【書評】我々の倫理観を問う衝撃漫画『とっても優しいあまえちゃん!』
この本では漫画『とっても優しいあまえちゃん!』ちると(著)について説明します。
秋晴れのさわやかな季節を迎えましたがつつがなくお過ごしでしょうか。
ブログ・梟茶房 http://owl296380.hatenablog.com/ の服朗と申します。
ブログでは男性向けの衣食住の知恵紹介をメインに行っていますが
同時に漫画についても紹介しています。
早速ですが、私の中の戦慄漫画ランキングが更新されましたので
ご報告申し上げます。
私事で恐縮ですが全漫画読みが一読すべき内容と判断し筆を執らせて頂きました。
本書評を読了後はお近くの書店か電子書籍にてお買い求めてください。
わずか600円程度で衝撃を味わえます。
【服朗的漫画の戦慄シーンランキングTOP5】
1・『とっても優しいあまえちゃん!』全編←New!
2・『デビルマン』の美樹ちゃんカーニバル
3・『漂流教室』で小学生が謎の肉を食べる
4・『14歳』で宇宙人襲来
5・『WATCHMEN』でオジマンディアスがすでにスイッチを押していた
6・『ベルセルク』の触
少年漫画誌で人間の業を描き切った『デビルマン』より
ホラー漫画界の頂点・楳図先生の『漂流教室』『14歳』より
アメコミトップライターがヒューゴー・アイズナー賞を獲った『WATCHMEN』より
現代ダークファンタジー漫画のTOP『ベルセルク』を蹴落として
『とっても優しいあまえちゃん!』見事首位獲得です。
【どんな漫画】
大学受験に失敗し漫画家を目指して上京した青年が
表紙の巨乳小学生にひたすら甘える話です。
表面的に見てる分には女性陣から「キモっ!」と一蹴される内容です。
さにあらじ頭の弱い萌漫画の皮を被った真の社会派漫画です。
【その構造とは】
ダメな主人公がそんなことでというメンタルの弱さを発揮し
ダウナーになるもあまえちゃんが甘えさせることで
「あまえちゃん好き~」と決め台詞を言って幸せな気分になって終わり。
この構造が1話完結で繰り返すだけです。
ちなみにあまえちゃんが甘えさせてくれる内容を一部抜粋。
・3日間の林間学校で会えなかったら甘えさせてくれる
・おふろに浸かって10秒数えたら甘えさせてくれる
・歩いたら甘えさせてくれる
・風邪をひいておかゆをもぐもぐできたら甘えさせてくれる
・ママと読んだら甘えさせてくれる
・カバーをめくったら甘えさえてくれる etc...
【主人公とあまえちゃんの関係って】
漫画家志望でひきこもりの男性=弱り切った現代の男性の比喩です。
仕事は失うかブラック労働、家族から見放され、友人とは疎遠になり
かつて一家の大黒柱として君臨した父権社会は喪失しました。
そんな現代の男性に残されたものは
「自分を全肯定してくれる巨乳小学生」=ありえない存在。
残されたものがありえない存在ということは
「何も残っていない」と断言しきっているのです。
それは昨今の萌え漫画が読者に気づかせないように
あるいは作者自身も目をそらしていた事実です。
本作はそれを極端にかわいらしく表現することで突きつけます。
(スプラッタ映画がやりすぎてコメディになるのに似ています)
でもこの漫画の恐ろしいとことはここからです。
【表現規制って】
小学生はアメリカでは『タイタニック』は見れませんでした。拳銃が出るからです。
中学生は『モンハン』をプレイできません。モンスターの血が赤かったからです。
高校生はポルノを見れません。性描写があるからです。
では本作に年齢区分をつけるとどうなるか?
全年齢対象です。
理由は性描写も暴力描写も特定の団体への侵害行為もないからです。
かつてアメリカではコミックス・コードという表現規制が行われました。
「正義は必ず勝たなければならない」「黒人は主人にしてはならない」など
事実上の検閲でした。
これによってスーパーヒーローコミック以外が壊滅寸前までいき
日本の漫画のように多様性を獲得できなかったといいます。
本作は「政治家の資金プール代わりの倫理委員会などに何の意味が?」
と言わんばかりに規制の海を泳ぎ切っています。
でも1読者として私は皆さんに問いたい。
タイタニックもモンハンもポルノも
ここまで狡猾で子供に悪影響を及ぼすとは思えないと。
【サブキャラクターの意味とは】
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』という映画をご存知ですか?
2007年に公開された映画でアカデミー主演男優賞も獲っています。
内容は20世紀初頭のアメリカで凡庸なダニエルという男が
金脈を探して登場するも事故に遭い、偶然油田を発見します。
しかし成功するほど孤独になり最後は自分の子供に捨てられ
自分を頼ってきた牧師に神の不在を宣言させ殺害して終わります。
この主人公の特異な点は徹底して感情移入できないことです。
なぜか?
それは彼が「アメリカ」という国の比喩になっているからです。
ゴールドラッシュで成り上がり石油で孤独になり
自らの子供と神を失った現代のアメリカという国を
1人の人間に当てはめているんですね。
本作1巻で出てくるサブキャラは2人だけです。
そして勘のいい方ならこのサブキャラが同じ手法を用いられているのに
気づくはずです。
○第8話
あまえちゃんの友達の安貝まともちゃんが心配し
あまえちゃんに監視カメラをつけて甘えさせるのを禁止します。
嘆き悲しむ主人公でしたがあまえちゃんの機転で
胸ではなくお尻に甘えることができたのでした
⇒現代の監視社会を皮肉っています。
何か事件が起きればスマホで写メが取られインスタにUPされる現代。
しかし抜け穴というものは常に存在し完全な平和などないということを
我々に突き付けます。
○第11話
新米婦警の可成夢久が巡回中に公園で戯れる2人を発見し
「事案では?」と思うが哺乳瓶で授乳する2人の絆を確認し去っていく。
⇒警察の民事不介入問題へ切り込んでいきます。
ジャージの不審な成人男性も小学生女子がOKといえば
警察には手出しできないんですよ。
現在の警察の不祥事や「パチンコは賭博じゃない」「ソープは自由恋愛」と
建前ばかりで国民を守らない警察への明確なアンチテーゼといえましょう。
【作者コメントが一番すごい】
『試行錯誤の末、一番最初に単行本になったのは後先考えずに
夢をぎゅうぎゅう詰めにしたこの漫画だったようです。
僕の「好き」が詰まっているので是非読んでください』
上記のちると先生のコメントを意訳するとこうなります。
『このあらゆる悪徳と腐敗が蔓延した社会で
倫理観(自分の心)一つ自由にならないとは
それで生きてるって言えるんですかね』
こういう言葉があります。
「こうじゃないのかと問いかけてくるのが映画。
こうだと言い切るのが宗教」
この漫画を映画とするか宗教とするのか
かわいらしいキャラクターと計算しつくされた隠喩表現で
読み手としての力が試されています。
萌え漫画の仮面を被り我々に生き方を問うてくる
『とっても優しいあまえちゃん!』お見逃しなく。