老人と夫(2)
御隠居様の車が盗まれた…とのゴシップを耳にしたのが、先月の事だ。
いつも有るはずの御隠居様の車が家の前に無く、夫が愛犬の散歩中に出会った村人からゴシップを耳にしたらしく、御隠居様の家のドアをノックするも不在で。
しかし実際は、御隠居様がお出かけ中に自損事故を起こし、警察に免許を取り上げられたらしい(後日、本人から話を聞いた)
かなり心配したのだが、それからしばらくして、御隠居様は体調不良で病院に入院した。
それが分かったのは、救急隊員がウチに来たからだ。
救急隊員の方が、夫に説明していたのを後から聞いたのだが、御隠居様が体調が悪くなり救急車を呼んだらしく、救急隊が到着。
御隠居様の様子が芳しくないので、病院で検査してしばらく入院しないといけない事を伝えると、御隠居様が断固拒否。その理由が。
「愛猫に餌をやる奴がいなくなる」
救急隊員が、誰か頼れる人はいないのか?と尋ねたところ。
御隠居様の口から出た名前が、夫の名前だった。
こうして御隠居様不在の間、夫はキャットシッターを任されたのである(苦笑)
御隠居様が入院したのは、10日くらいだろうか。
毎朝、猫達に餌やりに出掛けた夫が、病院から戻った御隠居様とご対面したのだが、その日が、私と御隠居様の初対面の日となった(汗)
御隠居様の家から戻った夫に、一緒に御隠居様の家に来て欲しいと言われ、
慌てて付いていくと。
御隠居様が床に転がっていた(コラ)
座っていた椅子からずり落ちたらしく、自力で座れない&夫一人で御隠居様を持ち上げるのが無理…との事で、私が駆り出されたのだが。
御隠居様、めっちゃ重い!(汗)
力が抜けているからなのか、介護慣れしてない素人2人だからなのか、兎に角、御隠居様を椅子に戻せない。
しかも、家の中の臭いが、とにかくなんと言えばいいか、形容し難いくらいに臭い!!
マスクしてても臭い…
私は仲の良いご近所さんの家にすっ飛んで行き、事情を説明して御隠居様の家に来てもらった。
夫と私とご近所さん、総勢4名での御隠居様救助ミッションが始まった。
御隠居様は、普通の椅子にクッションを置いて座り、オットマンの上に足を上げてたらしく。
歩行補助器具やら杖やらを手の届くとこに置いていて、部屋はもう雑然どころか、まぁまぁカオスな部屋だった。
夫とご近所さん(男性)で、御隠居様を椅子に座らせ、私とご近所さん(女性)で、動線確保の為のスペースを開けたりと、マンパワー全開で御隠居様のリビングルームを片付け。
ご近所さんにお礼を言って、引き上げてもらった後。
私と夫は、御隠居様にハッキリ告げた。
「介護サポートを受けて下さい」
と。
身寄りの居ない御隠居様を、家族でも身内でもない私達が親切でお世話するにも限界がある。私達は仕事もしているし、当然、自分達の生活もある。
知り合ったのも何かのご縁かもしれない。だが、現実問題、毎日のように御隠居様を世話するのは無理なのだ。
御隠居様も、やっと悟ったらしく、無言で頷いた。
介護サポートが必要な理由は、もう自力で車の運転が出来ない、買い物に気軽に行けない。また何かあった時に、病院や市の福祉の人達との連携がないと不安。御隠居様は、家族も親戚も居ないからだ(唯一、奥様のご友人が連絡を取ってくれているが、遠方に居るので、直ぐには駆けつけられない)
だけど、今すぐスパッと御隠居様を切れる冷徹さは持っていない。
介護サポートを受けられるまでの間は、私と夫で御隠居様の買い物や用事を受けようと決めた。
(続く)