ニ択の敗北
人生初の救急患者になったのが、犬に噛まれたからなんてあんまり人に話すようなことでもないことなのかもしれないけれど、話したいのでやっぱりこの先も続けます。
救急車が来たことで近所の人も集まりはじめ、若干照れくさい感じもありました。
救急隊員に噛まれた足のズボンが密着しているので、処置のためズボンを切っていいですか?と聞かれ、
「買ったばかりなんでいやです」
と言いたかったけど、
「じゃあ脱いで」は、もっといやだったので
「お願いします」
救急隊員は傷口の上まで一気に切ってきました。
お食事中の方は申し訳ないので、ここからしばらくは読まなくて飛ばしてもかまいません。
ズボンが開かれると、ドロッとした肉片が生地に貼り付いて足には穴が開いて血が湧いてる感じでした。足首も靴下を取ると同じ様に肉片が流れ、かなり深い咬み傷がありました。
よく出るなと関心していた血の、止血を完了させて救急車に担架で運び込まれる頃には暗くなっていました。
いやはや、救急車ってなかなか発車しないんですね。
血がなくなるんじゃないかと心配しました。
受入れ先が決まって、奥さまと一緒に救急車で出発したところで、さっき処置してくれた救急隊員がうちの子供と仲のいい同級生だと奥さまが教えてくれました。
急に気恥ずかしくなり、その救急隊員に
「やっぱり犬に咬まれたくらいで救急車は恥ずかしいよね?迷惑かけてごめんね。」
というと、
「この状態は呼んで正解です」
と慰めてくれるのでした。ありがたや。
それにしても、救急車に揺られながらの道すがら、
「あ〜ぁ、何事もなかったら今頃はビール飲んでご機嫌だったろうになぁ」
と、馬鹿な妄想をしていました。
しばらくの間、どの道をどんだけのスピードでどっち方面に走っているのか、救急車の中にいるとさっぱりわからなかったけど、思ったよりもゆっくり走る感じだなぁ、が感想でした。
受入れ先の病院に到着。
今度は、若い看護師さんに囲まれて、完全にズボンを脱がされ局所麻酔と破傷風ワクチンを打たれ足の傷をグリグリと掃除されました。
傷は筋肉に達してるので肉芽が盛り上がるまでに2ヶ月はかかるとのことでした。
こんなところに来てまでネタなのかと思える面白いドクターで、
「なぁにこんな傷は、毎日自分でシャワーで洗ってたらいいんだ、おれの先輩は趣味の狩猟で同じような傷を負ったけど風呂場のシャワーで自分でやってたぞ。」
と本気とも冗談ともつかないような話をされていました。
今日は泊まっていくか?(入院)とのドクターのお誘いを丁重にお断りして、明日から通う約束をして帰りに一言。
「しばらくはアルコールなどは控えるように!」
ああ、ニ択の敗北を痛感した瞬間でした。