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108円の幸せ🍞


 退勤し電車に乗る。今日は新入社員の子の仕事のフォローでいつも以上に気を張っていた(普段もそこまででもないけれど…)
 今日が終わるまでまだ時間がある、なんか小さな幸せ感じたい。と思い、最寄り駅へ到着。
 私の最寄駅は、何もないわけではないが有名なチェーン店が並ぶほど大きい駅でもない。でも地味にそこが気に入っている。いつ行っても人で溢れかえっていることはないしお店に行っても商品が完売していることは少ない。(いいのか悪いのか)
 とりあえず飲食店が入っているフロアへ向かう。目につくお店はパン屋、和菓子屋、カフェ… 今の気分は完全に食べ物だ。しかし、食べ物でもラーメンとか牛丼とかの気分ではない。お腹が空いてぺこぺこの胃には重すぎる。もっと軽くてふわふわしてて丸っこいもの…とそんなものを追い求めてフロアを彷徨う。
 パン。最近買ってないな…と思いパン屋に並ぶパン達とご対面。チーズと玉ねぎが乗った惣菜パンや表面がザラメで表面がガリガリしたメロンパン。あんこが挟まれたフレンチトーストなど少し手の込んだパンが多く並ぶ。私の胃に合うものは…と一つ一つプライスカードと照らし合わせる。うーんうーんと右に体をスライドしていくと、陳列棚の端っこに小さめのカゴが2つ。中に手のひらサイズの塩パンが10個くらいずつぽこぽこと入っていた。
 おや。これは。と思いさらにその中の一つ一つをじっくり見る。この子は少し小ぶりで控えめだな、この子はハリがあって元気そうだ!と印象付けしていく。一通り見終わって気になった子がいた。私が塩パンの絵を描くとしたら、この子をモデルにしたいなという子だった。
 うちの子になりなさいっ。と心の中で呟きながら、トングでそっとトレーに運ぶ。レジ横にはそのお店が売り出している「幸せクリームパン」なるものが。名前が良すぎる…。迷った挙句、最近読んだ雑誌である「暮らしのおへそ」に掲載されていた内田也哉子さんの記事を思い出しました。それは内田さんの母である樹木希林さんの言葉でした。

「母は『これをやっちゃだめ』『ああしなさい、こうしなさい』とは言いませんでした。その代わり、うるさく言われたのは、『モノを増やさない』『ひとつの用途に使うものはひとつだけ』ということでしたね」

出典:暮らしのおへそVol.38
内田也哉子さんの「いつもコレでなくていい」おへそ

 この塩パンを丁寧に食べよう。とクリームパンへの気持ちはおさまりレジにて108円のお会計を。
 私の後に隣のレジに並んだ同い年くらいの若いサラリーマンがいた。ベリーやナッツが入ったバゲットを購入していて切り分けてもらうよう店員さんにお願いしていた。その時の声と表情がなんとも柔らかく優しく声で会話していたので勝手にほっこり。
 塩パンは紙袋ではなく、ワイヤータイで包んだ透明袋に入れられた。プレゼントみたいでとってもワクワクした。私の大量の手荷物の上で、ちょこんとおとなしくしているパンがとても可愛かった。もし塩パンを2つ買っていたら、またはクリームパンを買っていたら、この気持ちは生まれなかっただろうなと思った。
 私はそのパンをチラチラ見ながらふくふくとした気持ちで家に帰った。

ちょこんとしてるパン


 帰宅し、パンを食べようかと思ったが、今食べるのを我慢したらこの幸せが明日まで続くのでは…と思った私は、そのパンを1番目につくテレビ台の上へ持っていった。もはやインテリアと化した塩パン。塩パンもまさかテレビの横に並ぶとは思わなかっただろう。

 翌朝、パンを楽しみに起きた。ネスプレッソのコーヒーメーカーをセットし、コーヒーを準備。昨晩残っていたサラダもお皿にとりわけ、充実してるな〜、と朝ごはんが与えてくれる幸せを噛み締める。
 パンはレンジで少し温めた。温めたパンはバターがほんのり香った。ケーキ用で買った平皿にパンを乗せ、テーブルに運ぶ。いただきます、とパンを一口。噛みきれない。固い。引きちぎるようにパンを食べる。口に入れてもなかなか噛み切れい。温めすぎて水分が抜けすぎてしまった。
 あぁ、美味しく食べてあげられなくてごめんね…と塩パンに目で謝罪。あとで「パン レンジ 固くならない」で検索をかけよう。また美味しく食べてあげるからね!と顎の疲れを感じながら味わうのだった。

美香(HARUKA)


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