サーチャーに向いている前職はあるか?_コラム006
はじめに
このコラムは事業承継先のサーチ活動を続ける筆者が、日々感じたことを徒然に記録するものです。サーチファンドについて体系的に知りたい方はこちらの連載を御笑覧下さい。
サーチャーにはどんな経歴があるのか
先回こちらのコラムで前職についてお話したところ個別にご連絡や質問を多くいただきましたので、私以外の数字(米国の数字になってしまいますが)なども援用しながらもう少し考えてみたいと思います。若干内容に重複あると思いますがご容赦ください。
日本ではサーチファンドの歴史がまだ浅く、データが手元にありませんので、米国を中心にサーチファンドの統計記録として最も充実しているスタンフォードGSBの調査から抜粋します。
サーチャーの前職の調査結果が記載されています。
横軸はサーチファンドが活動を始めた年を示しています(18年~19とは2018年~2019年の2年間に新たに活動開始したものが対象)。年によって凸凹がありますがおよその傾向は掴めます。大きく分けると以下の3つと言えそうです。添えた数字は直近数年のザックリ平均値です。
①経営コンサルタント :15%
②投資銀行/PE :40%
③事業会社 :20%
念のため投資銀行とPE(プライベート・エクイティ・ファンド)とは実際はかなり違いのですが、他の職種に比べれば比較的近しいグループなので一緒にしています(原典資料では分けて記載されています)。
年によりますが、この3カテゴリーの合計は6割~7割で推移しています。
「比較的企業経営に近いところで仕事をしていた人」「企業買収に必要なファイナンシャル・リテラシー」という2つの要素を持っている人と言えそうに思います。
たしかにサーチ活動における対象企業の選定においては、経営と言う観点から企業を査定し、財務諸表を読み込み、適切な企業価値を算定します。例えば、事業会社で商品開発やマーケティングに特化したキャリアの人はこうしたスキルを仕事として経験することはあまりないでしょう。
コンサルタントはサーチャーに向き/不向き?
まず①経営コンサルタント(15%)ですが、1984年~2001年頃(サーチファンドの草創期ですね)は26%あった割合が、直近3年は10%前後と大幅に減少しています。理由は何となく推測できないないこともないのですが、ここでは一旦数字の確認でとどめておきます。
コンサルタントがサーチャーに向ているか否かは何とも言い切れません。いずれにせよコンサルタントだけの経験者は、「実務はできますか?」というオーナーや投資家の質問に何らかの納得感のある答えを用意することを求められるように思います。必ずと言っていいほど問われる点だからです。
投資銀行/PE出身者が多い理由
次の②投資銀行/PE(40%)ですが、サーチファンドはある意味でM&Aがスタートラインとなり、そうした業務に関与したことがない人にとって結構ハードルが高いですす(と偉そうに書いていますが私もその一人です)。
逆に言えばこの点が投資銀行/PEの出身者が比較的多い理由ではないかと思います。最初の険しいステップを経験したことがある人の方が有利になりやすい(挑戦への心理的ハードルが下がりやすい)ということがあるのではないかと思います。
サーチ活動を始めたのに2年以内に断念するケースが3割弱あります。事業だけをやっていたサラリーマンや経営コンサルタントが2年間、慣れないファンドレイズ活動や投資先ソーシング活動をへとへとになりながらやがて疲れ果てて断念です。そんな光景を目に浮かべた人は、サーチ活動には躊躇してしまうのかも知れません。それはそれで当然のことだと思います。
ただし、サーチャーの平均年齢は30歳前後ですので、投資銀行経験者といっても入社数年でアソシエイトやジュニア・マネジャーくらいまで経験した人が、MBAを取るか(あるいはその前にMBAを取ったか)した後にサーチャーにチャレンジするケースが多いのだと思います。
この連載でも度々取り上げているスタンフォードGSBのBrown Robin Capitalのペアの一人、Ryan Robinson氏はそのような事例です。彼は米国のヘッジファンドに4年半務めたあとMBAを取得し、そこでサーチファンドと出会っています。その経緯に関するコメントを抜粋してみましょう。
“I enjoyed learning how to be an investor, but once my learning curve began to level off, it lost its appeal and I didn't feel fulfilled. I went to business school explicitly to move into an operational role, thinking I wanted to ultimately start a business. After further introspection, I realized that it wasn’t starting a business that I was excited about as much as wanting to lead a growing company.”
(意訳)「投資を学ぶことは楽しかったです。しかし学習カーブが停滞し始めると徐々に魅力を失い、不満を持つようになりました。ビジネススクールには、事業を運営する側に立つんだという明確な目標を持って通いましたし、ゆくゆくは自分で事業を始めたいと考えていました。さらに突き詰めて考えてみると、事業を始めることよりもむしろ、成長企業をリードすることの方が自分はワクワクできると気付いたのです。」(注1)
サーチャーとして活動中、ロビンソン氏の投資業務の経験、特に企業や業界分析のスキルは非常に役に立ったという趣旨が資料の中で言及されています。
やはりこうした分野の経験者は一日の長があるように思いますし、サーチャーの前職の構成比が高くなるのも理由があるように思います。
一方でこうしたファイナンシャルリテラシーの不得意な方は、それをカバーしてくれるのがアクセラレータのメンバーですので、その点は伝統的サーチファンドではない別の手段を検討されても良いのではないかと思います。
事業経験とはどんな経験?
最後に③事業会社 (20%)の経験者。事業会社と一口に言っても業種・業界は様々でしょうが、何か傾向などがあるのか。草創期には9%程度だった割合がその後増加しているのはなぜなのか。このあたりを私自身まだ勉強しきれておらず明確に書けないのですが、1つ仮説があるとしたら日本ではこの割合が米国よりも高い割合になるのではないかということです。
米国でのサーチファンドは、売り手(オーナー社長)よりも買い手(サーチャー)に軸足が置かれた状態で成り立ったため、サーチャーのバックグラウンドはどちらかというと投資家の審査の目が厳しかったと思います。
しかし日本の事業承継は現状は圧倒的に売り手(オーナー社長)の方に軸足があり(政府の勉強会などの話をきくと「事業承継の解決策としてのサーチファンド」という側面が強いように思います)、オーナーが認める経歴が好まれやすくなる。そうなるとどうしもて自分でモノを売っていた人、作っていた人、運んでいた人に譲られることが多くなるのではないかと思います。
ただしこの点はまだ仮説ですので、答え合わせは早くて5年後、もしかしたら10年後くらいになると思います。
ということで今回はサーチャーの前職について色々と考えてみました。
まとめ
■サーチャーの前職には金融/経営の何れかにサラリーマンとして携わっていた人が半分以上であり、この点はアドバンテージになるようだ
■投資銀行/PEの経験者が多いのは最初のM&A経験に強い人がサーチャーとして挑戦しやすいからではないかと推測
■コンサルタントが減少傾向だが理由は不明、いずれにせよ事業の経験を問われることになるのでコンサルが有利ということは必ずしも言えそうにはない
■最後に事業会社だが、特に日本においてはこの経験がオーナー社長から評価されやすいがために米国よりも割合が高くなのではないか
※1: サーチファンド発祥のStanford Graduate School of Businessが作成したBROWN ROBIN CAPITALのケース資料は、The Case Centreのサイトに登録すれば誰でも購入できます。PayPal/クレジットカード決済で£6.45(≒1,000円)でPDFファイルとしてダウンロードできます。
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