希望としての政策デザイン:Part1 政策とデザイン
社会課題の複雑化と多様化を背景に、政策立案と実行にデザインが有用である、あるいは必要であるという考えが広まりを見せている。この記事では、PART1からPART4にかけて、なぜ政策デザインが重要なのか、どうやって政策デザインを行っていくことが望ましいのかを考えていきたい。
デザインアプローチによる政策立案とは
たとえば、デザインアプローチを用いた新しい政策立案にチャレンジしているJAPAN+Dでは、政策デザインを以下のように定義している。
では、そのデザインの対象である「政策」とは何か? 行政とデザインを研究している中山育英氏は、著書『行政×デザイン実践ガイド』において、政策は幅広い意味で使用される言葉だが、プロセスと階層の2つの側面から理解できると説明している。
プロセスとしての政策:アジェンダ設定から実施を経て、最終的に廃止されるまでの一連の問題解決の流れ。
階層としての政策:「目的と手段」の関係性に基づき「政策、施策、事業」の3階層に分けて捉える。
政策デザインとは、広く捉えればこの「プロセス」と「階層」全体にわたり、デザインアプローチを活用し、市民や専門家を含むさまざまな関係者と共によりよい政策を実現することである。この記事では、政策デザインをこのような広い領域の全体においてデザインアプローチを活用していくこととしたい。
政策デザインの実践において、どのようなデザインアプローチを行えばよりよい政策デザインができるかという「What」を考えることは重要だ。私はさらに「なぜ政策デザインを行うか」「どのように政策デザインを行うか」という「Why」や「How」を考えることも重要だと考えている。私自身の考えを先に述べれば、政策デザインは共創的な活動を通して、社会と関わる人々全員にとって、主体的に社会と関わるためのしなやかな強さをもたらしてくれる希望になりうるものだと考えている。具体的には、デザインアプローチをバウンダリーオブジェクトとして機能させ、関係者が立場を越えて柔軟に考えを変容させながら連携することが重要だ。
外側から政策とデザインを考える
まず、この記事を書いている私の立場やこの記事を書いた背景を簡単に紹介しておく。私のことを端的に説明すれば、以下のようになる。
コミュニケーションデザインに強みを持つサービスデザイナー
デザインエージェンシーでクライアントから依頼を受けてデザインを行う実務家
より詳しいプロフィールは別の記事にまとめている。もし興味を持っていただいた方はこちらの記事をご覧いただけると嬉しい(少しずつ追記中)。
私は、10年前の2014年に所属するデザイン会社コンセント社内に公共領域に関するデザインのR&Dチーム PUBLIC DESIGN Lab. を起ち上げ、新しい公共の姿をデザインを通して探究するため、さまざまな活動を行ってきた。その過程で、多くの行政職員の方々と政策デザインに関するプロジェクト、研修、イベントなどを通じて話す機会があった。
こういった機会を得られたことに感謝しつつ、限られた時間内で政策デザインについて伝える難しさを感じている。デザインの要素を分解して正確に伝えようとすればするほど、実際の生々しいデザイン実践から離れてしまう。一方で、実践をそのまま紹介しても、具体的に何をどのように行うべきかのヒントが見えにくいというジレンマがある。
そこで、今回の記事で自分の考えをまとめてみることにした。
これまでいくつかの行政サービスに関わるプロジェクトを行ってきたが、政策立案・実行そのものの専門家ではなく、行政組織にも所属していない。私が目指すのは、日常生活をよりよくするために、政策デザインの領域に市民や行政職員という「ユーザー」の視点を外部から持ち込むことだ。行政サービスは暮らしに直結する領域であり、自身がそこから疎外されていると一度気づいてしまった身として※1、外側にいる人間だからこそできること、やるべき意味を探し続けていきたいと考えている。
この記事に誤りや考えが至らない点があれば、それはひとえに私の不勉強によるものであり、今後も修正しながら考えを更新していきたい。ご指摘があれば、ぜひお知らせいただけると幸いである。
※1:公共領域に対する取組を始めた経緯は以下の記事にまとめた。
Part1のまとめ
政策デザインは、市民や専門家と共にデザインアプローチを活用し、複雑な社会課題に実効性のある解決策を導く方法である。
デザインアプローチは「バウンダリーオブジェクト」として機能し、異なる立場の関係者が柔軟に思考を変化させながら協働するために重要な役割を果たす。
外部の視点から、市民や行政職員の視点を政策に取り入れることで、より豊かな政策デザインを実現できる。
参考文献
中山郁英『行政×デザイン 実践ガイド 官民連携に向けた協働のデザイン入門』ビー・エヌ・エヌ. 2024