チロエ島のカゴ
南米チリのパタゴニアの玄関口に位置するチロエ島は民具の宝庫。特に島に自生する植物で作られた多様な「カゴ」が道具として存在していたのだそうです。「していた」と過去形なのは、現在は、民具としての機能を果たすカゴがすっかり減ってしまったからです。その代わり、今は、彼らの「編む」技術を保存するため、現代社会に合うカゴ作りや装飾品としての編み細工などが盛んです。
今回はチロエ島の今のカゴ事情についてざっくり紹介したいと思います。
素材だけではなく、カゴの種類などバリエーションが沢山あるので、この場を使って整理しようと思います。
素材
カゴの素材はまず、チロエ島に自生する植物と外来の、栽培が可能な植物とから構成されています。
原生林でしか育たない植物でカゴの素材となるのは、キスカル(チュポン)、フンキロ、キリネッハ、ヴォキなど。チロエ島の植物で、これらを使って昔からカゴ作りが行われてきました。近年は、森林破壊が原因でこれらの植物も随分採りにくくなっているそうです。特に、キリネッハとフンキロのカゴはその歴史は古く、ここではこの二つの植物を取り上げます。
フンキロはイグサ科の植物で、原生林周辺の湿地に生息しています。収穫後すぐに残り火か灰の上に置いて、焼かなければなりません。そうしないと、丈夫なカゴが作れないのだそうです。その後、日干しします。
キリネッハはつる植物で、チロエの森の特定の木にだけ蔓を巻きます。巻く木によって、蔓の色が変わるのだそうです。柔らかく、丈夫なため、カゴには最適な材料で、チロエ島の伝説などとも深い関わりのある植物です。
栽培が可能なのはマニラと呼ばれる外来植物。ニュージーランド原産で、マオランという多年草のこと。丈夫で栽培可能なうえ、固有植物が年々採りにくくなっていることから、現在は主流になっています。
使用目的
チロエのカゴ編みは使用目的に基づいて2タイプに分けられます。機能的・実用的なカゴと装飾品・置物としてのカゴの2種類です。
カゴ
実用的なカゴは、もともと民具であったものが、一般用途のカゴになりました。たとえば、収穫した農産物を入れるカゴ、貝を入れるカゴなど。また卵を入れるカゴは、今は、装飾性も兼ね備えた鶏の形をしたカゴに。現代社会に合わせて作られたランプシェードも人気があります。
装飾品
実用性はなく、装飾性を重視したカゴができた背景には、チロエ島の観光地化と大きく関連しています。土産品として、カゴ職人らが作り出したもので、1970年代以降から盛んになりました。おもに、魚や鳥、そしてチロエ島民の神話の登場人物、杯、ケトル、などなど。
Canasto(カゴ)とCanasta(カゴ)
スペイン語でカゴを指す言葉の一つにカナスト(Canasto)があります。語の末尾が-oで終わっているので男性名詞です(注:スペイン語は名詞が男性と女性名詞に分かれています)。面白いことに、チロエ島にはこの語の対になる、末尾が-aで終わる女性名詞、カナスタ(Canasta)と呼ばれるカゴがあります。カゴの男性名詞と女性名詞の使い分けは、チロエ独自のもので、島民は、カゴの使用目的に合わせて、呼称の使い分けをしているのだそうです。
元々、カナストと呼ばれるカゴは、収穫物の芋や貝など重い荷を運ぶのに使われるカゴを指していました。消耗品のため、素材の準備に手間暇をかけず、即席で編むタイプのものです。ですから葉が緑のままだったりしました。編目は粗く、中身がすぐに分かるものが男性名詞のカナストなのです。
一方、女性名詞のカナスタは、頑丈にするために手間暇かけて素材の準備をします。編目は詰まっていて、中が見えないタイプのものです。麦やその他の食糧を保存するのに使われていました。
男性と女性の特徴を絡めて、このような呼称の使い分けをしていたのだそうです。
以上、チロエ島のカゴの特徴をサラッと見てみました。次回は、民具に焦点をあてて、どんなものがかつてあったのかを調べたいと思います。
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