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ショートショート『大増殖天使のキス』
「起きたら目がベチョベチョしているんだけど…」
最近よく耳にする言葉だ。朝起きたら、瞼にネバネバとした感触がする事件が多発しているというもの。
それが3ヶ月もの間、ほぼ毎晩感じると被害者は語る。最近では恐怖を感じており、警察に話そうと思っているらしい。
被害者はなぜそのような、起きた時に瞼がベチョベチョとした感触をするのかが、まだ分かっていないみたいだ。
だが、私には分かる。
それはキスだ。
寝ている最中に瞼にキスされているんだ。
なぜそう断言できるのか。
なぜなら、私が犯人だからだ。
公務員の仕事帰り、「きもい」と言われるほどの愛情を押し殺し家に入る。忍び足で洗面台へ行き、手洗いうがいをして殺菌する。
そして、床を這いずり音が出ないように寝室へ向かう。
呼吸を止め、ゆっくりと顔に近づき、瞼にキスをする。
これが、ベチョベチョ瞼の真実だ。
「ねぇ、ママぁ。また今日も目がベチョベチョしているんだけど…」
妻の視線を感じるが、私は無視した。
----- 完(410文字)-----
お久しぶりです。
一年ぶりに参加させていただきました。
春休みに入ったので、週刊にはなりますが、この#毎週ショートショートnoteを投稿していこうと思います。
たらはかにさん、またお世話になります。