ブラジルのメヒナク族の手仕事と儀式
ブラジルの先住民メヒナク族は、洒落た動物の椅子を作ることで知られています。コレクターもたくさんいて、カタログも出版されるぐらい人気があります。2018年に東京都庭園美術館で開催された「ブラジル先住民の椅子」展でも彼らの動物の椅子は出展されていました。そのメヒナク族のアートを取り上げたいと思うのですが、椅子ではなく、今回は彼らの木製の調理器具、パ・ジ・ベイジューについて話したいと思います。
メヒナク族は、マットグロッソ州シング―先住民居住地に居住しています。彼らの木工芸は、ウルクンという赤い天然塗料と炭の黒で塗られており、この色の組み合わせに、まず惹きつけられます。しかも、これらは儀式の際に作られるものだということを知って、興味がさらに湧きました。お店に卸しているものですら、基本、儀式を通過していないと販売はできないのだそうです。パ・ジ・ベイジューもその一つ。
さて、パ・ジ・ベイジューとは、キャツサバの粉のパンケーキ(ベイジュー)を焼くときに使うヘラです。メヒナク族の主食はキャツサバなので、このヘラは必需品。ベイジュー用の特別な土製フライパンで焼く際に、ひっくり返すヘラなのです。
ユルタ(Yuluta)という木を切り、ナイフ、ヤスリ、紙やすりで形を作ります。女性が使用する道具ですが、男性が作ります。
ヘラに描かれている模様(グラフィズモ)は、ピラニアやパクジーニョのような魚の歯だったり、サウヴァ(蟻)の行列だったり、毛虫(キャツサバの精霊(ククフ)の仮の姿)だったりします。
塗料はインガーという木の樹液に炭を混ぜた黒、ウルクンは赤。白い土粘土から抽出する白。この3色。
問題の儀式ですが、パ・ジ・ベイジューは、キャツサバに関連する道具なので、キャツサバの精霊に纏わる儀式のときに制作されます。
精霊クフフは、キャツサバの葉につく毛虫に姿を変えて、人の魂をとらえる機会を狙っています。魂が捕まってしまうと、何日も病に伏せてしまいます。完治するには、クフフの儀式を開かなければなりません。これに協力する男性は、3日連続で3種類の道具を作ります。パ・ジ・ベイジューは一日目に作られる道具です。またその間、キャツサバのおかゆなどのお供え物と共に、男女がダンスと歌で精霊に乞い、魂を返してもらいます。儀式が成功すると、ククフは、今度は守り神となり、他の悪さをする精霊から守ってくれることになります。守り神となって一生そばについていてくれるのだそうです。
このような儀式を通じて作られたパ・ジ・ベイジュー。精霊へのお供えではなく、病気になった人と協力してくれた女性たちへのプレゼントなのだそうです。自分の守護神がクフフであることを示す役割もあるのかもしれませんね。
参考文献
Braida, Roberta Garcia Anffe. Objetos Mehinako - Entre o rito, a retribuição e o mercado. São Paulo: 2012 pp.210.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?