サーチファンドとは何か_サーチファンド活動日誌①
はじめに ~この連載のねらい~
2021年5月に脱サラして事業承継先の探索活動(以下、サーチ活動)をはじめました。この連載では「サーチファンドって何?」という方や、これから始めようと検討している方向けに、サーチャーの実際の活動について分かりやすくお届けしたいと思います。
サーチファンドとは何か
買収型起業(ETA) の4タイプ
まずは基本的なことから書き起こします。
創業済みの企業を受け継ぐ形で「起業」することを、欧米のビジネススクールでは総称して“Entrepreneurship Through Acquisition” と呼び、日本語では「買収型起業」と訳されています(※1)。長いので略してETAと呼ばれることも多く、以下はETAで統一します。
サーチファンドはETAの手法の1つです。ETAは出資者のタイプによって4つに分類され、いずれも既存企業を承継して経営参画するものです。それぞれみてみましょう。
① 自己資金型(Self-Funded)
1つ目は買収資金を自分の資産・貯金でまかなうもので、近年注目を集めている個人M&Aはこれに近いです。サーチファンドとは異なるものの、既存企業の承継という点は同じです。
対象企業の規模が小さくなりがちな一方、投資家探しにあてる時間を短縮できることに加え、自分以外の投資家がいないために独立性も高く、イグジットのリターンの大半を享受できるという大きなメリットがあります。
② 伝統的なサーチファンド型(Traditional Search Fund)
「サーチファンド」と言う場合、一般的にはこのタイプを指します。
この点は私がサーチ活動で業務委託契約を結んでいる株式会社サーチファンド・ジャパンの代表・伊藤公健さんのnoteが参考になるので、こちらもご参照ください。
伊藤さんのnote連載には、ご自身のサーチ活動の経験が紹介されていたり、米国の動向紹介もあったりと勉強になることばかりです。
サーチファンドの特徴は、投資先企業のアテがついた後に資金を獲得するという、PEファンドとは順番が逆であるということです。投資家を募ることによって個人M&Aよりも規模が大きな企業への投資が可能になります。
経営経験がない若者には、巨大な資金を集められるだけの実績・信用や伝手がありません。しかし有望な投資先が1社だけなら、どうにか資金の目途がつく可能性はある(通常のファンドは複数社に分散投資します)。その1社を探し出してくることを条件に、見つかったら投資してくれる投資家と契約を結びます。
こうした仕組みを用意することが米国でサーチファンドの趣旨であり、もともとはMBA卒業生のCEOルートを用意しようという趣旨でした(スタンフォード大学GSBの教授が学生のために考案したものだそうです)。
資金の出し手は平均して15~20くらいの個人や組織、活動期間は1.5年~最大で2年程度のようです(資料によって多少前後します)。米国では1人で活動する場合と、2人組のペアで活動する場合がそれぞれ半々くらいのようです。
投資家から活動資金を得ているとはいえ、個人やペアが、探し当てる保証のないままに過ごす2年は長いと思います。投資先がみつからなかったとか、活動期間中にお金が尽きたというケースが20%~30%ほどあるといわれ、この道に踏み出すのはなかなか勇気が要ります。
実際、MBA生が伝統的なサーチファンド型を開始する際、同窓生が投資銀行やコンサルティングファームから高額報酬のオファー受けるのを横目にみながら、家族と何度も話し合ったりして、思い切って飛び込むという話も聞きます。
つまりサーチ活動中の収入は高くはありません。それは収入ではなく正確には活動費ですからサーチャーの懐がそれで潤うということはあり得ない訳です。
また投資先は中小企業ですので、経営実行中に高額な役員報酬をもらうことも期待しない方が良いです。世のなかには並外れた報酬を得ている中小企業の社長さんもいらっしゃいますが、その多くは創業オーナー(ほぼ100%を保有する株主と同一人物)であって、ファンドが入るケースには当てはまりません。
サーチャーが金銭的に報われるのはイグジットした後になるのですが、この点は別の回で詳述したいと思います。
もちろん、それだけのリスクに見合うリターンを期待するから挑戦するわけですが、活動初期の不安定な時期というのはサーチファンド挑戦への高いハードルになります。
こうした背景から、サーチャーの初期活動を様々なかたちでサポートする仕組みが生まれました。それが次のアクセラレータ型です。
③ アクセラレータ型(Accelerator)
今回の私の活動はこのタイプです。
2021年5月1日付で、㈱サーチファンド・ジャパンとサーチャー業務委託契約を結びました。少々ややこしいですが、私はサーチャーという探索主体で、同社の社員でもなく、またファンドマネージャでもありません。サーチ活動を通して事業承継を行い、承継後には経営トップとして会社をリードすることを同社と約束したということです。
現在、㈱サーチファンド・ジャパンからは全面的なサポートを受けています。投資先候補を一緒に探索し、実行後の事業計画にアイディアを出し合い、企業価値の算定(バリュエーション)にもアドバイスをしてくれ、オーナー様との面談にも同席してくれるなど、手厚いサポートを受けています。
冒頭に「サーチ活動始めました」と書きましたが、「サーチファンドのアクセラレータと契約を結びました」とするのが正確だと思います(アクセラレータって何?という解説が長くなるので、短い表現を使ってしまいがちです)。
今回サーチ活動に踏み切ろうと考えたのは、㈱サーチファンド・ジャパンと出会えたからです。同社は、米国生まれのひな型を踏襲しながらも、日本の市場に合わせた仕組みを備えていました。これなら堅実な事業承継サーチ活動をできると思ったのですが、この点は後半で述べます。
④ 資産管理会社型(Family Office)
海外ではこのタイプと1つ前の③を一括りにして"Single Sponsor"とするのが一般的かも知れませんが、ここでは敢えて分けます。
成功した創業家や代々続く土地持ちの家系などは、一族の資産を管理する箱=会社を持っていることが多く、そうした資産家から支援を受けるケースです。
十分調べていないので確証はないのですが、これに似たタイプのETAは日本でも昔からあったのではないかと思います。
資産家が目をかけた若者を援助して(企業買収の資金を提供して)、経営を任せるというパターンです。有望な若者の支援にお金を使いたいという篤志家的な側面が前に出ているケースです。エンジェル投資家が、マイノリティーではなく単独でバイアウトするようなイメージでしょうか。
③と④を分けたのは、③がサーチャーのサポートを専業とする企業体であるのに対し(サーチャーとして成功した人が始めることが多いようです)、④はエンジェル投資や不動産管理などで既にリターンを得ている人が "その傍らでサーチャー支援を行う" というケースだからです。
一方でこのケースは単一の資産家の意向に左右されやすく、独立性を保ちたいサーチャーはあまり選択したがらないという傾向があるようです。
私がアクセラレータ型を選んだ理由
日本でもいくつかのサーチファンド・アクセラレータが誕生しており、その手法はそれぞれ異なるようですが、ここでは、私が業務委託契約を結んでいる㈱サーチファンド・ジャパン(以下、SFJ)を想定してお話します。
詳細は同社のホームページや、同社開催の説明会にご参加いただくとして、私からみた特色は以下の3点です。これによってETAの4タイプの中で最もリスクを抑えたやり方でサーチ活動が出来ると考えました。
SFJの特色①:サーチャー経験者のノウハウに触れられること
いまだ日本にほとんどいないサーチャー経験者(買収・経営・イグジットを1セット完了した人)である代表・伊藤公健さんのサポートを受けられるというのは大きなメリットです。
SFJの特色②:アクセラレータの主要3要素がそろっていること
㈱サーチファンド・ジャパンの主要株主は、日本政策投資銀行(DBJ)、日本M&Aセンター、キャリアインキュベーションの3社です。アクセラレータに必要な買収資金・候補企業・経営人材という3要素を、日本トップクラスでサポートしてくれる企業が株主になっている点が特徴であり、各3社の社員さんたちがファンド運営に深く関与しています。
DBJという銀行の信用力は言わずもがなですが、同行は融資業務だけでなく、スタートアップから大企業まで幅広い投資実績があります。ファンドに参画してしている同行メンバーからアドバイスを受けられるのは非常に有難い。特に私のように企業再生コンサルは経験あるけれど、M&A経験がほとんどないケースには彼らのサポートは欠かせません。
そして日本M&Aセンターですが、M&Aや事業承継の「成約実績No.1」(日本マーケテイングリサーチ機構調べ、対象期間は2019年4月~2021年3月)の名の通り、事業承継については日本トップであり、同社から候補企業を紹介してもらえる点も非常に大きい。
誤解のないよう申し上げると、日本M&Aセンターへの相談案件の中から、サーチャーの特性や趣向に応じて紹介されるということであって、同社のネットワークにフリーアクセスできるわけではありません。当然ですがサーチャーが希望するクライテリアが曖昧だったりすると、企業紹介のマッチング精度も上がりません。この点は別の回で詳述したいと思います。
さらにキャリアインキュベーションは、日本トップクラスのハイクラス人材の転職エージェントです(私もサラリーマン時代に同社にご相談したことがありました)。人材は事業承継の前も後も必要ですし、同社の知見を仰げるのはとても有難いです。何よりキャリア相談のプロですから、相談相手としてこれほど頼れる存在はありません。サーチ活動だけでなくときに人生相談まで応じてもらっています。
SFJの特色③:手厚い支援・伴走
上記3要素に加えて、各社から参画されているメンバーが様々な形で支援してくれます。
しばらく以前から、毎週のように同社メンバーと定例MTGをもたせてもらっています。そこでは、対象企業の選定、オーナー様との面談・交渉の進め方、投資可否の見立てや事業仮説の立案、バリュエーション、LBOローンの調達、意向表明書の作成など、事業承継に関わるすべてのプロセスに伴走してくれます。一人で活動しているという感じがまったくなく、伝統的なサーチ活動とは大きく異なると思います。
現在行っている活動について
いま現在は、投資先候補を探索して、事業の成長可能性を見立てたり、これはと思った企業オーナー様に面会を申し入れたりといった活動を行っています。機密保持契約があるため書けるのはここまでですが、いずれ機会があればお話したいと思います。
ただしアクセラレータと契約したからと言って、必ず投資実行できるという確証は何もありません。また㈱サーチファンド・ジャパンもいつまでも私と契約を続けてくれるわけでもありません。限られた期間の中で活動フィーをもらいながら、また副業も同時並行で行いながらサーチ活動を展開しています。
次回の内容
米国生まれのサーチファンドではありますが、実は日本にこそ必要な仕組みであると思います。
オーナー社長の高齢化・引退と後継者不足(継いで欲しい企業が沢山)。遅い昇進スピードに加えて、勤務先企業の成長鈍化で活躍の機会を失うビジネスパーソン(活躍の場が欲しい人も沢山)。両者の需要がこれほどまでに高まっている国は日本をおいてほかにないでしょう。それを解決できる仕組みがサーチファンドにはあるという話です。
まとめ
サーチ活動日誌目次
①サーチファンドとは何か
②いまの日本にサーチファンドが必要な理由
③私がサーチャーに挑戦するまでの経緯
④アクセラレータからの支援が仮決定する
⑤自分にあった業界を探す?
⑥サーチファンドにとって良い企業とは?(その1)
⑦サーチファンドにとって良い企業とは?(その2)
⑧事業仮説を練る
⑨オーナー社長と面談・交渉する
⑩市場分析/データ分析をする
⑪意向表明書を提出する
⑫デューデリジェンスを行う
⑬買収価額を算定する
⑭最後の交渉~譲渡契約締結
⑮経営に参画する~Day1を迎えるまで~
※目次は今後変更の可能性があります
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※1:概説としては、バーバード・ビジネススクールのETA講座の教授によるエッセイ「買収型起業に成功する法」(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー誌2018年5月号)が便利です。
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#サーチファンド #事業承継