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仕事を取るか恋人を取るか_サーチャーの居住地問題①_コラム019

最初にお知らせです

来る7月15日木の19時~に無料のウェブセミナーを開催します。今回は事業承継をお考えの経営者・企業オーナー様やM&A仲介/アドバイザーの方々向けに、サーチファンドについてご説明差し上げます、是非ご参加下さい。

『後継者指名型の事業承継 サーチファンドとは?』
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投資先の近くに住んだ方が良い

サーチファンドを始めるにあたり、実はあまり認識されていない重要な問題に住居問題があります。

私自身は前職の企業再生のときに、住まいの問題には苦労しました。2017年~2020年の間、平日はほぼ自宅に帰っていませんでした。再生支援企業に通勤するには新幹線か飛行機移動が必要だったり、JRや私鉄を乗り継いで行けるけれど片道2時間かかったりという立地がほとんどだったため、平日はホテル住まいで週末だけ自宅で過ごしました

月曜日の早朝に家を出て、電車や飛行機に乗って「通勤」、金曜日の夜にクタクタになって帰宅するという生活における移動の負担はかなりのものでした。移動中はどうしてもアウトプット量は落ちますから効率も良くない

この経験から「通い」で経営することのシンドさは理解していました。

当たり前のことですが、会社を経営する以上、移動時間があまりにかかり過ぎる環境というのはお薦めできません。それはリモートワークが浸透したパンデミック後の現在でも同じです。

私が契約させて貰っている㈱サーチファンド・ジャパンは投資対象を日本全国に広げています。当然のことながら、東京だけとか、ある都道府県に限定してしまうとそれだけ候補企業が限られてしまうのですから、広げた方が良いのは事実です(ファンドの投資先が地域限定であれば話は別です)。

しかし、上記の経験から私は関東圏でかつ自宅から通える範囲に対象を絞っています。

子供も小さく一緒にいられる時間を確保したいことと、私自身が子育てや家事にかける負担を考えると(負担できる量は多くはないのですが)、家族の同居は必須という考えです。

長距離移動による通いも、単身赴任も、どちらも難しいと今のところは考えています。とはいえ、例えば遠くのエリアにあるが非常に魅力的な企業さんと出会ったときに「無理して単身赴任すれば事業承継出来かも」と思うケースは今度出てくるでしょう、そのときにどう判断するかは状況次第なところもあります。

恋人と共に暮らすと投資先が見つからない?

ハーバード・ビジネススクールの"Guide to Buying a Small Business: Think Big, Buy Small, Own Your Own Company" に住居問題を扱った箇所がありますので引用してみます。

At the same time, as you decide on the geo graphical scope of your search, don’t put too-strict limits on where you want to live and work. We don’t think it   is sensible to look for a business in a narrow region— for example, a particular city or state is too restrictive. So, if your family refuses to live in North Dakota, don’t look for a business in North Dakota. But if your family refuses to live anywhere outside of the western suburbs of Boston, perhaps instead of looking for a business, you should find a job nearby.
(意訳) 同時に、サーチの対象エリアを決める際には住みたい場所や働きたい場所をあまり厳しく制限すべきではない。例えば特定の都市や州など、狭い地域でビジネスを探すのは賢明ではないだろう。家族がノースダコタ州に住みたくないのであれば、無理に探す必要はない。しかし、ボストンの西エリアから外には住みたくないと家族ならば、ビジネスではなくその近辺で"職"探しをすべきだろう。

(ノースダコタ州のような)はるか遠くのエリアにまで引っ越しせよとは言わないが、(ボストン西エリアのような)狭い地域に活動対象を限定したらサーチファンドなんてできないよということでしょう。広大な米国を想定した記述ではありますが、日本でも同じことは言えると思います。HBSの教授に言わせれば私のように日本の関東圏の近くというのは「限定し過ぎだよ!」と言わるかも知れません。

これはHBSだけでなくサーチファンドに投資をしてくれる人にとっては当たり前の考えだと思います。自分がリスクを取って投資するのだからあまり住居の問題でとやかく言ってほしくないというのはよく分かります。

ここからは実際に住居問題で苦労しているサーチャーの実例をみてみましょう。コロンビア・ビジネススクールが作成したケースからの引用です。フランスで生まれ育ったMarc Cussenot氏は留学先のハーバードビジネススクールでサーチファンドを知り、挑戦することを決意しますが、同じくHBSで出会ったガールフレンドとの卒業後の住居問題で悩みます。現在はアクセラレータでもあるTIMOTHY BOVARD教授が作成した資料からの抜粋です。

I met my girlfriend during my first year at HBS. She preferred to return home to the Bay Area after graduating. Conducting a search from there would be fine. But my girlfriend would have a good job in the Bay Area and she could not afford to relocate elsewhere in a couple of years. So if I did a search, it would have to be geographically focused on the Bay Area. A geographically focused search allows searchers to reduce the search costs. However, I knew that such a limited geographic search would be a deal breaker for the traditional search fund investors. They mostly back searchers who are willing to conduct nationwide searches and who demonstrate their willingness to move anywhere in the country. 
(意訳) ガールフレンドとの出会いはHBSの1年目でした。彼女は卒業後にベイエリアへ戻りたがっていました。そこを拠点に私がサーチ活動をすることは構わないのですが、彼女は現地で良い仕事を見つけるでしょうから、(投資先が見つかる)数年後に他の場所に転居は出来ないでしょう。(今後二人が一緒に暮らすのなら)サーチ範囲をベイエリアに絞らなくてはならないということです。活動範囲を限定すればコストは抑えられるでしょうが、投資家目線で考えれば契約を頓挫させる要因になります。投資家とは、全国どこででもサーチしたり移住する意思のあるサーチャーを支援するものなのです。

サンフランシスコのベイエリアを拠点に活動するのは問題ないが、恋人や配偶者がそこで仕事を見つけてしまうと、いざ自分の投資先が見つかったら(それこそノースダコタ州とかに)引越しなんてできなくなってしまう、、、というMarc Cussenot氏の悩みです。

これはとてもよく理解できます。結婚前でも悩むのですから、子供が生まれて幼稚園や学校通いという要素が加われば更に難しくなるでしょう。そうなると自宅から通える投資先を見つけるか、単身赴任しかないでしょうがどちらも簡単には選びにくい選択肢です。

恋人に家賃を負担してもらいながら自己資金サーチ

こうして色々と思案した結果、投資家の支援を断念したMarc Cussenot氏は自己資金だけで始めることを決意します。

After discussing with my girlfriend, I decided to do a self-funded search focused on businesses within a 100-mile radius of San Francisco. In return, because she had landed a great job with a Bay Area private equity fund, and knowing that I would have no salary until I bought a company, she agreed to pay most of the rent. Taking this route, we had the security of knowing where we would be living in the coming years. 
(意訳) ガールフレンドと協議した結果、私はサンフランシスコから半径100マイル以内(約160㎞以内)の企業を対象に、自己資金でサーチすることにしました。その代わり、彼女はベイエリアのPEファンドで素晴らしい仕事を見つけたこともあって家賃の大半を負担してくれました買収が成立するまでは私には給料がないことを知っていたからです。こうして私たちは向こう数年の住む場所を確保する安心感を得ることができました。

a self-funded searchというのは自己資金、つまり自分の手持ちの財産だけを頼りにしたサーチファンドです。

仮に蓄えStockがあっても、新たな収入Flowは(恐らくほとんど)ないということになります。収入がないということは、「住」だけでなく「衣」や「食」も当然生活費として負担になるはずですが、そのあたりはかなり切り詰めたのだと思います。

足りない生活費を恋人が負担してくれることになった訳ですが、ここで最大の関心事がrent=家賃だったというのは、サンフランシスコのベイエリアという高額な住居費がかかる場所という事情もあったと思います。

かなり苦労した様子が見て取れますが、一方でサーチファンドが成功すればそれまでの苦労も十分報われるはずという思いも当然あったでしょう。

Marc Cussenot氏のケースは、住居問題や恋人や家族の問題、結果として選択した自己資金活動の問題という様々な要素を包含した非常に示唆に富んだ内容になっています。

ここまででだいぶ長くなってしまったので続きは次回に回したいと思います。

その他の連載記事

このコラムでは事業承継サーチ活動を通して日々感じたことを徒然に記録しています。他の連載も含め以下のマガジンにまとめていますので宜しければ御笑覧下さい。
    45歳で挑む経営者キャリア サーチ活動日誌
    45歳で挑む経営者キャリア サーチャーの徒然コラム

#サーチファンド #事業承継 #searchfund

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