サーチャーに必要な資質とは(1/3)_自信と説得力_コラム008
はじめに
このコラムは事業承継先のサーチ活動を続ける筆者が、日々感じたことを徒然に記録するものです。サーチファンドについて体系的に知りたい方はこちらをご覧下さい。
求められる資質をHBSの論考から考える
以前に投稿した以下の2つの連載では、候補先を1社1社検討していくプロセスを示しましたが、こうした中である程度必要とされるスキルのようなものには言及しておりますので、宜しければご参照ください。
サーチファンドにとって良い企業とは(その1)
サーチファンドにとって良い企業とは(その2)
こうした個々のプロセスから少し離れて、客観的にビジネスパーソンとしてのサーチャーってどんな資質が求められるの?ということは私自身日々考えていることです。
今回のコラムでは、これまでも何度か引用させてもらっているDiamond ハーバード・ビジネス・レビュー(2018年5月号)掲載の「買収型起業に成功する法」(リチャード S. ルバック、ロイス・ヨドコフ著、※1)を引用しながら、この論考で分析されているサーチャーに求められる必要な資質を考えてみたいと思います。
まず最初に断り書き的に「基本的な経営スキルが当然ながら必要である。たとえば財務の知識、他者を統率して管理する手腕、意思決定能力などだ。しかし、求められる資質はそれらだけではない。」という文章から始まりますが、こうした資質は何もサーチファンドに限ったものではないと思います。
それに続いて3つの資質が言及されます。
資質①: 自信と説得力
資質②: 粘り強さ
資質③: 意欲的な学習者であること(最も重要)
ちょっと精神論っぽい感じもしますが、1つずつみてみましょう。
資質①:自信と説得力
最初の説明はこう続きます。
「面識のない人々(事業売買の仲介者、投資家、売り手、そして譲り受ける従業員や顧客など)に働きかけ、将来の明るい展望を示さなければならない。」
サーチャーは実績がないのだから、せめて自分は出来る人間なんだと振る舞い、訝しむ相手を「いまは大したことない私ですが絶対に明るい未来を約束しますから!」くらいの勢いで説き伏せないとならないぞ、といった感じでしょうか(意訳し過ぎかも知れません)。
これは伝統的なサーチファンドについては特に当てはまる条件かも知れません。サーチャーがCEO未経験者であるのは事実ですし、この論考内の別の個所で述べられている「企業のオーナーを育成する方法は、実際にオーナーになること以外にありません」というのはその通りだと思います。
一方で自信と勢いだけで乗り切れるとは到底思えないというのが、現在サーチ活動を続けている私の実感です。それはなぜか。
まずオーナー社長との交渉。オーナーとの相性・人間関係、サーチャー自身がその企業に魅力を感じていることも去ることながら、オーナー社長に「あなたに(私の子供ような)会社を譲ります」と決断していただかなくてはなりません。なぜ自分が後継者として相応しいのか。サラリーマン時代を通して似たような事業を経験していれば良いですが、未経験の業界なら、自分のキャリアで得た経験・スキルがその業界でも通用する再現性があることを説明しなくてはなりません。
「未経験ですが気合で何とか乗り切ります!」というだけでは、よほど人間的に気に入って貰えている場合を除いて、話を前に進めることは難しいでしょう。あるいは「未経験ですがソロバン勘定は得意です(金融経験があったり会計・経理に通暁している)」でも弱い。
まず候補企業のドメイン市場の競争の基本構図を描き、その市場が魅力的であることを示し(投資家にとってもここは大事)、自分の経験・スキルとの相乗効果が生まれればさらに成長できるという絵を示す必要があります。
そこに「自信」というヒューリスティックな要素も必要ですが、副次的なものに過ぎないのではないかと思います。相手に示す事業計画の論理構造が破綻していたら、いくら自信を誇示しても難しいでしょう。
と、ここまで長くなってしまったので、「資質②粘り強さ」と「資質③意欲的な学習者であること(最も重要)」については次回以降に分けて書きたいと思います。
スタンフォードが考える自信
ちなみに、スタンフォードGSBが提供するサーチファンド入門にも「成功するサーチャーに共通する個人的特性」が6つ掲げられています。別の機会で1つ1つ考えてみたいと思いますが、ここではその6つについて列挙するにとどめます。
①Attention to detail(細部へのこだわり)
②Perseverance(忍耐力)
③Ability to build relationships and networks(人間関係構築力/ネットワーキング力)
④Belief in one’s leadership ability(己のリーダーシップ力への自信)
⑤Willingness to seek, and heed, advice(アドバイスを求め、耳を傾ける意欲)
⑥Flexibility(柔軟性)
スタンフォードも同様に④Belief in one’s leadership ability(己のリーダーシップ力への自信)が必要な条件であると述べています。内容はハーバードとほぼ同じ。サーチファンドの礎を築いた2トップが共通して述べているのですから、やはり大事な要素であるということは間違いのでしょう。
※1: 以前にも紹介したこのエッセイは、2017年出版のこちらの本の要約版的な位置づけです。詳しく学びたい方はKindle等でダウンロードしてみてください。大変読みやすい文章で完結にサーチファンドが紹介されています。
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