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中国、浙江省のおもいでvol.1
『硝子戸~プロローグ~』
一年前、2019年の3月から4月までの一ヶ月間、ぼくは中国浙江省の工商大学に短期留学していた。新型コロナウイルスが流行する前のこと。今、浙江省は封鎖されている。
無責任で宙ぶらりんな二十歳は、何か新しいことを挑戦するには良い機会だと思った。一生のうち二度と来ない20歳。その扉の前で右往左往する日々に嫌気がさしていたところである。「中国」それは、僕にとって不思議な輝きを放つ単語。
密封された日々の外へ、自分の外の世界に何か新鮮なものを求めていた。
3月の浙江省は雨季で霞がかかり、景色は白くモヤがかかっている。雨のやまない季節なのだ。北京や上海の都会からは離れており、西湖を中心とした、自然豊かな場所だ。イメージは長野県の諏訪湖の周りを鎌倉の小町通りで並べたようなレトロな街並み。
ぼくの留学先の大学は、西湖から50分ほどさらに内陸に向かう。他大学が密集し、学生寮の周りを学生街が賑わっている。最初は初めて足を踏み入れた土地の広大さに戸惑うばかりだった。
大学の外は田舎の繁華街といった感じだろうか。車やバイクの整備をしている小さな工場や、八百屋、子供を背負いながらこれまた小さな商店をお母さんが切り盛りしていたり、小料理屋などがポツポツとあった。
不思議と一日中静かなのだ。日中、学生は授業。夜中、大学の南に広がる学生街が賑わうのみで、ぼくたち北側のホテルはとても静かだった。
ホテルに落ち着き、窓を開けると涼しい風が吹いた。静止した街に足を踏み入れてしまったかのようで落ち着かない。
これから一カ月は泣こうが喚こうが、日本にはおろか、他の国にも行き着くことはできない。
夜は世話になる大学の学生と教授が歓迎会を開いてくれると言う。それまで部屋で一人だ。日本にいても一人の時間は多かったが、一人を強いられることはなかった。ここでは、とにかく一人にならざるを得ない。そんな体験は今までにないことで、新鮮な感覚だった。
霞がかかっているせいか外は薄暗く、5時には外もすっかり暗くなっている。
約束の時間まで後1時間。ぼくはまだ窓に吸い込まれるように、通りを挟んだ向かいの畑を眺めていた。
硝子戸の外は相変わらずの小雨だった。
言葉が人を癒す taiti
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