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「字が綺麗なこと」しか知らない人から着物を譲って貰っていた話

語らせて欲しい。

ヤフオクで贔屓にしている出品者がいる。

故郷の福岡から発送してくるアンティークの着物出品者だ。ヤフオクルールの他に

・取引実績で『良い』が10以上

・着物取引垢である

・転売垢じゃない

この三つが揃わないとどんなに高値をつけていようが削除されて次点繰上げをする、生粋の着物好きの出品者だ。

おそらく着物コレクターが収集品を手放しているのだと思う。いつも落札時の手紙には達筆で「落札ありがとうございました」と書かれていた。

その着物コレクターが、今年の夏、ぱったりと出品をやめてしまわれた。

最後の出品は7月下旬。

九州の集中豪雨で死傷者が出た時期。発送先もほぼ同じ場所。

その出品者のアカウントを見てみると、ずっと『良い』評価であったのが集中豪雨以降は全て『悪い』

「支払いは終わっているのに急に音信不通になった」「落札後コンタクトなし」

そんな評価がずらりと並ぶ。

そのことに私が気がついたのは8月上旬。

ああ、もしかして。

そんな気持ちを一月抱えてる。


実は、私と彼女との最後の取引は非常にイレギュラーな形で終わっている。

私は彼女が出品した有松絞りの浴衣が欲しくて競ったのだが、予算オーバーして手をひいた。その代わり紫のピン縞の、粋な紗の着物を競り落としたのだ。

夏は別染浴衣とセオαしか持っていなかったので、初めての紗の着物である。

その時はスムーズに取引が済んだのだが、後日、ヤフオクの取引掲示板から彼女から連絡が入った。

『先日あなたと有松絞りの浴衣を競り合った方は評価2、しかも連絡しても返答がない』『良かったらあなたに譲りたい』

もちろん私は諸手を挙げて喜んだ。有松絞りの浴衣は持っていなかったし、彼女の着物の品質は、まともに買えば倍以上はするものだった。

ただ、その時私は足を痛めていて、入金に数日待って欲しいと伝えた。

すると大変丁寧なお見舞いの言葉とともにこう添えられていた。

『7月20日の大雨で倉庫の一部が浸水しており、今慌ただしくて返信が遅れる』

私は実家の九州がそこまで酷い被害を受けているとは思いもよらなかったので、適当な返事を返すと慌てて実家に連絡した。実家は無事だったので、問題なかったが。

数日経過して、足の具合も良くなったので、私は再度掲示板に入金希望を連絡した。

彼女とのやりとりはここで途切れている。

何度も取引をさせていただいているので、その時私は「倉庫が浸水してるって言っていたし、人数も多いから忘れられちゃったのかな?」と思い、別ルートで有松絞りの浴衣を手に入れた。

ただ、いつでも彼女が取引を再開しても良いように、出品していた紺色の有松絞りではなく、緑のものにした。

有松絞りは何枚あってもいいからね。そう自分に言い聞かせて。

それでもヤフオクにログインして掲示板を確認していた。

9月7日現在、やっぱり返信なし。出品もなし。


彼女が所有していたのは、コレクター向けアンティーク。

浸水してしまったら損失はとんでもないことになるだろう。

でも、どうか、無事でいて欲しい。

そうして私はヤフオクにログインして、彼女の新規出品物がないか、毎日確認しているけれども、そろそろ諦めた方がいいのかもしれない。

でも、また、彼女の拘りのアンティーク着物と、達筆なお手紙が読みたくて、今日もまたヤフオクにログインしている。












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