見出し画像

自由なありかたを見つけよ|ひらくデザインリサーチ Vol.2

前回の記事では、リサーチ・スルー・デザインを実践する「ひらくデザインリサーチ」という活動をスタートさせたことを紹介した。この記事では、その活動の経緯を共有する。 7月には、『動きそのもののデザイン』著者の三好賢聖さんをお招きしての中間発表会も行った。中間発表会については、また改めて別の記事で紹介したい。


この指とまれでつながる興味や関心

前回の記事と少し重複するが、時系列順にやってきたことをお話ししてみたい。まず、「ひらくデザインリサーチ」という活動に興味や関心がある人に参加してもらい、自分が今気になっていることを中心に発表してもらった。まだリサーチのテーマにもならないような、ちょっとした気になるテーマが様々集まった。個々人でテーマを発表し、これが気になるというものに対して投票を行い、 集まったメンバーの 好奇心を可視化しながら、最終的に いくつかのテーマの発案者を中心に「この指止まれ」式でチームを構成した。
そうして生まれたのが、前回記事で紹介した以下の3つのテーマだ。なお、その後の検討の結果を受けて、それぞれのチム名称は上から、「土着」「工夫」「余裕チーム」という名称とした。

  1. 「土着的なコ・デザイン」はどのようなエコシステムによって生まれてくるのか

  2. 組織から要請されずとも自然に発露する「普段づかいの創造性」とはなにか

  3. 加速主義が進む社会で「余裕」をどのようにつくるか

まとまらないチームとまとめたくない気持ち

その後、各チームでリサーチの計画を立てて実際に活動してみた。しかし、なかなかうまくいかない。具体的には、目的を共有しようとしても、それぞれに異なる興味や関心をもっているからなかなかまとまらない。無理やりにまとめてしまうと、 一人ひとりの興味・関心を生かすことができない。 しかし、ある程度まとめなければ先にも進めない。
これは大きな発見だった。ビジネスの文脈でリサーチを含むデザインを行う場合「仕事」という強制力のもとで、チームとして協働しやすくなっていることが浮き彫りになったように思う。
デザインリサーチの一形態であるリサーチ・スルー・デザインは「研究者が自らデザインの実践を行うことを通して新たな知を紡ぎ出す方法※1」であり、ぼくが普段関わっているクライアントワークでのデザインプロジェクトは、この定義に厳密に当てはめればデザインリサーチではない。
「ひらくデザインリサーチ」活動は、商業デザインの実務者であるぼくが、クライアントワークという枠組みを外してリサーチ活動を行うことで、研究者的な考え方、さらにいうとリサーチ・スルー・デザインを実践する研究者の「省察的実践(自分の行動やそれに伴う考えをふり返り気づきを得ること)」のエッセンスを得て、問いを立ち上げる力を再獲得しようとしている活動である。チームとしてまとまらない、というのはこの点で最初の大きな気づきになった。

それぞれのチームのあり方の発見

個々人の「なんとなく気になる」という感覚で集まった人々は、その興味や関心を育てるうちに様々な方向に成長していった。 それを無理に束ねてしまうと、リサーチ・スルー・デザインの本質——リサーチを行い変容しながら気づきを得ること——を失うことになる。そのため、各チームで対話を繰り返し、それぞれのチームのあり方を見つけ出した。
土着チームは、リサーチフィールドを共有しつつ、各メンバーが主観的な視点で観察を行い、多様な視点を持つことを促進する「複眼的視点」をキーワードにしたチームのあり方。
余裕チームは、1つのテーマを中心に密なディスカッションを繰り返し激しく問いを再構築するような「ディスカッションパートナー」的な形に。
工夫チームは、抽象的なテーマを共有しつつも、各自が別々のリサーチ対象を設定し、別々にリサーチを行い、その上で得られた発見を持ち寄る「よきライバル」といった形に。
このように、各チーム各様のまとめられることにしなやかに抗うような活動が立ち現れてきたことは静かな感動をおぼえた。

クライアントワークとの違い

個人的に、このプロジェクトの進め方が3チームで多様になったという点が非常に興味深かった。
クライアントワークでプロジェクトを行う場合、一定期間内で成果を出さなければならない関係上、全体を束ね、方向性を見出そうとする圧力は強いのではないか(研究においてもそういったケースはあるだろうが)。その際に関係者の創造性、ある種のノイズを意図せず抑制してしまっている可能性を感じた。
ぼくたちは、イノベーティブなアウトプットを目指してリサーチを、デザインを、共創を行っているのではないだろうか。しかし、その活動が実は窮屈なものになっているのではないか。自由闊達な好奇心を持つ生身の個人の性質を、役割で覆い隠してしまってはいないだろうか。
個々人の自由な好奇心を尊重し、それぞれが独自の視点を持ちながらリサーチを進めることが、リサーチ・スルー・デザインの本質を体現するような現象なのではないかと感じた。

次のフェーズへ

7月の中間発表を終えて一旦の区切りを迎え、ぼくの所属するコンセントでも新しい期を迎えた(7月が体制変更のタイミング)。ここで得られた発見をもとに、次のフェーズではすべてのチームのメンバーが個人としてリサーチの問いを立て直し、再スタートを切ることとした。これまでと同じ問いを継続しても良いが、変容した自分の考えを反映させた「気になる」を発信することで新しいつながりを見つけ出していく予定だ。
また発見があれば、ここでお伝えしていきたい。

参考文献
※1:三好賢聖『動きそのもののデザイン』p.88

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?