【第146回】たかがゲームと、侮るなかれ
私が好きなゲームの1つに「MOTHER」というゲームがある。赤い下地に「MOTHER」のロゴ(「O」の部分が地球になっている)が入ったシンプルなパッケージで、コピーライターの「糸井重里」氏が監修をされたゲームだ。結構有名なのでご存じの方もたくさんいらっしゃると思う。当時としては珍しく1980年代のアメリカを舞台としたRPGゲームで、主人公は半袖半ズボンに野球帽といった出で立ちで旅に出る。フライパンやバットを武器にしたり、魔法ではなく超能力を使ったり、パーティーのメンバーのことはお友達と呼ぶ。街にはデパートがあって、セーブ時はパパに電話をかけて行う。電話を切った後の「ガチャン、ツーツーツー」というメッセージは今や伝説だ。フィールドでは珍しく斜め移動ができて、それが楽しくて意味も無く斜め移動ばっかりしていた。ステータス異常には風邪や喘息があって、病院に行って治療をしてもらう。先ほど1980年代のアメリカを舞台としていると言ったけれど、SFの要素が含まれていて宇宙人も登場する。その名も「スターマン」。糸井氏はきっと「デビット・ボウイ」が好きなのだろう。そんな感じで「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」とは一線を画した、当時としては異色と言えるRPGゲームであった。結構難しいゲームであったけれど(物語中盤で訪れるダンカン工場が広すぎて、心折れかけたのが記憶に残っている)、今までの人生で2〜3周くらいするほどに好きなゲームだ。
そしてこのゲームは音楽にも力を入れていて、名曲が多いことでも有名だ。ゲーム中のストーリーでも音楽が重要な役割を果たしていたりもする。パッケージの裏側に、音量は大きめでプレイすることを推奨する文章が書かれていた記憶がある。作曲には「ムーンスライダーズ」の「鈴木慶一」氏が関わっている。私は「ムーンスライダーズ」自体を知っていないので、それがどのくらいスゴいことなのかよくわからないのだけれど、「MOTHER」の音楽は大好きだ。音楽が聴きたくて、オープニングやフィールドの画面で放ったらかしにしたり、何度も電車を乗り降りしたこともある。
レコードで音楽を聴き始めた頃、そんな大好きな「MOTHER」のサントラのレコード(2枚組)が再販されるという情報を入手した。その時は「MOTHER」から離れてずいぶん時間が経っていたけれど、懐かしくもあり購入するか悩んだ。しかしよく調べてみるとゲームのBGMに歌詞を付けてアレンジされたものになっているらしい。個人的にはピコピコ音に興味があるんだけどなぁと思いつつも、更に調べるとD面には、あたかもゲームを進行しているかのようなメドレーで、ピコピコ音そのままのBGMが収録されているということが分かった。これは神企画、ユーザーのことをよくお分かりでいらっしゃる。というわけで、この神のD面を聴きたいがために購入を決意した。
普段であれば律儀に収録順に聴いていく私だけれど、今回ばかりは神のD面が気になり過ぎてそっから聴いてみた。いや、懐かしいねぇ。やっぱりこういうのは、昔を思い出させてくれる堪らん企画だね。エンディングまで待たずに泣けそうであるう。聴いているとゲーム中の名シーンを思い出す。ただ、ちょっとあっさりし過ぎてるのよね。鑑賞に浸る間もなくすぐ次のシーンに移ってしまう。特にフィールドのBGMはもっと長めに欲しかったな。そこに関してはちと残念。まあ、収録時間の関係とかでしょうがないのかもしれない。
そうしていろいろな記憶を呼び覚ましてから、本題のサントラを聴いてみる。最初こそ歌詞の入った音楽に違和感を感じていたけれど、聴き込んでいくうちに悪くないなと感じだす。鈴木氏がどのように「MOTHER」のゲーム音楽を作曲したのかは知らないけれど、こういう雰囲気の曲をイメージしていたのかなと想像して、実際のBGMとこのサントラを聴き比べるのもまた一興だ。
お気に入りの曲はやはりフィールドで流れる「POLLYANNA (I BELIEVE IN YOU)」と「BEIN' FRIENDS」の2曲(このサントラを聴くまで、フィールド曲が2種類あるのを気づかんかった)と、ゲーム中でも重要な役割を担う「EIGHT MELODIES」。フィールドの2曲はとても可愛くて爽やかな曲だ。「EIGHT MELODIES」は賛美歌のような厳かな雰囲気。聴いているとちょっぴり切なくなるけどね。あとちょい残念なのが「THE PARADISE LINE」。ゲームのピコピコ音のときは好きだったのだけれど(電車に乗ったときのBGM)、歌が入ってなんかダサくなってしまった。歌声がいまいち馴染めないからなのかしら。ついでにもう一つ残念な点が、オープニングとデパートで流れる曲が入っていないこと。個人的にとても大好きな曲だったので、アレンジされたものを是非聴いてみたかったなと思う。特にデパートの曲はとてもコミカルな曲だけに、歌詞があてがわれたバージョンを是非とも聴いてみたい。まあ個人の好き嫌いを言い出すとキリがないけどね。とはいえオープニングは入れて欲しいよなぁ。
というわけで「MOTHER」のサントラ聴いてみたよって話でした。買う前はすぐに飽きるかと思ったけれど、アレンジのせいなのか意外に飽きずに聴き続けている。ふと思い出したときに聴きたくなるのだ。懐かしさだけでなく曲が良いのだろうね。耳に馴染みが良くてながら聴きにも最適。ゲームをやったことがない人にも是非聴いて欲しいサントラである。
お母さん(MOTHER)
Mを取ると
他人です
季語はMOTHER。