見出し画像

【第136回】スピッツ/とげまる

私はとても臆病な人間である。そのため人前で怒りをあらわにすることはほとんどなく、周りからは穏やかな人に見られがちなのだが、実は心のなかではイライラっとしていることが多々ある。それも小さなつまらないことでだ。例えば電車を降りようとしているのに乗って来る人とか、通路を通ろうとしているのにリュックを背負って通せんぼしている人とか、ながらスマホでぶつかってきそうになる人とか、自転車で逆走しているのに当たり前の顔をしている人とか、爆音で車とかバイクを走らせている人とか、車で危険でもないのにクラクションを鳴らしたり煽って来る人とか(まあこれは私の運転がトロいせいもあるのだけれど)、あげだしたらキリがない。そんな私なのだけれど、将来的にはおひょいさんの様な、飄々としたおじいちゃんになりたいと思っているので、そんなつまらないことでトゲトゲしていちゃいけないのである。そしてそんなトゲトゲしたときはスピッツさんを聴くと良い。スピッツさんを聴いているととても優しい気持ちになって、トゲトゲした感情もどこかに消え去ってしまう。そして私はまた少しおひょいさんに近づいていくことを実感できるのだ。というわけで今回はスピッツさん通算13枚目のオリジナル・アルバム「とげまる」を聴いてみた。
このアルバムは名作「さざなみCD」(第133回参照)の次の作品ということで、その流れを汲んでいる印象がある。お気に入りの曲をあげると3曲。1番のお気に入りは「君は太陽」。爽やか青春ソングで私の好みにバチッとハマる曲だ。盛り上がったサビの後、少し落ち着いたフレーズが入るところなんかスゴく好き。歌詞についても恋が思い通りにいかなくて、いじけてしまう心境とか共感してしまう。「なるほど、そうかそうか」や「君はくちびるをへの字にしてる」「理想の世界じゃないけど、大丈夫そうなんで」といったちょっと煮えきらない感じも相変わらずステキだ。ほかのお気に入りの2曲は「恋する凡人」と「幻のドラゴン」だ。「恋する凡人」はカッコ良いミュート・ギターから始まる。ロックなサウンドなんだけれど、ボーカルが軽快で、聴いていて気持ちの良いメロディーだ。サビのギターもとても良い味を出している。「恋する凡人」という曲名もなんかステキだ。「幻のドラゴン」のほうも「恋する凡人」同様ロックなサウンド。なんか曲名がゲームの名前みたいだけれどちゃんとした曲である。特にイントロのギターがカッコよくて印象に残る。サビもとても盛り上がるし、ギター・ソロもクールだ。
それ以外で良いなと思う曲はオープニングを飾る「ビギナー」。ゆったりとした壮大な雰囲気を纏った曲で、重厚なサウンドと力強いボーカルが泣かせる名曲である。続いて2曲目に収録されている「探検隊」も良い。「ビギナー」から一転して疾走感のある曲だ。この曲を聴いていたら90年代に流行った「L⇔R」というバンドを思い出した。「アニョッキンニョワドゥワ」って歌っていた人たちです。私は結構好きなバンドだったのだ。ところで歌詞に出てくる「ピカプカ」ってなんじゃろう。
好きな曲としては以上になる。ここからは好きとは言えないけれど、気になった曲の感想をいくつかあげたいと思う。まずは「つぐみ」。ストリングスがとてもきれいな曲で、スピッツさんらしい優しい雰囲気。そして歌詞に「トゲトゲ」って言葉が出てくるので、このアルバムの表題曲的な扱いなのかなと思っている。それから「新月」はゆったりとした浮遊感のあるバラード曲。サビのピアノが曲全体の雰囲気を決定づけている感じ。歌詞の意味はよくわからんが、この曲を聴くとなんかジーンとこみ上げてくるものがある。ただ聴くタイミングによっては退屈に感じちゃう。あと「TRABANT」という曲は歌謡曲の匂いがプンプンな曲だ。疾走感があってカッコ良いけれど、哀愁のあるメロディーで、間奏や曲の終わり方とかかなかなかに昭和っぽい。そしてサビがどこなのかがよく分からない曲でもある。まあスピッツさんはサビがどことかあまり気にしていないのかもしれないけれど。それから「どんどどん」。これは曲がというより曲名が面白い。はじめにこの曲名を見たとき意味が分からなかったが、曲を聴いてイントロからAメロのリズムからきているのだと悟った。まるで仮タイトルのような曲名で、スピッツさんの遊び心が伺えて面白い。
と、曲の感想としては以上になるが、最後にアルバム全体についても語りたい。個人的にこのアルバムのピークは9曲目「TRABANT」までになる。そこまでは多少の好き嫌いあれど楽しんで聴くことができる。しかしこの後の「聞かせてよ」「えにし」「若葉」「どんどどん」は、決して悪くはないのだけれど、あまり好きとは言えなくて、これが4曲続いてしまうためにちょっと聴き飽きてしまう。そして集中力が下がったところにアルバムの締めである「君は太陽」が流れる。そんな状況で聴いてもハッとさせられるくらいに好きな「君は太陽」なのだが、この曲がもう少し早めに聴けたらなと思わざるを得ない。やはりこのアルバムの醍醐味(個人的にはであるけれど)といえる曲が最後まで聴けない(私はアルバムを最初から通して聴く良い子ちゃんなのです)というのは、いくら好きなものは最後にとっておくタイプの私でも、もったいぶり過ぎだよねえ(何度も言うが個人的にはである)なんて思ってしまうアルバムである。

スピッツを
途切れず(とげまる)ちゃんと
聴きましょう

季語はスピッツ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?