これから

同じくハンドルネームを持つ彼女と伴侶になる事となった。
その頃、ギルドの会長がプライベートを忙しくしてゲームに来なくなってきた。
会長を伴侶にもつ友人Himukaは私たちのゲーム内の婚礼を羨ましくも祝福してくれた。
彼女はまだ婚礼を済ませてなかったそうだ。

自分を皮肉りながら祝うHimukaを伴侶の彼女と笑いながら励ました。
それからはHimukaと私と伴侶のSunnyが三人でよく遊ぶ様になった。
人間生活を終えてはゲームの世界へ飛び込む毎日が当たり前になっていった。
徐々に日常的な生活の話をしていくうちに
現実世界の私がもう一人の自分になった。

語らえば何もかもを笑いに変えて
腹を抱えて笑うのがこんなにも楽しい時間なのかとゲームの世界は私を虜にした。
同じ境遇の話を見つけては笑いのネタにした。
笑い飛ばさねばやってられないと思ったからだ。
ゲームの世界に人間臭さが見えてきた時、
キャラクターの中身は想いを変え始めた。

ある日Himukaが個人メールを送ってきた。
元会長がログインせず寂しいと。
確かに最近彼女は自虐する程周囲の盛り上がりに戸惑っている様に見えた。
どうにもならないのであれば新たな伴侶を見つけるべきでは?と提案した。
するとHimukaは私が独り身だったら良かったのにと続けた。

この場合の彼女の発言は、私にとってまずい展開だと察知した。
だがそれは妻帯者である背徳感からではなく
私に伴侶がいることにあった。

Sunnyとの会話には飾りっ気がなかった。
取り繕う事なく話せるお互いのテンションは
これまで話してきたギルドのメンバーよりも
どこか特別な雰囲気を持っていた。
しかし、特別な感情を抱いては今の環境を壊してまた現実世界に戻されると思ってた。
いわば、制約など頭にはもう無かったのだ。

混じりっ気のない率直な意見も
楽しそうに笑う笑い声も
後ろから聞こえる家庭的な音も
何より私を気遣う彼女の優しさ

絶対にあってはならない...
何もかもを破綻させる発想を消さなければならない。
自己防衛はまた私の感情と反する言葉を連ねて
制約という建前を振りかざして
気になる女性を人生で初めて突き放した。
すると彼女からとんでもない言葉が出てきた。

『伴侶は私以外考えられない。』
『もしまた伴侶になれるならそれまであなたを待ってます。』

衝撃的だった。
初めて私に対する感情を伝えてくれた瞬間だったからだ。
彼女は続けた。

ゲームを楽しくしてくれているのはあなたで
ギルドを盛り上げているのもあなたで
皆を気遣うあなたを支えたいと思うし
皆と楽しく笑うあなたが好きです。
でも、Himukaに対する優しさもあなたの好きなところだから
私は待ちます。

一度突き放した手をまさか握られるとは...
思いもよらなかった。
ただそっと握った手を離す彼女の優しさは
建前もなく、突き放すこともなく
ただ私の意思を尊重するものだった。

今まで自己防衛をする事で自分を正当化してきた。
そうすることで当たり障りのない人間として成立すると思ったからだ。
そしてそれを肯定して成立させていた妻とは対照的に
私の意思を尊重した上で自分の意思も伝えてくれた彼女の言葉は
勇気を出して全てを載せた言葉であり
受け止め方を間違える事は誰にも難しい程
彼女の想いは真っ直ぐだ。

【彼女はスマホの向こう側で涙した】
【私はスマホを裏返した】