サーチファンドは海外ではどのように普及していったのか(3/4)_コラム017
はじめに
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中南米のサーチファンド~ブラジルのケース~
前回と前々回では欧州(英国とイタリア)の動きをみてみました。
今回は中南米に目を向けてみましょう。まずはIESEビジネスクールが公表しているサーチファンドの組成数の実績です(こういうものがすぐに入手できるのは有難いですね)
出展:International Search Funds – 2020 - IESE Business School
順番でいうと最も多いメキシコが28、次いでブラジルが14、コロンビアが5、チリが3です。メキシコは米国とのつながりが強くMBA留学生が多いからかも知れません(根拠の弱い推測です)。
まず最初にブラジルのサーチファンドを取り上げてみてみましょう。先日ネットを物色しているとRising Venture というサーチファンドのサイトを見つけました。名前からはVCのような印象を受けますが、中身を拝見する限り立派なサーチファンドです。
同サイト内にはブラジル国内のサーチファンドの状況にも言及がありますので抜粋してみましょう。
この文章の日付は2017年3月ですからいまから4年と少し前、サイト内ではその5つのサーチファンドの名前も記載されています。既に4年以上経過しているので、すべてのサーチファンドで何らかの結果が出ていると思われます(良い結果か悪い結果かは分かりません)。
ちなみにRisingVenture社は2017年8月に投資実行を完了し、経営フェーズに入ったと記載されています。恐らく現在も投資先の「B4A」という名前の企業の経営実行中ではないかと思います。
サイトの記述通りならば、RisingVenture社はブラジルで先頭を切って(あるいは先頭集団の1社として)投資実績を持っているサーチファンド、あるいはそのアクセラレータのようです。
IESEビジネスクールの最新の数字(2020年公表)によるとブラジルは14のサーチファンドが立ち上がっている(「いた」も含む)とされています。そしてRisingVenture社は自社含めて6つのファンドが確認できたと2017年時点で書きつけていますので、単純に考えればその前後で8つほどのファンドが立ち上がったことになります。
これ以外の情報をネット上からは掴むことが出来なかったので、同社以外に何社のファンドレイズが完了し、投資実行まで到達し、経営実行中なのかというような情報は分かりませんでした。
このように、ブラジルの現状を完全には把握できていませんが、少なくとも日本よりは先行しているように見えます。
チリ人ペアのサーチファンドが英国の会社を買う?
続いてお隣のチリをみてみましょう。下記は、これまたネットでみつけた記事の画像を貼り付けています。
タイトルの"La historia de los perimeros chilenos que compararon una compania a traves de un search fund"というスペイン語ですが、Google翻訳だと「サーチファンドで企業買収した最初のチリ人の物語」という意味のようです。
この記事は2021年4月に成立した買収の話を同年6月9日付で伝えていますから、つい最近の話ですね。
小さく添えられているヘッダーを読むと「Daniel SerdinoとJose Villegasは、彼らのファンドAlerce Capital Partnersを通じて、2021年4月に英国の造園メンテナンス会社Greenfingersの買収に成功した」とあります。
チリのサーチャーが英国の造園会社を買ったというのはどういうことでしょうか?2人が立ち上げたファンドであるAlerce Capital Partners(アラーチェ・キャピタル・パートナーズ)のホームページを見つけたので、その中身を少し見せてもらいましょう。
まずURLが「https://www.alerce.co.uk/」となっていますので英国のウェブサイトです。そしてサイト内にはサーチファンドという言葉が見当たりません。「Who We are」というところを読んでみましょう。
何となくサーチファンドっぽいですね。今度は「What We Do」 を読んでみましょう。
サーチファンドという言葉を使ってはいませんが、事業承継を目指していること、投資実行後に自分たちの手でハンズオンして経営にあたると表明していることからほぼサーチファンドであると考えてよいと思います。
チリ出身の二人が何らかの理由で英国に渡り(留学?移住?)、そこでファンドを立ち上げたのだと思います。こういう例もあるんですね。
興味深い事例なのでもう少しみてみましょう。OUR INVESTMENT CRITERIAと言う箇所には彼らが目当てとする企業の属性が記載されています。
まさにサーチファンドが対象に求める属性そのものです。これらの条件がすべてが揃っている企業には中々出会えないとは思いますが、とりあえず希望する属性は全部書いてみたという感じでしょうか。
こちらもなかなか高いハードルですが、サーチファンドが一般的に求める財務数値を全て挙げてみたらこうなると思います。この内のどれかが当てはまる企業をつぶさにみてみて、リストを絞り込んで行く作業をしているのだと思います。
ここで、前回のコラムでみたイタリア人ペアの話を思い返してみましょう。彼らは「EBITDAが100万から500万(1.3億円~6.5億円)の細分化された市場において事業を展開している財務的に安定した企業で、設備投資額が少ない企業」を探していると述べていました。
イタリアのケースとチリのケース、各々を並べてみればEBITDAの額(=企業規模)は違えどそれ以外の条件はほぼ共通しています。
一見すると随分な高望みのように見えますが、造園メンテナンス会社Greenfingersという会社の買収に成功している実績があるですからスゴイですよね。
IESEがカウントしているサーチファンド件数において、この事例がチリでの実績に含まれているのか英国側に含まれているのかまでは分かりませんでした。仮にチリからみると「外国」の出来事で、自分たちの同郷人がサーチファンドという仕事で実績を残しているという事実はやがてチリ国内にも知れ渡り(このサイト記事等を通して)、「チリ国内でもサーチファンドを立ち上げよう」という若者が出て来てもおかしくありません。
チリでも今後日本以上に普及していく可能性があるでしょう。国別で競争している訳ではありませんので、比較をすること自体にはあまり意味はありませんが。
次回はアジアをみてみましょう。