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リモートワーク、副業解禁の本当の意味~「ふたの空いた箱」と「ふたの閉じた箱」で二極化する働き方~

最近になって、働き方に関して大きな変化が表れています。

・リモートワークが当たり前になってきた
・大手企業でも副業が解禁されてきた
・フリーランスが増えてきた

皆さんの周りでも自由な働き方が広がってきているという実感のある人は多いのではないでしょうか。
このような変化が現れることによって何が起こるのでしょうか。

それは、働き方が自由になる一方で、労働者が得る一社あたりの給与は下がっていき、一方で労働市場における一部の希少人材の価値がこれまでにない水準にまで高騰するということです。



リモートワーク、副業、フリーランスは何を意味しているのか

コロナウイルス蔓延によって、主にホワイトカラーの仕事ではリモートワークでも意外と業務に支障がないということがわかってきました。


それどころか、通勤時間や無駄な会議が減り、仕事が早く終わるようになり、「一日8時間も働く必要がない」、「週5日も働く必要がない」といった声もよく聞かれます。

コロナ以前からヨーロッパでは週休3日制が真剣に議論されていますし、日本マイクロソフトなどの企業では試験的に週休3日制を導入して生産性が上がったという結果もあります。

リモートワークになると、会社に出社して机にかじりついて仕事をする必要がなくなるわけですから、「どのくらい働いているか」という時間で仕事を測るということはなくなります。


また、仕事が終わったら一緒に飲みにいったり、職場での雑談がなくなったりするので、職場の人達との接点は自分の仕事に関係するところのみという形になり、職場でのウェットな人間関係はなくなっていくでしょう。

つまり、労働時間、人間関係が評価に結びつかなくなります。
そうなる以上、「明確な業務の定義」と「KPIに基づく評価」が必須となります。



「ふたの空いた箱」が増えていく

業務の定義が明確化することによって俗人性が排除され、人間関係ではなく客観的な指標によって仕事が評価されるようになるといったことから、企業の中で「ポジション」という箱がちゃんとした形で存在するようになります。

これまでの日本の労働市場では、「ポジションのようなもの」、「箱のようなもの」がたくさん存在していました。
総合職と呼ばれるようなものが代表例だと思いますが、業務内容はざっくりと定義されており、求められる能力は「コミュニケーション力」、「積極性」など何にでも当てはまるものであり、また、評価は上司に気に入られているかどうか、長時間働いて頑張っているかどうかといったことで判断される…といったものです。

これからは、業務内容、求められる能力、評価基準などが定義されたきちんとした「箱」になります。


ポイントは、箱は箱でも、「ふたの空いた箱」であるということです。

この「ふたの空いた箱」ができあがるということは、人材がかわるがわるその箱に入っては出る、そしてまた別の人材が入ってくるといったようになるということです。
つまりは人材の流動性が劇的に上がります。

流動性が劇的に上がるとどうなるか。企業からすれば「雇用」という概念、労働者からすれば「企業に所属する」という概念が消えます。
会社などの組織に所属するというよりも箱に入ったり出たりする、そんなイメージです。

そもそも企業からすれば、人材をフルタイムで雇用し続けるというのは非効率なのです。すべての従業員が週5日8時間分の仕事をしているかというと、どうしてもムラがでます。大抵の仕事では忙しい時期と暇な時期があったり、忙しい人とそうでない人の差が必ず出ます。

例を挙げると、経理職は決算時期がものすごく忙しく、そのほかの時期はそんなに忙しくないとしたら、暇でやることがない時期に決算期の違う会社で決算業務を行うといったことができるかもしれません。企業からすれば繁忙期のときだけ従業員を増員できます。

或いは、月の前半で営業目標を達成した営業マンがいたとします。現在の会社ではそれ以上成績を上げてもインセンティブは微々たるものだったとします。
そのような場合、月の後半で別の会社の商材を売るといったこともできるかもしれません。

このように、会社の中にある「役割の決められた出入り自由な箱」のおかげで働き方はプロジェクト単位で働くようなイメージに近くなります。

企業は箱をたくさん用意し、労働者としてはいくつかの別の企業の箱に出入りするようなイメージです。

箱のイメージ



本業と副業ではなくマルチワーク、つまり複業

上記のようなことは現実的ではないと思われるかもしれませんが、これがマルチワークです。

従来の「副業」とは、例えば本業でサラリーマンをしている人が本のせどりをしたり、或いはメルカリで服を売ったり…といった、本業のスキルや経験と全く関係のないことをすることが多かったと思います。
つまり、自身が会社に所属して行う「本業」があって、それ以外にサブで細々と行う「副業」があるというイメージでした。

しかし、現在、広がろうとしているのは「複業」であり、自身のスキル・経験を生かして他の組織でそれを役立てるというものです。
エンジニアが別の会社のプロダクトを作る、営業が複数の会社の製品を売る、企業の戦略家が他の会社の戦略を考える…
つまり、本業と副業の境目がなくなるのです。

一部の企業はすでに始めており、ヤフーはギグパートナーとして戦略アドバイザーの募集を始めました。


なので、企業としては、「在籍していること」に対して対価となる報酬を支払うのではなく、「週3日勤務でこの仕事をしてほしい」、「3か月でこの仕事をやってほしい」、もっと言えば「○○の基準を達成したら報酬を支払う」といった雇い方で「業務・結果に対して対価を支払う」ことになるので、受け取る側としては、これまで会社に所属することで閑散期で業務があまりない暇なときにも給与が支払われ続けていたのが、その分の給与をもらえなくなります。


なので、これまで稼いでいた給与を維持しようとすると複業せざるを得なくなります。

しかし、悪いことではなく、1社あたりから得られる所得は減少しますが、複業によってトータルで見ると所得は上昇するケースも多くなります。
また、これにより、労働者が働き方を自ら自由に選べるようになります。
少しだけしか働きたくない人は少しだけ、たくさん働きたい人はたくさん働く、そして対価を受け取る、というような形になります。



さらに上昇する希少人材の価値

一方で、企業としてなんとでもつなぎ留めておきたい人材というのが存在します。
それが、超優秀なAIエンジニアやデータサイエンティスト…といった人達です。優秀なファイナンスのプロやマーケターなども当てはまるかもしれません。

企業はなんとしても、いくらお金を払っても獲得したい、競合にとられたくない、つなぎとめておきたい人材ですので、こういった人達の給与は青天井で高額になります。

今でも優秀なAI人材に2000万、3000万出すのは普通で、最近では、GAFA3社が日本の大学院生に一年目の給与6000万円を提示したことで話題になりました。
ソフトウェア企業のオラクルは、優秀なAIエンジニアを獲得するために600万ドル(6億円超)の報酬を提示しました。
ニューヨークタイムズによれば、アメリカでのPhDを取得したAI人材の一般的な年収は約30〜50万ドル(3300〜5500万円)だそうです。

これら希少人材に関しては、前出の「ふたの空いた箱」ではなく、
「ふたの閉じた箱」にするべきであり、企業としてもそうしたい訳です。


つまり、ふたを閉じるというのは、他の競合他社に人材を奪われないように、他社には提示できない金額の年俸であったり、待遇、権限や名誉、やりがいといった魅力的なことをいかに提示できるかがカギとなります。

なので、企業がなんとしてもつなぎとめようとすることによって希少人材の流動性は下がります。それによって労働市場に出てくる希少人材はさらに少なくなり、希少性が増し、さらに提示する報酬も吊り上げられていく…といったようになります。



まとめ

多くの人にとっては、会社一つあたりの収入が減る代わりに複数の収入源を持つ必要がでてきます。
企業が用意する出入り自由な「ふたの空いた箱」に出入りする働き方になっていきます。

一方、企業がつなぎとめておきたい希少人材においては、企業が用意するのは人材をつなぎとめるための「ふたの閉じた箱」であり、これは破格の報酬や待遇となります。
このような希少人材に関しては、1社で働く代わりに青天井の超高給という状態になるでしょう。



筆者

西垣和紀

キャプチャ

高校中退後、数年間仕事を転々とした後、渡米。アメリカの大学を卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、大企業の戦略策定、M&A、業務改善、新規事業創出などに従事

その後、オックスフォード大学MBAを経て、ロンドンのスタートアップで事業責任者、外資系企業のCOO(最高執行責任者)などを歴任し、現在はヨーロッパと日本を行き来しながら様々なビジネスの立ち上げや企業のアドバイザーとして活躍

また、音楽活動をしており、アメリカ西海岸のレーベルと契約、海外フェスへの出演やイギリスのトップアーティスト「ピクシー・ロット」などと共演


著書「オックスフォード大学MBAが教える人生を変える勉強法」(大前研一氏推奨)など

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)マネジメントサイエンス専攻
オックスフォード大学サイードビジネススクールMBA(経営管理学修士)
ペンシルバニア大学大学院コンピューターサイエンス専攻


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