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老人と夫(1)


前回の投稿から、時間が空いてしまった(汗)
というのも職場復帰して、ただ単に、noteが書けなかっただけなのだが。
ちょっと時間が出来たので、また書いていこうと思う。



これは、夫が出会った、とあるご老人との話である。


私と夫が、今住んでいる小さな村に引っ越してきたのは、今から10年前。

今住んでる家は、バンガロー(平屋)で、庭の向こうには農地が広がるのどかな場所にある。庭には枝垂れ桜を植えて、春には、時に農地に植えられる菜の花と我が家の桜のコントラストを楽しんだり出来たりする。
世帯数も50いかないくらいの小さな村なので、10年も住んでいれば、大体の住人は分かるだろう…と思われるかもしれないが、基本引きこもり体質なので、知ってる住人は、隣近所くらいである。だが、名前は知らなくても、愛犬の散歩で出会えば会釈くらいはする。向こうもこちらも、お互い名前は知らないレベルでも(苦笑)

そんな小さな村で。
夫が、とある老人に出会ったのは去年の事だ。

去年の3月からロックダウンになり、在宅勤務となった私達。
夫は、散歩(というか、夫の歩く距離は散歩の域を超えてる)や、たまに自転車に乗ってエクササイズしていたのだ。

家を出て、自転車を漕ぎ出そうとした時、夫は、そのご老人を見た(以後、この方を御隠居様と呼ぶ
前庭の芝を刈ろうとして、芝刈り機を持ってはいたのだが、キチンと動かせてなかったらしく。
その時は、なんの気も止めず、エクササイズに出かけた夫が戻ってくると。
まだ芝刈り機と奮闘していた御隠居様に。

「手伝いますよ」

と、うっかり言ってしまった夫。
御隠居様は、嬉しそうに笑ったらしく。引くに引けなくなり、自宅の芝刈り機を持っていき、庭の芝刈りをしてあげたのがキッカケで、夫は御隠居様と出会ったのである。

御隠居様は、奥様を数年前に亡くされて、一人暮らしだ。
御隠居様達には、子供が居ない。奥様が保護施設で一目惚れして引き取った2匹の猫が、心の拠り所…である。

何度か庭の芝刈りを手伝った夫に、御隠居様はお金を渡そうとしたらしいのだが、夫が断固として拒否。しかし、御隠居様も負けておらず、いつぞやは、お礼にとイチゴを下さり、それを受け取った夫が、いちごのトレーの下から、紙に包まれたお金を見つけるという、どうしても受け取らない夫vsどうしても渡したい御隠居様の熾烈なバトルが繰り広げられた(苦笑)

結局、頑固一徹な御隠居様に押し切られて、夫が折れた形になったのだが。
御隠居様にしてみれば、タダ働きさせるのは忍びなかったんだろうな、とは思う。

それから何度となく交流(?)があり。
御隠居様と夫が急接近する事態になったのが、今年の冬に起きた、ある出来事だった。

今年の始め、結構な量の雨が降り続いた日。村の道が冠水した(汗)
冠水というか、もう池レベルで、通行不可になった。

その道を、御隠居が無謀にも運転したらしく、車は当然停止(だってエンジン浸かるくらい深かった)車中に数時間閉じ込められる事態に。
御隠居の他にも立ち往生した車があったらしく、多分その車の持ち主が救急車を呼んだのであろう、御隠居は病院へ搬送。

それを知ったのは、Facebookの村のグループページに投稿された一枚の写真だった。
誰かが車を放置していて道を塞いでいる!誰だ!!と、若干キレ気味で写真と共に投稿した村人のソレを見て、夫が、

「この車、御隠居の車…」

と呟いたのを聞いて、血の気が引いた。
真冬で、しかも冠水した道路で立ち往生…御隠居様は、ゆうに80歳過ぎてる。しかも、世界的に流行しているアレの真っ最中だ。
それから夫は、御隠居様が家に戻ってきてるかどうかを、毎日確認しに行くようになった。

そして、またしても、御隠居様に不運が訪れる… (続く)