サーチャーが持つべき7つの特質③~人間関係構築力~_コラム039
はじめに
このコラムは事業承継先のサーチ活動を続ける筆者が、日々感じたことを徒然に記録するものです。サーチファンドについて体系的に知りたい方はこちらをご覧下さい。
サーチ活動のための7つの条件?
スタンフォードGSBによる「サーチファンド入門(A Primer On Search Funds)」に、「How Do I Know If A Search Fund Is Right For Me?(どうすればサーチファンドが自分に向いていると分かるか?)」という一章がありますが、そこでサーチャーに求められる特性が7つが挙げられています。
3つ目の今回は③Ability to build relationships and networks(人間関係構築力)です。何となく、これだけで内容はわかるような気もしますが詳しく見て行きましょう。
①Attention to detail(細部へのこだわり)
②Perseverance(忍耐力)
③Ability to build relationships and networks(人間関係構築力)
④Belief in one’s leadership ability(己のリーダーシップ力への自信)
⑤Willingness to seek, and heed, advice(アドバイスを求め、耳を傾ける意欲)
⑥Flexibility(柔軟性)
⑦Adaptable and modest lifestyle(融通が利く質素なライフスタイル)
(仮説)サーチ活動とは選挙活動である
この活動をやってみての実感は、サーチャーは多くの方から応援して頂かないとやって行けないということです。そのときの心理はあたかも選挙に立法補しているような感じ。会う人会う人に頭を下げて「支援してください」「紹介してください」「認めてください」「譲ってください」とお願いしまくる活動です。そして支援下さる方には心からしっかり感謝を伝えること(当たり前ですが)。
そんな感じですから、当然いろんな方々との関係構築力は必要になってきます。サーチャーというと独力で何もかもやらなければならないということはなく、逆に様々な方から支援を取り付けることが非常に重要です。私はまだその領域には達していませんが、出会った瞬間に「この人を応援してあげよう」「成功して欲しい」と相手に思わせる力がある人、ときどきいますよね。そうした資質はサーチャーにとって大変強力なものになるでしょう。
では改めて、「サーチファンド入門(A Primer On Search Funds)」で列挙されている必要な支援者を挙げてみます。
■投資家(10~15の個人・組織からの投資資金集めが要る)
■業界に詳しい関係者(企業を知るための情報ソースとなってもらう)
■オーナー社長(譲り渡して頂く必要があり、説得が必要なときも)
■経営アドバイザー(投資実行後の経営実務のサポートが必要)
この4つに異論はありません。一番の支援者が投資家であることは全サーチャーの共通点であり、私の場合は㈱サーチファンド・ジャパンです。同ファンドのことはこれまで散々触れているので、宜しければこちらの投稿を御覧ください。
私なりに現在支援頂いている or これから支援頂かなくてはならない人々について挙げてみます。すべてのサーチャーが同じ考えではないという点だけご留意頂きながら、みなさまの参考になれば幸いです。
支援者①: M&A仲介会社
承継先企業を紹介してくれる企業です。
DM送付して自力でゼロから関係構築することありますが、こうした企業からの紹介が多いのは米国でも同様のようです。サーチファンドの規模だと、片側FAよりもM&A仲介を専門とする企業に間に立ってもらい(両者の違いについてはいずれでどこかで詳しく話します)、相手方と当方の間を何度も往復して調整してもらいます。売り手にも、我々買い手にも利害や言い分がありますので、簡単にはまとまりません。
中小企業の大半は家業であり、M&Aのテーブルに参加する企業(一定の歴史と収益がある企業)には、それを支えるオーナーと創業一族の存在がありあます。日本には、家業を譲り渡すことへのある種の「恥」に似た感情があり、日本の社会や世間に深く根ざしたこの心理は一朝一夕で消え失せるものではありません。承継することを決心するまでが長く、決めた後はさらに迷う。親族の利害関係者が色んなことを言ってくる。企業と創業家のおサイフが完全に分かれていないケースも多く、非常に複雑なものです。
片や買い手である我々も様々な条件を提示させて貰います。なんでもOKということは当然ですが、ない。例えば以下のようなことを考えて探します。
利益相反(コンフリクト)が懸念されることもあるM&A仲介ですが、私が実際にやってみた印象では、実態を知らない人が発言していることが多いように思います。
この状況を最終的な成約まで辿り着かせることは大変高度なスキルと経験の要る仕事であると、サーチ活動を始めて本当によく分かりました。M&A仲介会社がサーチ活動に絶対不可欠とまで言い切るつもりはありません。サーチャーがオーナー経営者と個人的な関係をすでに持っているケースでは、むしろ仲介者はいない方が話が早いケースもあるでしょう。
しかし私のようにこれまでの人生で「あなたに会社を継いで欲しい」と言われたことが殆どない人間にとっては、M&A仲介会社の存在は欠かせないものです。
一方で彼ら・彼女らも商売でやっている訳ですから、こちらが適切な商売相手であることを認めてもらわねばなりません。この先はまた何れでどこかで。
支援者②: 各業界の情報通
「サーチファンド入門(A Primer On Search Funds)」でも挙げられていますが改めて解説します。
土地勘のない業界をサーチするとき、先達からのアドバイスは欠かせません。この点はビザスクの登場はものすごくありがたい一方、経費上なんでもかんでもビザスクでというのも出来ません。
ではどうするかというと、友人・知人に「久しぶりに連絡して申し訳ないんですが、教えて頂けませんか?」とたずね、OKもらったらZOOMなどを設定し、こちらから色々と質問して回答頂くというやり方です。
私の場合はFacebookメッセンジャーで連絡するのがほとんどです。お願いして断られたことはないのですが(親切な方ばかり)、とはいえ、以前は近しい関係だったが最近は遣り取りが少ない友人、FB友達になっているだけの弱いつながりの知人(ほぼ単なる知り合い)、サーチ中に偶然出会った方を呼び止めて「実はお願いが・・・」と連絡するケースも。
こちらの都合で連絡して時間をとってもらうのは申し訳ない気持ちにもなります。不躾な点は重々お詫びした上で事情を話し、時間を取って貰います。
蛇足ながら、突っ込んだヒアリングをお願いするときには謝礼をお支払いすこともあります。現金でお支払いすることもありますが(事前に請求書を発行して貰います)、個人にお支払いするときに便利なのはAmazonギフト券(Eメールタイプ)、けっこう使いました。
支援者③: 承継先の社員の皆さん
「サーチファンド入門(A Primer On Search Funds)」では挙げられていませんが、欠かせないのは承継先の社員さんたちからの支援です。皆さんもサーチャーCEOのために働いている訳ではないですから、「支援」というのは少々変な響きかも知れませんが、私の実感としてはしっくりきます。
私の前職である企業再生と比べると分かりやすいかも知れません。
私的整理(特にオーナー社長を温存したままのリスケ)の対象となる企業は、負けが込んでいると同時に勝ちに逆転させるまでのタイムリミットが短く制限されている状態です。「まず様子を見てから」では手遅れです。社内を大急ぎでチェックして課題を洗い出し、変えるべきは一気に変える。
新参者であるターンアラウンド・マネージャーがこの道ウン10年のベテラン社員さんに「そのやり方ではダメなので中止して、こっちに変更お願いします」と迫る場面が多々出てきます。緊張関係が生まれるのも当然ですが、遠慮は命取りになりかねません。というか最初に手加減したターンアラウンド・マネージャが結局「ミイラになったミイラ獲り」と堕したケースを沢山みてきました。長らく低迷している会社が「慣性の法則」に従えば、改革者も一緒に奈落の底に落ちるだけです。
しかしサーチファンドは大きく異なります。承継させて頂くお相手は、事前の財務分析やDDを経たうえで選ばせていただいた「いま現在勝っている企業」であることが大半です。「慣性の法則」でも当面成長できる見込みが立つ企業です。
オーナー経営者からバトンを承継したとは言え、結果を出している皆さんに「それじゃダメ」「変えて」と乱暴にやれば、良い面・勝ちの要素までも失われる可能性があり、これは投資家が最も恐れる事態の1つです。
とは言え、現場社員さんにお任せするだけならサーチャーCEOなど無用、オーナー様にそのまま残って頂く方がよほどマシ。自分が更に成長させる余地があると思ったからオファーさせて頂いたのです。
ここで理想的なのは、サーチャーCEOが残った社員さんから全面的な協力を取り付け更に上を目指すという姿です。リーダーとして皆さんに支援頂くという表現がピッタリではないかと思います。
最初はお互い恐る恐るのスタートになるでしょうが、いつまでもノロノロしている訳にも行きません。サーチャーCEOは自分の新しい方針を伝え、出来るだけ早く次の成長に舵を切らねばなりません。ここからが本当の実力が試されることになるだろうと思います。
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