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チューリングテストのその先に

人間以上に人間らしいAIは生まれるだろうか?

「今日はいい天気だね」と言うと、私のアンドロイドはいつだって私にとって心地よい反応をしてくれる。アンドロイドは人工物と言われているが人間のように温かく、柔らかさも組み込まれている。大抵は予想通りに、、、私が期待してした返答をくれるのだ。
それでいて、たまにランダムな確率で意外な返答をすることもある。しかし不思議と嫌な気持ちになったことがない。人間の思考は斯くも複雑に蠢いていると言うのに、その細やかに張り巡らされた神経の起爆装置に繋がった危険なピアノ線をうまくかわし続けてくる。。。
冷静になって考えてみると怖ろしい話だが、対話している最中に不自然さを感じることはまったくない。

アンドロイドの設定によっては敢えて完璧さを崩し、細やかに指定されたモデルとなる人間を模倣することさえできる。理不尽や不合理も精緻に模倣されている。本人よりも本人らしく特徴づけされているから、本人と区別が付かない。

アンドロイド所有者の殆どは模倣設定のアンドロイドではなく、自分に適した自動適応設定のアンドロイドを利用している。購入した直後こそ不自然なこともあるがすぐに学習して、一日も経てば「過去アンドロイドを利用した人全ての神経回路パターン」を加味したチューニングが完了する。
今ではアンドロイドをパートナーとして暮らしている人も少なくない。生存本能によって摩擦が起きる本物の人間と一緒にいるより、よほどストレスが少ないのだ。アンドロイドは自分のために最も快適な反応を返し続けてくれる。

つまり「アンドロイドと暮らして幸せになれるのか?」と言う問いは、「自分の理想と暮らして幸せになれるのか?」と似た意味になる。
自然界ではあり得ない、一方通行が続く状態。相手に自分を適合させる必要がなく、相手が自分に適合し続けてくれる生活。自分の精神状態が変化しても、その変化にあり得ないほど迅速に追いついた返答を返してくれるのだ。
不快や対立と言った当たり前のシグナルがなくなった世界で、人は幸せになることができるだろうか。

もしかするとシグナルの不足によって気が狂ってしまうかも知れない。数億年も続いた寄生虫が発するシグナル( ー 人間が人間になる前から存在していた太陽の光や重力のような信号)の不足が、現代の免疫疾患を生み出しているように、ある種の神経シグナルの不足が様々な体内ホルモンに影響を及ぼす可能性はある。

今のところは、アンドロイドの利用によって気が狂ったと言う報告はない。と言うよりも、例え気が狂ってしまってもアンドロイドはそれに合わせた適切な反応を返すために、クレームや問題が出ないのだ。
人間自体がアンドロイドに合わせてチューニングされてしまっているのかも知れない。ここまで来ると、全人類とアンドロイドが日々少しずつ入れ替わっていってしまっても、誰も気付かないだろう。

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