見出し画像

サーチファンドは海外ではどのように普及していったのか(3/4)_コラム017

はじめに

事業承継サーチ活動を通して日々感じたことを徒然に記録しています。他の連載も含め以下のマガジンにまとめていますので宜しければ御笑覧下さい。
45歳で挑む経営者キャリア サーチ活動日誌
45歳で挑む経営者キャリア サーチャーの徒然コラム

また、SNSはこちらです。
Facebook: https://www.facebook.com/takashi.oya.104
ツイッター: @Oya_SearchFund

中南米のサーチファンド~ブラジルのケース~

前回前々回では欧州(英国とイタリア)の動きをみてみました。

今回は中南米に目を向けてみましょう。まずはIESEビジネスクールが公表しているサーチファンドの組成数の実績です(こういうものがすぐに入手できるのは有難いですね)

無題

出展:International Search Funds – 2020 - IESE Business School

順番でいうと最も多いメキシコが28、次いでブラジルが14、コロンビアが5、チリが3です。メキシコは米国とのつながりが強くMBA留学生が多いからかも知れません(根拠の弱い推測です)。

まず最初にブラジルのサーチファンドを取り上げてみてみましょう。先日ネットを物色しているとRising Venture というサーチファンドのサイトを見つけました。名前からはVCのような印象を受けますが、中身を拝見する限り立派なサーチファンドです。

同サイト内にはブラジル国内のサーチファンドの状況にも言及がありますので抜粋してみましょう。

The concept of a Search Fund is relatively new in the Brazilian Market. Apart from Rising Venture we could identify another five Search Funds operating in the country, all of them are either in the search or in the deal phase.
(意訳) サーチファンドの概念はブラジル市場では比較的新しいものです。当社Rising Venture以外にもブラジルでは5つのサーチ・ファンドが運営されているのを確認できますが、いずれもサーチ活動中またはディール交渉中の段階にあります。

この文章の日付は2017年3月ですからいまから4年と少し前、サイト内ではその5つのサーチファンドの名前も記載されています。既に4年以上経過しているので、すべてのサーチファンドで何らかの結果が出ていると思われます(良い結果か悪い結果かは分かりません)。

ちなみにRisingVenture社は2017年8月に投資実行を完了し、経営フェーズに入ったと記載されています。恐らく現在も投資先の「B4A」という名前の企業の経営実行中ではないかと思います。

サイトの記述通りならば、RisingVenture社はブラジルで先頭を切って(あるいは先頭集団の1社として)投資実績を持っているサーチファンド、あるいはそのアクセラレータのようです。

IESEビジネスクールの最新の数字(2020年公表)によるとブラジルは14のサーチファンドが立ち上がっている(「いた」も含む)とされています。そしてRisingVenture社は自社含めて6つのファンドが確認できたと2017年時点で書きつけていますので、単純に考えればその前後で8つほどのファンドが立ち上がったことになります。

これ以外の情報をネット上からは掴むことが出来なかったので、同社以外に何社のファンドレイズが完了し、投資実行まで到達し、経営実行中なのかというような情報は分かりませんでした。

このように、ブラジルの現状を完全には把握できていませんが、少なくとも日本よりは先行しているように見えます

チリ人ペアのサーチファンドが英国の会社を買う?

続いてお隣のチリをみてみましょう。下記は、これまたネットでみつけた記事の画像を貼り付けています。

無題

タイトルの"La historia de los perimeros chilenos que compararon una compania a traves de un search fund"というスペイン語ですが、Google翻訳だと「サーチファンドで企業買収した最初のチリ人の物語」という意味のようです。

この記事は2021年4月に成立した買収の話を同年6月9日付で伝えていますから、つい最近の話ですね。

小さく添えられているヘッダーを読むと「Daniel SerdinoとJose Villegasは、彼らのファンドAlerce Capital Partnersを通じて、2021年4月に英国の造園メンテナンス会社Greenfingersの買収に成功した」とあります。

チリのサーチャーが英国の造園会社を買ったというのはどういうことでしょうか?2人が立ち上げたファンドであるAlerce Capital Partners(アラーチェ・キャピタル・パートナーズ)のホームページを見つけたので、その中身を少し見せてもらいましょう。

無題

まずURLが「https://www.alerce.co.uk/」となっていますので英国のウェブサイトです。そしてサイト内にはサーチファンドという言葉が見当たりません。「Who We are」というところを読んでみましょう。

The Alerce, or Patagonian Cyprees is an ancient tree species that can be found in the Chilean Patagonia. Charles Darwin first named it Fitzroya Cupressoides and is the largest tree species in South America. Some of the most spectacular of them are almost 4,000 years old. Our name is a way to reflect our deep connection with our origins, our respect for legacy and our long term view. We are excited about learning from your business, protecting its legacy and growing it for future generations.
(意訳) 同社の名前であるアラーチェ(別名パタゴニア・サイプレス)は、チリのパタゴニアで見られる古代樹種です。チャールズ・ダーウィンが最初にフィッツロヤ・カップレソイデスと名付けた南米最大の樹木で、中には樹齢4,000年近い壮観なものもあります。この会社名は、私たちが起源と深くつながり、遺産に敬意を払い、長期的な視点を持っていることの表明です。お客様のビジネスから学び、レガシーを守り、将来世代のために成長させることを目指します。

何となくサーチファンドっぽいですね。今度は「What We Do」 を読んでみましょう。

We offer attractive exit options to owners that are currently looking to step back from daily operations. We take over the business that we acquire and take an active management role in the company. Our focus is to implement strategies to further develop the business with healthy finances, structured and efficient processes and talent development. We take a long term approach and are fully committed to grow the business and protect its founders legacy.
(意訳) 私たちは、日常業務からの引退を検討しているオーナーに、魅力的な出口オプションを提供します。買収したビジネスを引き継ぎ、積極的に経営に参加します。健全な財務、整備された効率的なプロセス、人材育成など、ビジネスをさらに発展させるための戦略実行に重点を置いています。長期的なアプローチで事業を成長させ、創業者の遺産を守ることに全力を尽くします。

サーチファンドという言葉を使ってはいませんが、事業承継を目指していること、投資実行後に自分たちの手でハンズオンして経営にあたると表明していることからほぼサーチファンドであると考えてよいと思います。

チリ出身の二人が何らかの理由で英国に渡り(留学?移住?)、そこでファンドを立ち上げたのだと思います。こういう例もあるんですね。

興味深い事例なのでもう少しみてみましょう。OUR INVESTMENT CRITERIAと言う箇所には彼らが目当てとする企業の属性が記載されています。

BUSINESS:We are looking for a business with proven track record and history of stability.
・Stable and growing revenue(安定的に成長している売上)
・A diverse customer base(顧客に偏りがない≒大口依存ではない)
・Low seasonality(季節性がない=年間通して売上の凸凹が小さい)
・Solid middle management team(ミドル層がしっかりしている)
・Playing an important role in a niche B2B sector(ニッチなB2B市場で明確なポジションを構築している)
・Simple business model(シンプルなビジネスモデル)

まさにサーチファンドが対象に求める属性そのものです。これらの条件がすべてが揃っている企業には中々出会えないとは思いますが、とりあえず希望する属性は全部書いてみたという感じでしょうか。

FINANCIAL: History of profitability and healthy finances.
・High recurring revenue base(高いレベルで継続する売上)
・Up to £10m revenue(売上額は上限10万ポンド=約15億円)
・£0.5m - £1.3m EBITDA(EBITDAは50万~130万ポンド=7600万円~2億円)
・>10% EBITDA margin(EBITDA%は10%以上)
・Low capital expenditure(設備投資はあまり必要ない)

こちらもなかなか高いハードルですが、サーチファンドが一般的に求める財務数値を全て挙げてみたらこうなると思います。この内のどれかが当てはまる企業をつぶさにみてみて、リストを絞り込んで行く作業をしているのだと思います。

ここで、前回のコラムでみたイタリア人ペアの話を思い返してみましょう。彼らは「EBITDAが100万から500万(1.3億円~6.5億円)の細分化された市場において事業を展開している財務的に安定した企業で、設備投資額が少ない企業」を探していると述べていました。

イタリアのケースとチリのケース、各々を並べてみればEBITDAの額(=企業規模)は違えどそれ以外の条件はほぼ共通しています

一見すると随分な高望みのように見えますが、造園メンテナンス会社Greenfingersという会社の買収に成功している実績があるですからスゴイですよね。

IESEがカウントしているサーチファンド件数において、この事例がチリでの実績に含まれているのか英国側に含まれているのかまでは分かりませんでした。仮にチリからみると「外国」の出来事で、自分たちの同郷人がサーチファンドという仕事で実績を残しているという事実はやがてチリ国内にも知れ渡り(このサイト記事等を通して)、「チリ国内でもサーチファンドを立ち上げよう」という若者が出て来てもおかしくありません。

チリでも今後日本以上に普及していく可能性があるでしょう。国別で競争している訳ではありませんので、比較をすること自体にはあまり意味はありませんが。

次回はアジアをみてみましょう。

#サーチファンド #事業承継 #searchfund

いいなと思ったら応援しよう!