私がサーチャーに挑戦するまでの経緯_サーチファンド活動日誌③
はじめに ~この連載のねらい~
2021年5月に脱サラして事業承継先の探索活動(以下、サーチ活動)をはじめました。現在進行中の活動を記録することで、「サーチファンドって何?」という方やこれから始めようと検討している方に、参考情報を提供するのが目的です。
どんな経緯でサーチファンドにたどり着いたか
下図はサーチ活動のフローチャートですが、今回はステージ1のA「サーチャーになる覚悟を決める」です。サーチファンドにたどり着いた経緯も含みます。
どうやって企業サーチしているのか、具体的な内容に進む前に、サーチファンドにトライするのはどんな人?という話もご参考になると思いますので、お付き合いください。
新卒→ミスミ(経営者を目指す)
大学卒業後に入社した広告代理店で、マーケターという肩書で仕事をしていました。遣り甲斐のある仕事でしたが、入社6年目に読んだ「経営パワーの危機」という本が人生を変えました。
三枝匡さんという企業再生専門家の著作です。赤字の中小企業に単独で社長として降り立ち再生させる話で、ご自身の実体験が元になっています。この本を通して企業再生のプロという職業があると知り、思い切って三枝さんが当時社長を務めていた㈱ミスミという機械部品商社に転職しました。2007年のことです。
「経営のプロを育成する」というカンバンを掲げる当時の同社では、社員は皆「経営者」としての行動を求められます。ミスミ社内は、経営のフレームワークがあちこちに配備されている素晴らしい環境でした。
ここから巣立ったOBが様々な業界で活躍しているのは、ミスミで学ぶ経営の汎用性が高いからだと思います。この先の連載でもミスミのフレームワークを私なりに「自論」化し、投資先の経営での再現にトライする話をしていきたいと思います。
三枝さんに教えて頂いた「日本経済低迷の原因は、高度経済成長期以後に日本人の経営パワーが低下したことにある」という仮説は、いまも私の活動の根幹です。バブル崩壊後に成人した私は、日本経済をここまで陥れたその原因の心臓部分に「解」を提出する仕事に携わりたいという思いが強いです。
ミスミで8年ほどの勤務の後(在籍中、インド・東南アジアの駐在なども経験)、2016年に念願だった企業再生の仕事に就きました。フロンティア・マネジメント㈱(以下、FMI)という企業再生を専門に請け負う企業です。
中小企業の再生に目覚める
FMIが請け負う企業再生は、主に地方の中堅・中小のオーナー企業が対象です。
通常のコンサルと異なり、オーナー直下の社長室長など組織ライン内にポジションを取ります。社員さんが自分の部下になるのです。常駐期間は1年~3年。取締役になる場合は株主に善管注意義務が発生しますので、法的整理にでもなれば訴訟を起こされかねません(FMIの例ではありませんが、似たケースで実際に訴状が届いた話もあります)。
そんなリスクの高い仕事にチャレンジするFMIは、世の一般的なコンサルファームとは一線を画す、私のような人間にはこれ以上ない素晴らしい環境でした。
5年の間、取締役就任の2件は業績の再生or成長を達成、もう1件は苦しい資金繰りでしたが、資金ショート直前にスポンサーが見つかりました。
一方でこの仕事の課題も見えてきました。業績が一時的に回復しても、企業カルチャーやDNAを根本的に変える状態までにはたどり着けないケースが出て来たのです。苦しい時期を過ぎると銀行もオーナー社長も安堵しますが、ターンアラウンド・マネージャー退任後に業績が悪化する可能性を残したままでの案件終了は、やや不完全燃焼でした。
日本企業の大半を占める中小企業のほとんどは、創業家が株式を持つ非上場のオーナー企業で、創業家から代々社長を輩出することを絶対的な方針としています。そして、業績がかなり低迷するケースであってもオーナー/創業家は株を簡単には手放しません(※1)。
オーナー直下で働いた経験がサーチファンドにつながる
ならばオーナー社長を一旦は温存させ、一時的に社長の代役を担うというやり方を取りました、下記のようなパターンです。この方法を磨けば再現性のある再生手法が開発できるはずだと考えていました。
しかし結果は少し違いました。PLは良くなった、赤字が黒字になった、これで長期借入金を返せる目途が見えて来たのに、現場に身を置いていると分かるのですが社員のレベルや仕事のスピード、何より経営トップの考え方が以前とさして変わっていないのです。
いま考えると、オーナー経営者を変えるなどと息巻いて、他人様の行動様式に変更を加えようとしたのがおこがましかったのかも知れません(※2)。
このような実績を積むことが、本当に世の中のためになるのだろうかという疑問が湧いてきました。またその先に待ち受ける不安もありました。一時的に業績回復させるだけのターンアラウンド・マネージャーにいつまで仕事の依頼が来るだろうか、と。
それでも企業再生への情熱は持ち続けていました。FMIのようなファームに属したまま継続するか、企業再生のプロとして独立するか悩んでいた2020年に出会ったのがサーチファンドでした。
サーチファンドとの出会い
サーチファンドの説明会が東京都内で開催されたのは2020年の1月頃のことです。主催は現在の㈱サーチファンド・ジャパン(以下、SFJ)の代表の伊藤公健さんで、同社の設立前でした(9か月後の2020年10月に正式発足)。
参加者の多くは私より5歳以上若くみえ、40歳過ぎの私は対象外だなという印象を持ちました。
しかし、結局その半年後にはSFJのサーチャー募集に応募することになるのですが、その背景には企業再生の仕事が関係しています。
いま思えば、この時点で同社に出会えたことは本当に運が良かったと思います。下記がサーチファンドの構図ですが、企業再生と異なるのは、最初から株式譲渡を前提でオーナーと話し合いに入ることです。
ターンアラウンド・マネージャとして再生先の取締役に参画するといっても、株に触れることはタブーですから(創業家への退場勧告と捉えられる可能性あり)、滅多なことでは話も出来ません。
サーチファンドはオーナー社長から株式含めた経営権を承継しますので、この点は解消される可能性が出て来ます。いままではオーナー社長に遠慮して控えてきた本来あるべき経営行動が取れるかもしれない。
これが企業再生とサーチファンドの決定的な違いであり、先行きが見えにくくなっていた私にとっては期待が持てるポイントでした。
不振企業救済か、優良企業をさらに伸ばすか
そしてもう1つ大きな違いがあります。サーチファンドは不振企業の救済ではなく優良企業をさらに伸ばすことに重点があるという点です。
長い目でみてどちらが日本経済や社会により貢献するのか、現時点では分かりません。しかし自分の仮説検証へのより良い解があるならチャレンジしたいと思う気持ちは日に日に強くなって行きました。
このように考えた結果、2020年6月にはサーチャー候補へのエントリーの意思表示をし、7月にはSFJの主要メンバーの面談試験を通過し、晴れてサーチャー候補となることが出来ました(この時点では正式契約前なので「候補」です)。
当時私以外にも数名の候補者がおられ、2020年9月に顔合わせ、10月にはキックオフMTGが開かれました。
本業の企業再生の仕事が継続していましたので、活動はすべて手弁当(活動フィーなし)です。平日夜や週末を使った活動は大変でしたがとても充実していました。何より、ターンアラウンドでの行き詰まりの「次」が見いだせるかも知れないと考えると期待が湧いてきたものです。
まとめ
次回の内容
次回はアクセラレータである㈱サーチファンド・ジャパンから支援を取り付けるまでの経緯をお話しします。ここが少々ややこしいのですが、同社はサーチャーが副業としてサーチ活動を行うことを推奨しています。そして、私の場合は、フルタイム契約の前に一度サーチ~LOI提出までの1サイクルをやりながらお互いのことを知るという方法を取りました。そうした理由や、結果的にやってみて分かったメリットなどをお話します。
サーチ活動日誌目次
①サーチファンドとは何か
②いまの日本にサーチファンドが必要な理由
③私がサーチャーに挑戦するまでの経緯
④アクセラレータからの支援が仮決定する
⑤自分にあった業界を探す?
⑥サーチファンドにとって良い企業とは?(その1)
⑦サーチファンドにとって良い企業とは?(その2)
⑧事業仮説を練る
⑨オーナー社長と面談・交渉する
⑩市場分析/データ分析
⑪意向表明書を提出する
⑫デューデリジェンスを行う
⑬買収価額を算定する
⑭最後の交渉~譲渡契約締結
⑮経営に参画する~Day1を迎えるまで~
※目次は今後変更の可能性があります
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※1: 日本の企業再生を牽引された弁護士・高木新二郎先生の回顧録「事業再生と民事司法にかけた熱き思い」(商事法務、2016年)の中で、「産業再生機構も中小企業も扱ってよいとされており、かなりの中堅企業から相談がありましたが、経営者更迭が必要であると知るとほとんどが取り下げられた」ことから、「地方の中堅企業を再生させることが出来る可能性については、私はかなり懐疑的でした」と述懐している。
※2: ここに書いた企業再生は、オーナー社長を存続させたままの、金融手法としては中小企業支援協議会などの仲介で行われる「暫定リスケ」といった比較的簡易なやり方を取るケースです。資金繰りが逼迫するようなケースでは、債権カットや民事再生等の法的整理になりますが、その場合はオーナー社長は交代し新しい株主や経営者の手に委ねられます。
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