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市場分析/データ分析をする_サーチファンド活動日誌⑩

はじめに

2021年5月に事業承継先のサーチ活動をはじめました(当時、45歳)。「サーチファンドって何?」という方や、これから始めようという方向けに、実際の活動の様子をお届けします。現時点では(2022年5月)事業承継を完了し、故郷・山梨県のミスターデイク株式会社の経営実行をスタートさせております。

小テーマのコラムも連載しておりますのでご覧ください。

「当たり前なことをしています」

今回は「G.市場分析 データ分析」です。「E.事業仮説を練る」「F.オーナーとの面談/交渉」と並行して、マーケット環境や競合の状況を、データに基づきながら分析するプロセスです。

初歩的な話ばかりで退屈かも知れませんが、このコラムはサーチャーの活動実態をお伝えすることが趣旨ですので、「当たり前なことをしています」と伝えることに意義があると考えて、そのまま書きます。

ニッチ産業には「データ」が存在しない

サーチファンドが対象とする企業はニッチな産業を事業ドメインとしているケースが多く、結果として市場・顧客・競合のデータを入手しにくいという問題に直面します。

私が承継させて貰ったミスターデイク株式会社の住宅の新築・リフォーム業界は規模が大きく競合も多いのですが、サーチファンドでは例外的なケースだと思います。

投資家から出資を募るのに「市場データがないのでよく分かりません」では投資可否の判断がつきません。またサーチ"ファンド"としては、事業ドメインの将来的な有望性は必須要件です。

何とかして市場や競合のデータを入手し、この業界は今後伸びます、対象企業は競合に対して相対的な強みを持ってますということを客観的・定量的に説明する必要があります。そのため市場分析/データ分析なのです。

ここから先は、実際にどんな情報源が役に立ったのかお話します。

実際に役立った6つの情報源

情報源①:調査会社のデータブック&各種統計資料

基本中の基本です。

矢野経済研究所等などの調査専門会社が発行しているデータブック、シンクタンクやコンサルティングファーム、総務省統計局が公表している様々な調査データは、市場を大づかみで把握するのに最適です。

矢野経済研究所等のデータブックは販売価格が数10万円はしますし、参照するのは数100ページの内の2~3ページだけということもあります。そのため、購入することは極力控え、国立国会図書館に足を運びました。パンデミック時は入場制限をしていたため(現在2022年6月時点でもまだやってるようですね)、一時期は毎週のように抽選予約のサイトから申し込みをして、抽選に選ばれた日にメトロに乗って永田町駅まで向かいました。

総務省統計局がサイト上で開示しているデータ、シンクタンクが発表している調査データ等はネットのキーワード検索で比較的容易に見つけることが出来ました。

これらの情報源から得られた市場全体のデータ(規模、成長率、主な参入企業、その他概要)は、投資申請書の冒頭のサマリーの次の1ページで使いました。冒頭で「市場は大きくて伸びますよ」と言いたいわけですが、そこにはめ込んだ形です。

一方で、サーチファンドが対象とするような歴史も古くかつニッチな産業が「市場は大きくて伸びますよ」と言い切れるケースは、多くはないと思います。十中八九は成熟業界なので、良くて微増、ほとんどが横ばいです。

もし衰退業界に投資する場合、自社によほどの強みがあって、縮小する残存パイを他社から奪取出来ると言い切れる必要があるでしょうが、かなりハードルが高いと思います。

また、ニッチ産業ではドンピシャのデータブックがないことも多いため、その周辺業界を調べて、推計データを出すという必要がありました。

情報源②:関連の書籍を買って読む

これも当たり前と言えば当たり前。

その分野の専門家がまとめた著作です。アマゾンで買ったり、大型書店(ジュンク堂・丸善・八重洲BC等)へ行って関連コーナーをブラついてそれに近しいものを見つけて購入しました。

個人や特定の企業が書いた書籍は、著者独自の視点や切り口が全面に出ているのでマクロデータの収集には適さない場合もあります。例えば、300ページで3,500円くらいするけど欲しい情報はグラフ1つだけみたいなことがよくありました。

この辺は予算と相談ですが、ちょっと見合わないな(高いな)と思ったときは自宅近所の図書館で借りて来てました。予約してから届くまで数週間かかることもありますが、仕方ありません。得られる情報量と出費を天秤にかけてときには購入し、ときには図書館を利用したりという感じでした。

情報源③:業界団体へのヒアリング

あるケースでこれが大事な情報源になりました。

エンタメ系の事業を営む企業を調べていたときのことですが、ドンピシャの業界団体(一般社団法人)があったのです。

同協会が毎月発行している協会誌の編集担当者さんに電話で面会を申し入れたところご快諾頂き、先方様事務所でお会いすることが出来ました。先方さんも最初は「何の目的だ?」というような感じでしたが、失礼のないようにしながらも、押しかけて行って話をうかがいました。

その道のプロですから勿論タダではありません。個別のZOOMでお時間を頂戴した後に謝礼をきっちりお支払いしました(事前にお見積書を出して頂き、インタビュー終了後に指定の銀行口座に振り込みました)。

インタビューでは、機関誌では言及されていない生々しい業界の動向、競合プレーヤーの特徴や内情っぽい話、顧客の趣味嗜好の変化などをヒアリングすることが出来ました。

最終的にその企業さんとのご縁はなかったのですが、事前の情報源としては非常に役立ちました。

情報源④:利用ユーザへのインタビュー

BtoC商材を扱う企業の場合、商品のユーザにインタビュー出来ればかなり貴重な情報を得ることが出来ます。対象企業の商品そのものを買っている人が見つかれば尚良しで、商品満足度や企業イメージを掴めることが出来て強力です。

海外にコンシューマー商品を輸出販売している企業を調べていた時に、ネットを物色していたら、その商材についてのとても分かりやすいブログ記事を発信している海外在住の方を見つけ、DMを送ってみました。

後でわかったことですが、この方はその界隈では有名なブロガーさんで(米国カリフォルニア州にお住まいの日本人)、私のように調査目的で近づいて来る人間は珍しかったみたいです。

サーチファンドで事業承継を目指していること、ブログで取り上げている商品を売っている企業を調べていること、ユーザの意見を是非とも聞いて参考にしたいこと等を説明してご快諾頂き、予定時間をかなりオーバーする内容の濃いインタビューが出来ました。

昔だったらお話をきくことは難しかったと思いますが、ビデオ会議が普及した現在、「ZOOM、お願い出来ませんか?」のハードルが劇的に下がっていたことも大きかったです。

たった1人であっても、ユーザさんの生声は数多のテータに匹敵する価値がありました。データからみえない商品の品質の良し悪し、価格の高い低いといった「感覚」が掴めた点はとても大きかったです。

ちなみに、このときは謝礼としてAmazonギフト券をお渡し(送信)しました。何となく、同額のキャッシュを銀行口座に振り込むよりも喜んで頂けたような印象です。ZOOMの普及・ネット社会に感謝・感謝ですね。

情報源⑤:ビザスクの利用

いまや業界分析には欠かせないツールになったビザスク。その道のスペシャリストを探し当ててマッチングしてくれるスポットコンサルというサービスです。

私が初めて使わせて貰ったのは、確か㈱ミスミに勤務していた2015年だったと思いますが、その後どんどん普及し、業界分析するならまずはビザスクで専門家を見つけ出し、質問攻めにするというやり方が一般的になりましたね。

今回のサーチ活動でもビザスクにはお世話になりました。データへのアクセスが難しいとき(そもそも、そんなものが存在しないとき)、ビザスクでたった一人の専門家を見つけ出せれば、およその概要は掴めます。

勿論ここでも予算の上限はありますので、大企業や外資コンサルのようにやたらめったら使うという訳には行きません。

上記①~④の情報源だけでは足りないなと感じたときに「ビザスク使わせて下さい」と㈱サーチファンド・ジャパンの伊藤代表にお願いしました。

情報源⑥:㈱サーチファンド・ジャパン(SFJ)のネットワーク

活動開始前に想定していなかったものの、結果としてとても有難かったのがSFJのネットワークでした。

企業分析には、SFJの伊藤代表だけでなく取締役に名を連ねている皆さんが積極的に参加してヘルプしてくれました。

「●●業界に詳しい方がお知り合いにいませんか?」
「●●サービスの専門家にお会いしたい」

というワガママに全力で応えてくれました。「ええ! そんなスゴイ方からお話きけるんですか!?」と驚くような方を紹介頂き、あれやこれやインタビューできたことが何度もありました。

広いネットワークを持つ投資家がついていてくれたことは本当にラッキーでした。

限られた予算の中でネットワーク最大限使う

改めて振り返ってみると、ネットでブロガーさんに直接コンタクトしたり、業界団体を訪ねたり、投資家ネットワークから専門家を紹介してもらったりと、その道に詳しい人を何とか探し当てて突撃インタビューすることが多かったなという印象です。

また、調査本や専門書からの定量情報よりも、人から直接取れる定性情報の方が仮説づくりには効果的でした。ニッチな分野の専門家に会える確率は、最初は低そうにみえても、実際いろいろと手を広げてみると、意外に近しい人に会えるものだと思いました。

逆に使いたいけれど利用できなかったものが、過去のニュース記事の参照です。前職の企業再生コンサルタント時代、リサーチの初期段階でまず手を付けたのが、日経テレコンや日経ValueサーチやSpeedaなどの、有料の新聞雑誌記事ナンバーの収集です。

過去記事を大量に集め、ざぁ~っと目を通すだけでも業界の概要や推移、現在抱えている課題などがイメージつきます。手っ取り早いので重宝していました。

日経Valueサーチなら日経新聞や日経産業新聞、日経MJといった日経系の過去記事が検索できますし、日経テレコンではさらに幅広い新聞・雑誌(ニッチな専門誌も多い)の情報も拾えます。SPEEDAなんかも同様ですね。

しかし今回のサーチ活動では全く利用しませんでした。これらの有料サービスに支払うコストが割高だと思ったからです。日経新聞の電子版だけはキーワード検索でちょこっと利用しましたが、1つの業界を深く掘り下げるにはとても足りません。

次回はまた間隔があくかも知れませんが、続きます。

サーチ活動日誌目次

①サーチファンドとは何か
②いまの日本にサーチファンドが必要な理由
③私がサーチャーに挑戦するまでの経緯
④アクセラレータからの支援が仮決定する
⑤自分にあった業界を探す?
⑥サーチファンドにとって良い企業とは?(その1)
⑦サーチファンドにとって良い企業とは?(その2)
⑧事業仮説を練る
⑨オーナー社長と面談・交渉する
⑩市場分析/データ分析をする
⑪意向表明書を提出する
⑫デューデリジェンスを行う
⑬買収価額を算定する
⑭最後の交渉~譲渡契約締結
⑮経営に参画する~Day1を迎えるまで~
※目次は今後変更の可能性があります
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#サーチファンド  #事業承継

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