マイクテスト、ワン、トゥー

姉と弟を繋いだのは、
カセットテープに吹き込まれた「たくさんの歌」。
彼女はその日、二階の窓から飛び降りた。
生まれてからずっと父親に監禁されてきたその部屋を出て、
新しい世界が見たかった。
新たな世界と彼女を繋いでくれたのは、隣の部屋に住む弟の存在。
一枚の壁に隔てられながら、
二人は様々なことを教え合い、支え合い、生きていく。
お互いが言葉を直接交わすことはなかったが、
代わりに一本のテープに全てが歌として吹き込まれていた。
まるで往復書簡のように―――これは、彼女と弟、それを取り巻く家族、世界の住人たちの物語である。

これは劇団鹿殺しの音楽劇、
『彼女の起源』。

私が一番好きな、劇。
私は映画もドラマも見ない。本も漫画も読まない。
唯一見るのが劇。
私の唯一の娯楽が観劇。

『彼女の起源』は劇場、そしてDVDで何度も観た。
この激ヤバな作品を、家で観れるなんて夢みたいだった。

何がヤバいのかというと、なんと言っても
カセットテープにたくさん吹き込まれた、歌たち。

石崎ひゅーいと菜月チョビ
二人の歌声には鳥肌が立った。

石崎ひゅーいの貫くような歌声と
菜月チョビのハスキーで重たい、どこか懐かしい歌声。
二人の歌声がいつまでも耳に残るんだよな〜

カセットテープ
それがこの劇の要。

カセットテープに声を吹き込む。
マイクテスト、ワン、トゥー。

新鮮だった。
私は多分CD世代だから、カセットテープに全く馴染みがない。
触ったこともない。
というかカセットテープって録音できたりするんだ
それすら初耳。
そんな私でも、この劇を観ているとカセットテープがとてつもなく身近に感じる。
使ったことないよな?
あれ?カセットテープ...なんか懐かしい
そんな気持ちになる。

観劇後、私は案の定
カセットテープを買って帰った。
何かに影響されやすい私だから、そんなことだろうと思った。

マイクテスト、ワン、トゥー。
その合図で声を吹き込んだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?