恋人と別れた後の自己資金活動_サーチャーの居住地問題②_コラム020
はじめに
事業承継サーチ活動を通して考えたことを徒然にまとめてみます。皆様のご参考になれば幸いです。
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45歳で挑む経営者キャリア サーチャーの徒然コラム
自己資金サーチって実際のところどうなの?
先回のコラムは、コロンビア・ビジネススクールが作成したケースからの引用で、ガールフレンドに生活費(主に家賃)を支えて貰いながら自己資金で活動するMarc Cussenot氏の活動をみてみました。今回はその続きです。
彼が自己資金サーチを選んだ経緯については、ガールフレンドと居住を共にすること以外にも色々と背景が書かれていますので引用します。
I knew that a self-funded search would allow me to retain a majority stake in the company. Looking closer at the economics, it became clear that a solo, self-funded search made the most sense—it would allow me to consider companies generating as low as $0.5 million of EBITDA while having equal if not greater financial rewards. My chances of closing a deal would be greater, having access to a great pool of companies and facing less serious competition from other buyers. Another benefit of a self-funded search is that there are fewer restrictions on industries. As a solo searcher, I have self-imposed restrictions based on reasonable criteria for what makes a good target.
(意訳) 自己資金ならば、投資先の過半数の株式を保有できることはわかっていました。経済的な観点からよく考えると、単独の自己資金によるサーチが最も理にかなっていることが分かってきました。EBITDA50万ドルの企業(サーチファンドとしてはやや小ぶりなサイズ)も対象範囲になりますし、(伝統的サーチファンドと)同等かそれ以上の財務的なリターンが期待できます。より多くの企業にアクセスできて他のバイヤーとの競争も少なくなるために、取引を成立させる可能性が高くなるのです。もう一つの利点は、業種の制限が少ないことです。私はソロサーチャーなので、良いターゲットとは何かという合理的な判断を自分の評価軸で決められるのです。
自己資金サーチと聞くと「大変そうだなぁ」という先入観を抱きがちですが(私がそうです)、実際に自分でやってみた上で「最も理にかなっている(made the most sense)」と言い切るMarc Cussenot氏には脱帽です。やはりサーチャーである以上、このくらいのガッツと行動力が欲しい(願望です)。
さて、本コラムの主題は居住地問題でした。その観点から、その後のCussenot氏の活動をみてみましょう。
The initial period of my search was very stressful. I was not earning money, so finances were tight. (....) On top of that I had to deal with the time-consuming administrative process and expense related to obtaining a visa, plus all the stress from the lack of financial resources and professional stability. Over time, this had tremendous impact on my personal life and on the relationship I had with my girlfriend. One year after my search began, my girlfriend and I broke up. (....) I had to get a new apartment with a roommate to save money. I had to find a cheap office. I generally had to get my personal life back in order to be able to search effectively.
(意訳) 最初の期間は非常にストレスが溜まりました。私はお金を稼いでいなかったので、経済的に厳しかったのです。(中略)それに加えて、時間のかかるビザ取得のための手続きや費用、さらには経済的な余裕や仕事の安定性のなさからくるストレスにも対処しなければなりませんでした。時間が経つにつれ、こうしたストレスは私生活や彼女との関係にも凄まじい影響を与えるようになりました。サーチ活動スタートから1年後、ついに彼女と別れてしまいました。(中略)節約のためにルームメイトと一緒にアパートを借りたり、安いオフィスを探さなければなりませんでした。しっかりとした活動を行うためには、私生活を立て直さなければならなかったのです。
「理にかなっている」というコメントもありましたが、やはり自己資金活動は大変だったようです。お金がない、時間がない、活動が思うように進まないという焦りやストレスは、状況が違うとはいえ私もよく分かります。
それだけが原因ではないでしょうが、結局ガールフレンドとは破局してしまいます。住居費の大部分を負担してくれていた同居人と別れた以上、出て行くのは彼の方だったのでしょう。新たにルームメートを見つけアパートをシェアして借りるようになります。
その後のサーチ活動の結果
その後、更なる紆余曲折を経てどうなったのか。このケースが書かれた2016年時点ではサーチ活動中だったようで、結末が書かれていません。
そこでネットでお名前を色々検索してみると以下のウェブサイトを見つけました。
Precision Concrete Cuttingという米国ユタ州にある企業です。Marc Cussenot氏のお名前があり、Owner/CEOとなっています。サーチ活動の末にこの会社を事業承継したとみて間違いないでしょう。
Precision Concrete Cutting社は、歩行者やハンディキャップのある方が、歩道の凸凹や段差で転んでケガをしないよう舗装するサービスを提供している会社のようで、具体的な商品サービスをイメージしにくいですが、「特許取得済みの技術」を持ち、「修理にかかる費用を最小限に抑えられる(歩道の全面張替えに比べて70~90%のコスト節約)」とも書かれています。
サーチにかけた時間は3年??
会社のあるユタ州は、Marc Cussenot氏が最初に決めた条件「サンフランシスコから半径100マイル以内(約160㎞以内)」から外れています。
ここから先は私の推測が入りますが、住まい・拠点の縛りが(ガールフレンドとの別離によって)なくなった結果、対象となるエリアを広げたのだと思います。
また、サーチ活動の開始は2014年6月頃で(ケースが書かれたのはその2年後ですね)、Precision Concrete CuttingのCEOになったのは2017年6月なので、つまりサーチ活動には実質3年(2014年6月~2017年6月)をかけたようです。
正確なことはご本人にうかがってみないと分かりませんが、「3年」が事実だとしたら、通常のサーチ活動の期間(上限2年が目安)に比べてかなり長めです。
その理由として「自己資金サーチ」があるのではないかと思います。通常、サーチ活動が2年が限度とされるのは、最初にファンドレイズした活動資金がもつのが2年が限度だからです。
誰かが「2年以上は許されない」などど決めた訳ではなく、資金、投資家との関係、サーチャー自身の継続意欲や生活などを考えると、2年を超えて継続するのことは事実上困難なのです。
通常より長きにわたっけ活動できたのは、自己資金サーチという、自分がその気にさえなれば(気力・体力が続けば)続けられるやり方だったからだと言えるかもしれません。
しかしながら、誰でもが同じように出来るとも思えません。私が同じ立場だったらどうか。正直なところまったく自信がありません。
様々な意味で大変示唆の多い事例でした。とはいえ、まだまだ経営は実行中のようですので、本当の結論はこれから更に数年後になるでしょう。