函館への旅
姉はひとり旅だった。
たった1人遠い遠い所へ。
私達の行けない所。
最愛の旦那さんと子供を残して。
エンディングノートのしたい事リストに
妹と一緒に函館に行く事と記してあった。
本当に一緒に行きたかった。
寂しいよ。
姉は38歳で稀ながんになった。
治療後毎年定期検査を受け、
5年過ぎ10年過ぎ、その間
姉は結婚、出産と目まぐるしく、
でもとても幸せな日々を送っていた。
そして発病から14年、
転移が見つかったのだ。
それは受け入れ難い出来事だった。
転移の発見後、手術、再発、
抗がん剤治療と
あっという間のことで、
私はなすべもない中、
少しでも心の支えになったらと
姉に提案したのだった。
「函館に行こう」と。
函館は私達姉妹が
小学生時代を過ごした
楽しい思い出がいっぱい詰まった場所。
「小学校、変わってないかなぁ」
「いつも行ってたタコ公園まだあるかな」
「よく連れて行ってもらった
港の見える喫茶店も行ってみたいね」
そんな話をする姉は
とても楽しげで私は少し安心した。
姉の四十九日を終え、
両親と私3人で函館へ行く事にした。
函館でレンタカーを借りて市内観光、
そして住んでいた家、
小学校、タコ公園、喫茶店へ。
「小学校変わってないねぇ」
「タコ公園のタコってこんなのだった?
あれから40年くらい経つから違うかー」
姉の声が聞こえてきそうだった。
旅行中「何か静かだねー。
私達(母と私)はおとなしいから」と母。
そう、姉は明るくお喋りな人だった。
「でもね、レンタカーの
後部座席に乗ってるよ」と私。
本当にそんな気がした。
姉らしくきっちりと書かれた
エンディングノートには
それぞれの人への想いが
メッセージとして残っていた。
「優しい風が吹いたら私(姉)だと思って。
そばに居るよ」と。
だから私は寂しくない…いや、寂しいよ。
もっともっと話したかった。
もっともっと一緒に居たかった…
でも、またいつかきっと会えるよね。
それまで私を見守っていてね。
ありがとう。大好きだよ。
ゆうこ