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映画「美と殺戮のすべて」を観て社会問題をアメリカ人と語りたくなりました
きっかけはかんなさんのスタエフ
スタエフパーソナリティー寸尺かんなさんが番組で紹介していた映画「美と殺戮のすべて」観に行ってきました。
上映している映画館がそんなに多くなく、新宿だと上映時間が夜遅かったので吉祥寺まで行ってきました。吉祥寺、久しぶりでした。もともと吉祥寺大好きな街なのですが最近言ってなかったので、この映画を観るために久しぶりに訪れることができてテンションが上がりました。
カメラが自分の声 写真家ナン・ゴールディン
アメリカの大物アーティスト、ナン・ゴールディンさん。彼女はカメラを自分の声にする写真家。子供の頃にお姉さんが自殺したことをきっかけに、彼女自身もいろいろと内面に問題を抱えていきます。70年代、80年代当時のサブカルとかパンクとか、そういったアーティストたちと共同生活して過ごしている。いろんな人たちと出会って、男とも女とも愛し合う。その時その時で共同生活を営んで、恋に落ちたり、破れたり、傷つけあう。その仲間たちも、だれかとくっついたり離れたり、そして死んでいく。彼女は友だちを一番に大事にしている。そこに愛をみる。リアルな彼らの生活や生態をずっとカメラで追い続けスライドショーという形で発表している。それを続けていたことで非常に評価され今はもう70歳、大物。彼女の生きざまと彼女の抗議活動を追いかけたドキュメンタリーでした。
50万人以上の死者 オピオイド危機
オピオイド危機、ご存知の方も多いと思います。アメリカで過去20年間で50万人以上の人が死んでいます。
オキシコンチンという医療用麻薬、これを処方された患者さんたちが
「中毒性はない」という嘘、偽り
で販売されてたこの薬に依存、中毒になり過剰摂取で死んでいく、中毒になって苦しんでいる人がいまでもいるという実態。
ゴールディンさん自身も手術のためにそれを投与され、その1回がきっかけで中毒になってしまいます。彼女は一命をとりとめ克服しましたが、
「人の痛みでお金儲けしている」
製薬会社パーデューファーマ、経営していたサックラー一族に対する抗議活動を展開しました。それを追いかけたドキュメンタリーです。
ドラマ「ペインキラー」と「DOPESICK」の衝撃
オピオイド危機を描いたドラマ「ペインキラー」と「DOPESICK」を昨年観ました。はじめ、ペインキラーを観て、サックラー一族のトップ、リチャードをマシュー・ブロデリックという昔かわいくて人気だった男優がいまはおじさんになっていて不気味なリチャードを演じています。その不気味さとオキシコンチンフィーバー、依存し中毒になってしまう人たちの悲惨な状態がドラマで描かれています。とても怖くて、後味の悪いドラマです。これを観て、もうちょっとドキュメンタリーっぽいのはないか、と思って検索して、DOPESICKを知りました。同じ題材を別の監督が撮っていました。こちらは中毒になる医師役をマイケル・キートンが演じています。ペインキラーに比べると骨太な印象。ただ、中毒になって苦しんで死んでいく患者、その家族。悲惨なことはペインキラーと同じ。
欲まみれになればなるほど被害者が増えるシステム
どちらのドラマを観ても、
アメリカって怖い
その感想ばっかり。
このドラマを観たことで、オピオイド危機に関して関心があったので、映画「美と殺戮のすべて」じっくり鑑賞してきました。
ペインキラーの方で描かれていたのは、加害者側、サックラー家、パーデューファーマ社がどのように薬を売り込んでいったのか。まずは許可を取る、薬として販売していいという許可を取るところも、巧妙なやり方で許可を取ってしまう。一般の痛みの症状のある患者に中毒性のあるヘロインをオキシコンチンに含有させて鎮痛剤として処方し依存させる。本来であれば鎮痛剤として販売することを許可してはいけないのに、その許可のところも、いろんな手法を使ってその許可を出す人をたぶらかし許可を取ってしまう。
人は痛みから逃げたい。
患者さんが痛い痛いと言って痛みから逃げたいからその薬を飲む。
その薬を飲むと痛みは治るし、快楽が得られちゃう。
そうするとどんどん依存する。
永遠にその人はその薬を欲しがる。
薬が売れる、売れ続ける。
このサイクルを繰り返し、莫大な富を得るサックラー一族。
処方箋がないと患者はオキシコンチンを買えない。この処方箋を出す医師にキックバックを与える。医師に「処方箋書きましょう」と売り込む営業の人たちも戦略的で、例えばルックスの良い女性を採用し、彼女たちは販売実績によって報酬が得られる、インセンティブシステムによってコントロールされている。例えば、もともと貧しい家の女性が営業になって、インセンティブをもらっていい暮らしになってそのいい暮らしが加速して、やめられずに報酬のためにどんどん売り込む。
みんながみんな、金に目がくらんで欲まみれになっていく。
欲まみれになればなるほど、患者さんが増えて、被害者が増える。
オキシコンチン依存になったがために、またほかのドラッグに手を出したりして、依存の沼から抜け出せなくなって過剰摂取で死んでいく。
自分の娘、息子が依存して中毒になって死んでしまったというような被害者が、もうすでに50万人以上という状態。
サックラー家のイメージ戦略
加害者側のサクラーは悪いことを公然とやっている。ちゃんと許可を取って販売していると言い張るわけですが、イメージアップ戦略もすごい。
もともとリチャードの叔父アーサーという人が創業者で、彼が全世界の有名な美術館等に莫大な寄付をしはじめて、サックラーという名前を刻印する。例えば美術館の建物の一角を「サックラーウィング」と名付ける、これはMETの一部ななのですが、自分たち一族の名前を刻ませる。莫大な寄付をして。
そうすると一般消費者は、
サックラーってパーデューファーマ社ね、
みたいな感じで安心する。そういうしっかりした会社だから寄付もできる。潔白なイメージを一般消費者に植え付け、その会社が作っている薬だから大丈夫だろう、と認識するようしむける。
抗議活動も作品のごとく美しい
ナン・ゴールディンさんは大物アーティストの一人で、世界各地の有名な美術館に、
サックラーからの寄付を拒否すること
サックラーの名前を消し去るべき!
と抗議活動を展開していきます。
2018年、はじめのころは彼女自身も非常にナーバスになっていて、ドキュメンタリーの映像と彼女の挙動で緊張感がひしひし伝わってきます。一番はじめにMET(メトロポリタン美術館)のサックラーウィングで抗議活動をする時に、警備員に怪しまれている、どうしようどうしよう、みたいになるんですが、「さあやるぞ」みたいな感じで抗議を開始。
抗議活動のやり方もさすがアーティスト、という感じです。ただ単にデモ行進するのではなく、例えばオキシコンチンのボトルを自分たちで作って、それを大量に隠し持って、サックラーウィングの中にある小さい池の中にそのオキシコンチンに似せたボトルをバーっとたくさんバラ撒く。
グッケンハイム美術館は螺旋状の階段が上の天井まで続いていて、中心が空間になっている高い建物。その一番上の階から、「よし開始」という合図とともに、上にいる活動メンバーの一部の人が一番上の方から血まみれのお札をバーってバラ撒く。そして、みんなで一斉に叫び出す。
Shame on Sackler
Shame on Sackler
活動団体のメンバーはもちろん抗議を発信する、大きな声で腕を組みながらやるんですが、その場にいた、美術館にいた、ただ普通に美術を鑑賞しようとして、そこにたまたま居合わせた人たちも、その抗議活動に賛同し一緒に声を上げるようになっていく。
その抗議活動もある種の彼女の作品になっていて、ドキュメンタリー映画の中でがっつり記録されています。見ていてその緊張感も伝わってくるしその凄さも伝わってきます。本当に感じいった映画でした。
活動当初は美術館のリアクションはよくなかったのですが、活動を継続していくうちに、一つ、二つと美術館の方が折れていく様子が映画の方では描かれていきます。まさにドミノ効果。
ナン・ゴールディンの生きざま
その抗議活動ともう一つ、ナン・ゴールディンさん自身の生い立ち、家族との関係が、彼女の作品も含めて、その映画の中では描かれています。製薬会社を相手に抗議活動をしてました、だけでなく彼女自身のカメラが捉えた社会、うまくバランスよく映画に込められ、詰まっています。パッションだったりとか、彼女たち、彼らの怒り、抑圧、また親との関係。そういったものをまざまざと見せつけられる映画で、今回これを映画館で観られて本当によかったと思いました。
スタエフで紹介してくださったかんなさん、本当にありがとうございました。
アメリカ人と社会問題を語りたい
アメリカって怖い、とつくづく思います。わたしたちはゲストハウスを経営していて、一番多いゲストはアメリカからのゲストです。彼らと、円安円高みたいな話だったり、あそこの観光地行ったら面白いよとか、例えば、わたしたちは昨年LAへ行きましたよ、ドジャースの試合観たよ、とかそういう話だけではなく、社会問題について意見を交わしたいと思います。この映画をみて強く思いました。
先日来たゲストは、大麻を利用した食品のマーケティングを仕事にしている女性で、彼女は大麻の話は地域によっては非常にタブーだ、と言っていました。
大麻の話もそうですが、オピオイド危機のような深刻な社会問題に関して、ゲストできたアメリカ人と意見を交わしてみたいです。
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