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楽しく、創造的に悩み続ける|ひらくデザインリサーチ Vol.1

問いを立ち上げなければならない。 問いを立ち上げられるチカラをつけなければならない。
デザインエージェンシーという、さまざまな組織の課題に対してデザインという方法で解決を支援する仕事を続けてきて、強くそう感じるようになった。
その課題に対してアプローチするためにぼくが所属しているデザイン会社で「ひらくデザインリサーチ」というリサーチ・スルー・デザインを実践する活動をスタートさせた。


ひらくデザインリサーチとは

Photo by Kari Shea on Unsplash

「ひらくデザインリサーチ」は、ぼくが所属するコンセントで、リサーチ・スルー・デザインを行い、問いを立ち上げ、社会に対して提示していくことを目指す活動だ。
リサーチ・スルー・デザインとは、研究者が自らデザインの実践を行うことで新しい発見を行う方法とされる。クリストファー・フレイリングが1993年に書いた論文で言及されたことが初出とされている。リサーチ・スルー・デザインとは端的には「ものを作りながら新しいことを学ぶ方法」といえる。
フレイリングはリサーチ・スルー・デザインの概念とその実践に「手を動かすことを通じた人間性の回復の論理」を見いだしたという。出典:リサーチ・スルー・デザイン – Center for Design Fundamentals Research, Kyushu University. https://www.cdfr.design.kyushu-u.ac.jp/lexicon/131/. (2024年3月1日 アクセス)。
デザインの本質とは悩むことである。その悩みの渦中に身をおき、調べ、つくり、また調べる。その永遠の繰り返しのなかに身を置き続けることだ。リサーチ・スルー・デザインによる人間性の回復は、悩み続けるという本質的なデザイン行為に身を置き続けるために必要な非常に重要なことだと思う。
「ひらくデザインリサーチ」には、現在有志メンバー16名が参加している。探索しているテーマは3つ。

  1. 「土着的なコ・デザイン」はどのようなエコシステムによって生まれてくるのか

  2. 組織から要請されずとも自然に発露する「普段づかいの創造性」とはなにか

  3. 加速主義が進む社会で「余裕」をどのようにつくるか

リサーチ・スルー・デザインの実践に興味があるメンバーが集まり、一人ひとり、いま何に興味があるのかを持ち寄り複数回のディスカッションを行い、最終的にこの3つのテーマが起ち上がった。テーマを中心として、興味や関心をキーにチームが構成されていった。
現段階では、着々とリサーチを進めているチームもあれば、なぜその問いなのか自体をじっくり考えるチームもあり、それぞれのやり方を大事にしながら問いをシャープにしようと試みている。

デザインは問題解決だけじゃない

自分で立ち上げた問いなのに、そもそもなぜこのようなテーマにしたのかがよく分からない。このテーマの探索を通して何を生み出したいのかもよくわからない。でも、なぜだかこれが気になる、この問いが自分の暮らしの何かの質に結びついている。そういう感覚がある。その感覚を大事にして、シンプルな美しい解決方法から注意深く距離を置く。スパッと切れ味の良い答えを提示するのではなく、泥臭く探っていく。問題を捉える領域を狭くし、単純化することで問いも答えもシャープにできてしまう。その単純化の誘惑に抗って、考えつづけること、レスポンスしつづけることがデザイナーとしてのぼくたちの責任(レスポンシビリティ)だと思う。
この悩みの渦中にいつづけながら楽しく創造的でいることができる。それがデザインの魅力のひとつだと思う。こんなに大変で、それでいてこんなに楽しいことはそうそうない。
昨今さまざまな組織で導入が進むデザイン——デザイン思考は、時に「問題解決」とシンプルに説明されることがある。それも間違いではない。しかし、正確を期すのであれば、デザインにおける状況の変化に対応する方針は、少なくとも以下の3つがある。

  1. 問題生成

  2. 問題解決

  3. 意味創出

1の問題生成と2の問題解決はいずれもデザイン思考と呼ばれる考え方に含まれる要素だ。
問題生成はそもそも何が問題なのかをリサーチを通しながら考えていくことだ。
問題解決は問題が定義された後に、それを創造的な方法で試行錯誤をしながら解決に導いていくことを指す。
3の意味創出はいわゆる「意味のイノベーション」的な活動で、既存の物事に対し新しい意味を付与する。例えばキャンドルは、以前は暗闇を照らすための照明としての意味を持っていたが、近年ではリラックスするためのツールとしての意味も持っている。このようにそのモノ自体は大きく変化していなくても、文脈に合わせて異なる意味を持たせることもまたデザインの役割の一つだ。
デザイン思考は問題解決である、というのは分かりやすくパッケージするために一つの側面を取り上げたにすぎない。ぼくたちが行うデザインとはもっと複合的な意味を持つとらえどころのないプロセスなのだ。

デザイナーとして何に反応すべきか

Photo by Pawel Janiak on Unsplash

なぜ、問いを立ち上げなければならないのか? それは、これからぼくたちが行うデザインという活動では、生活者の視点から課題を掘り起こし、イシューとして社会に提示することがデザイナーの責任(レスポンシビリティ)として必要だからだ。
ぼくはデザインエージェンシーで働いており、様々な依頼に対して、クライアントである組織と共にデザインの方法論を用いてアプローチを考えている。そこで、ぼくたちは依頼として提示された課題に対して背景を理解したり、今後なにを実現したいのか考えたり、リサーチを行い生活者の課題を深掘りしたり、さまざまな活動を行いクライアントとともにイシューを立ち上げていく。
以前の記事「あたらしい公共をつくる、あたらしいつながりをつくる」で触れたように、ぼくは公園を利用しているときに、公園という“サービス”から疎外されていると感じた。そしてリサーチをはじめて、気づきを得ながら公共領域でのサービスデザインというフィールドに挑戦し始めた。
ぼくたちが直面する様々な課題、特に生活者が漠然と感じている課題未満のナニカ。それを掘り起こし、イシューとして提示する。そして、企業や行政、市民といった様々なステークホルダーとともに新しいサービス——つまり、新しい暮らし——をつくる。それが、デザインの方法論に精通したプロフェッショナルとして、ひとりの生活者として、重要な活動だと考えるようになった。
暮らしをより良くするためにデザインを使うのであれば、デザインを民主化していくのであれば、ぼくたちデザイナー自身が問いを立ち上げる力を高めることは、大きなインパクトを持ちうることだと思う。時間がかかろうとも、つねに何が本当に必要なのか、答がない問いを問うことにもっと馴れるべきだと思う。
発見があればもちろん、悩みがあればそれも。また共有していきたいと思う。

カバー:Photo by Sam 🐷 on Unsplash

『楽しく、創造的に悩み続けるため、デザインリサーチをひらく|ひらくデザインリサーチ Vol.1』より改題

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