはわかるが口に合うのでいい」という人と、
「冷凍と知らずにおいしく食べている人」=「区別がついていない人」がいます。
それなら、家系ラーメンを食べている人は、こういったことを気にしているのか?定義か工程か。それとも何も気にしていないか。これが問題です。
それぞれの家系観
個人店が好きな人
直系店、いわゆる吉村家からのれん分けを受けたお店が好きな人がいます。
杉田家、環2家、末廣家、厚木家などが有名ですね。
二郎系じゃなくて二郎が好き!!みたいな感覚でしょうか。
それ以外の個人店も幅広く好きな人も多くいると思います。
吉村家からのれん分けを受けた店舗から、さらにのれん分けを繰り返し、色々なスタイルの家系ラーメンが生まれました。
また、のれん分けではなく、独自の家系ラーメンを目指し作られたオリジナル系も存在します。
最近では、「○○家」の形をとらない家系ラーメン店も増えています。
お店によって個性が出ていて面白い!って感じですね。
個人的には、直系の醤油と豚骨のパンチが効いた感じより、本牧家系譜のマイルドな感じが好みです。でもどっちも好きです。武蔵家系も好き。
資本系「も」好きな人
「冷凍でもまあまあおいしいからいいよね」の人です。
実際、私も町田商店はおいしいとは思います。タマネギも食べ放題だし、ゴールドカードもあるのでうずらも沢山食べられます。
近くに個人店があったらそっちに行っちゃうと思います。でもなんとなく町田商店が食べたくなる時があります。そんな中毒性がある、素敵なラーメンだと思っています(個人の感想です)。
区別がついていない人
ここがマジョリティかなーと思います。
区別がつかないことが問題ではありませんので、続きを読んでください。
過去、友人に「おいしい家系あるよ」と誘われ、ついていったら資本系だったことがあります。にぎわっていて、地元でも人気のあるお店のようでした。ラーメンもまあおいしかったです。
で、そのこと自体が悪いという話ではなく、「資本系=家系」という式ができあがっていることが問題だなあと感じたわけです。
個人店と資本系の区別がついていない、レトルトのものしか食べたことがない。これは、本場の博多ラーメンを食べたことがない私と同じ状況です。
博多から来た人に、「おいしい博多ラーメンあるよ^^」と一蘭に連れて行ってみてください。おそらく殺されると思います。
これと同じことが家系ラーメンでも起こっているのです。
特にいつも悲しくなるのが、人気YouTuber「東海オンエア」のメンバーが足しげく通う「まんぷく家」という家系ラーメン店について。
ここも町田商店と同じ、株式会社ギフトホールディングスの運営で、いわゆる「資本系の家系」です。ここが大きく横浜の看板を掲げながら、レトルトの家系ラーメンを提供していることが、横浜市民としてはなんだかなあという感じです。
「おいしかった」と思ってくれればまだいいですが、資本系の味を食べて「家系ラーメンってこんなもんか」と思われてしまったら本当に残念です。
いつか個人店のラーメンを食べに横浜に来てください。
お店の立地が
ただ、いわゆる個人店の家系ラーメン店の多くは横浜をはじめとした首都圏に集中しています。そうすると、多く人は「個人店の家系ラーメン」へのアクセスが難しくなってしまいます。
じゃあ個人店を増やせばいいじゃんと思うかもしれませんが、上で述べたように、レトルトスープを使った資本系のほうが店舗を増やすのが簡単なのです。
実際に、壱角家を運営する株式会社GARDENでは、フランチャイズ加盟店を募集しています。
ただのご当地ラーメンが、ここまで人気になってしまったために、全国的に展開するのにレトルトを提供する方が効率が良いということになってしまった。こういった事情によって、「資本系=家系」の人がたくさん生まれてしまっているのではないでしょうか。
でもこれは仕方ないことだと思います。ただ、ご当地ラーメンはご当地だからいいんです。全国展開できない理由があるんです。さわやかが静岡にしかないのと同じです。
町田商店は家系ラーメンなのか
結論
定義で言えば家系ラーメンだと思います。
入っているものはだいたい同じだし。
ただし、「本物かどうか」に重点を置くと話は変わってきます。
「レトルトである」という点は無視できません。
ただ、手作りでもレトルトでもカレーはカレーです。
これと同じで、手作りでもレトルトでも同じ家系ラーメンだと思います。
ただ、レトルトは本物をまねて作ったもの、本物のコピーであるという点は無視できません。
どちらが本物か、という話になれば、間違いなく個人店の家系ラーメンが本物で、資本系の家系ラーメンは偽物とは言わないまでも、本物ではない、ということになります。
争いが終わらない理由
では、なぜこんな論争が起こっているのか?
この「本物」の部分にこだわりレトルトを邪道だとみなしている人
=資本系を家系ラーメンだと認めない人
VS
レトルトだと知っている・知らなくてもおいしく食べている人
=資本系も(が)家系ラーメンだと思っている人
の争いが終わらないからです。価値観・ラーメン観の違いで、ずっと争い続けているんですね。本当に不毛です。
が、資本系=家系だと思っている人には、ぜひ一度本物の家系ラーメンを食べてほしいと思います。ラーメンが好きなら横浜まで遠征する価値は大いにあります。家系以外にもおいしいラーメンがたくさんあります。
家系といえば町田商店の人もいるし、吉村家が一番という人もいます。
そこに優劣はなく、ただ前者は詳しく知らないだけかもしれないし、後者にそれを揶揄する権利はありません。
価値観の違いは常に争いを生みます。ラーメンでなくてもです。
資本系を家系ラーメンだと認めない人、
資本系も(が)家系ラーメンだと思っている人、
この2つの価値観が和解する日なんて永遠に来ません。この人たちが勝手に論争を繰り広げているだけです。
皆さんは気にせず好きなラーメンをおいしく食べてください。
おまけ
町田商店とそれ以外
(個人の感想です)
私は町田商店が好きです。スープも麺も、自社工場で生産し、店舗へ配送しています。
また、町田商店の本店は壱六家から独立した店舗であり、店でスープを仕込んでいます。ここで得たノウハウを活かし、工場でスープを作っているのです。
それ以外の資本系の家系ラーメンは嫌いなことが多いです。特に壱角家。とにかくスープの油感がおいしくないし、ぬるいことが多い。
町田商店は、株式会社ギフトホールディングスが運営しています。このギフトホールディングスは、ラーメン豚山、がっとん、元祖油堂など、ラーメン専業で多くの業態を展開しています。
また、「E.A.K. RAMEN」を海外で展開しています。
それだけラーメンに本気で取り組んでいる会社なのです。
対して、ほかの資本系は事業の一角としてのラーメン屋であることがあります。店内も活気がなく、マニュアルも守れていないのでスープがぬるいことが多いのでしょうか。ここが、ほかの資本系を好きになれない理由です。
個人的な話
毎年だいたい100杯ラーメンを食べて、その半分が家系でした。
その中でも特に美味しかったのは、
町田家・侍・寿々㐂家・飛粋・まこと家・幸家あたりでしょうか。
吉村家と直系店舗は殿堂入りです。
家系以外だと、
HomemadeRamen青麦・川の先の上・らぁめん夢・銀座八五・宍道湖しじみ中華蕎麦琥珀・ちばからなどが非常においしかったです。
おわりに
食べログに星がつくような、定量的な評価って食べ物に対してできないんじゃないの?ってすっと思っています。
味覚や好みなんて人それぞれだし、自分の舌に合わなかったから★1をつけるっていうのはちょっとどうなのかな…と思ってしまいます。
マズいラーメン屋っていうのはきっと存在しないのでしょう。お客さんが来なければ潰れるだけのことです。
おいしくないな、と思っても、誰かにとってはおいしいのかもしれません。
好きなラーメンを食べましょう。
ありがとうございました。