ゴール裏の中心で愛を叫ぶ~声出し応援検証で山雅サポが恋心を取り戻す話~
なぜ私は、歌えないゴール裏に通い続けているのだろう。
かつては毎週おとずれるその時間にすべてをささげ、私は松本山雅FCに狂っていた。
現地から帰ってはDAZNをつけて、余韻が冷めないうちに観てきたばかりの試合を再生した。選手ひとりひとりのプレーに何度も胸を焦がし、実況を聴くだけでどの試合か分かるほどだった。
寝ても覚めても山雅のことを考えて暮らしていた。
それが今はどうだ。
選手の背番号はちっとも覚えられない。ピッチ内練習の時間に入場すらしていない。ゴール裏にいても、試合中にお腹がすけば座っておやつを食べている。予定があわなかった試合の見逃し配信も見なくなった。
はっきり言って、楽しくない。
もしかして、私は松本山雅FCが好きじゃないんだろうか。
私が激烈に恋していたのは、あの声援であり、何もかも忘れて叫べるあの雰囲気だったのだろうか。
それを認めたくなくて、ただ意地でゴール裏にいるだけなんだろうか。
ああ、でも、いつかまた歌える日々が戻ったら。胸を張ってゴール裏に立ちたい。
意気揚々と、「どんなときでも俺たちはここにいる!」と歌ってやるのだ。
J2復帰が至上命題なのに、肝心なところで勝ちきれない。試合後の真っ白な手のひらに消毒液をこすり合わせて泣く日々は、もううんざりだ。
「どうして降格なんてしたのよ!さっさと上がりなさいよ!!」
そんな檄をありったけの歌に乗せて早く飛ばしてやりたい。この胸のわだかまりもフラストレーションも全部、全部!声援に変えて、歌に乗せて、昇華するのだ!!
Jリーグそのものと愛を育んでいる須羽リセルに倣って言うなら、今の私は倦怠期である。
惰性だろうとなんだろうと、ただ行く。それが当たり前だから。もう、生活の一部だから。
その感情を「好き」と呼ばずして、何と言うのだろう。
この記事は、そんな筋金入りの山雅サポである薄荷がお届けする。松本山雅FCとそのチャントを愛してやまない、全緑の声出し応援レポートである。
8月28日、カマタマーレ讃岐戦。いよいよサンプロアルウィンの「日常」が戻ってくる。
やっと、やっと、心待ちにしていた日がやってくる!
※この記事はOWL magazine(月額700円)に寄稿しています。
(以下、各タイトルは松本山雅FCのチャントから引用)
アルウィンに響かせる、俺らの歌
居ても立ってもいられず、何日も前から喉を整えた。
温かい生姜茶をこまめに飲む。
毎晩湯船に浸かって、蒸気で喉をほぐす。
必要以上にお酒を飲まない。
どんなに遅くとも、0時には就寝。
朝起きたら、第一声より先に水分をとる。
コロナ禍以前は毎週こんなことをやって、身体の調子も整い、現在より10kgも痩せていた。週末を思ってはうきうきと頬がゆるみ、「いつも笑ってるね」と褒められたこともある。
山雅に献身しているおかげで、私の生活満足度はうなぎ上りだ。
愛とは、見返りを求めないもの。でも、私・・・・・・、やっぱり欲しいな。勝ち点3が。
入場開始時刻を待ちながら、涼しい風の中でピクニックをする山雅サポが、いつも大勢いる。手に入れたスタグルを食べ、自作のお漬物やアウェイのお土産を持ち寄っては、そこかしこで井戸端会議を開催している。
その一角に混じって、私も腹ごしらえをする。
耳をつんざく轟音に、買ったばかりのメンチカツバーガーを頬張る手を止めた。見上げれば、すぐそこを飛ぶ機体は緑色だ。
なんの根拠もないが、「今日は勝てる」と思って嬉しくなる。
「うちがスタグル出している試合、全部勝ってるんです。だから、今日も勝ちますよ」
店員さんの言葉を思い出しつつ、視線をメンチカツバーガーに戻す。ふかふかのパンと、はさまれた肉が、ひと口でかぶりつけないほど分厚い。真ん中にはトロトロの半熟卵が入っていて、よそ見をしている間にとろりとあふれ出ていた。あわてて、次のひと口で受けとめる。
ぎっしりと噛みごたえのある肉に、まろやかに絡まる卵黄のソース。とてもおいしいのに、うまく味がわからない。
胸が高鳴って、落ち着いて食べられないのだ。
何を歌うだろう。声はちゃんと出るだろうか。体力は持つだろうか。水分は多めにとっておかなくちゃ。
歌いたい曲ばかりだ。新しい選手チャントも予習した。運転中のBGMはYoutubeにあるチャントメドレー。準備は万端だ。
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サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…