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【第142回】耳に心地ぃスミスさん

私は音楽を聴いていて、特に洋楽なんだけれど、「自分はどれだけ純粋に、この音が好きで聴いているのだろうか」と思うことがある。なんか恋するおっさんみたいで気持ち悪い発言だけれど、要はどれだけその音楽のバックボーンを抜きにして、好きでいられているのかということです。バンドのネームバリューとか、アルバムのジャケットとか、周りの評価とか情報は無限に入ってくるわけで。私の場合そういった情報の影響をモロに受けて、好き嫌いがブレちゃっているような気がするのだ。まあ、どんな方でも多かれ少なかれ、そういう影響は受けつつ聴いてるもんだって私は思っているんだけれど、実際は全然そんなことはないのかな。そんな中、かなり純粋に、その音だけを気に入って聴いていると、自信を持って言えるのが「ザ・スミス/ザ・クイーン・イズ・デッド」である。
このアルバムを聴く以前の私のスミスさんの情報は、存在だけは知っている程度のとこであった。「海外の人の代表的な名前と言えば?」の回答のようなバンド名からもなんとなく地味な印象。少し余談だけど「ザ・スミス」というバンド名、「ボン・ジョヴィ」みたいに人名から付けられたような名前をしているけれど実は違っていて、れっきとしたバンド名である。なぜ平凡な(全世界のスミスさんごめんなさい)海外の人の名前を選んだのかは不明である。日本風に言うと「たなか」になるだろうか(日本全国の田中さんごめんなさい)。しかしよく見るとスペルは「THE SMITHS」と複数形になっているので、日本風に言うと「たなかたち」というバンド名だ。まあ、そんな感じだったので、特別スミスさんが気になっていたというわけではなくて、聴くキッカケも気まぐれで聴いてみた、という程度の軽いテンションだったりする。言い方悪いけれど、あまり期待もしていなかった。アルバムのジャケットもそれほど惹かれる感じではなかったし。
そんな薄々な印象の中で聴いた「ザ・クイーン・イズ・デッド」は実に素晴らしかった。聴くなり一発で好きになって、そして何度繰り返し聴いても飽きることがなかった。良い意味で期待を裏切ってくれたのだ。彼らのどこが気に入ったのか不思議に思っていたので、自分なりにちょっと分析してみた。まずは純粋に曲が好き。草原が似合いそうなとても爽やかな曲調で、それでいて哀愁が漂っていて、聴いていて耳が心地良くなるのだ。それに加えて「おっ」思わせるようなカッコ良いフレーズが、曲の至る所に散りばめられている。それが爽やかな曲調に絶妙なスパイスを与えていて実に心地良い。どの曲もずいぶん練って作られているんじゃないかと想像している。それからボーカルの声質というか、歌い方も好みだ。力みがなくて気の抜けたような歌い方で、中にはこれを良しとしないリスナーさんもいらっしゃりそうだけれど、私はこの歌い方のお陰で、リラックスして聴くことができる。私はこれもスミスさんの魅力の1つだと捉えている。ただ、これはスミスさんを好きになってから、いろいろ調べて知ったのだけれど、結構クセのある、メッセージ性の強い歌詞であるらしい。そう言われてみれば確かに、アルバム名を日本語にすると「女王陛下は死にました」だもんね。穏やかじゃないよね。まあ、それはそれで、気の抜けた歌声とのギャップが尖っていて面白いかも。私は現状歌詞カードを持っていないし、英語もからっきし理解できないので、そのうち歌詞カードでも入手して、スミスさんの詞の世界観も堪能したいなと思っている。
それからこのアルバムは捨て曲なしで、全ての曲が好きなのだけれど、特にこれはというものをあげると、アルバム最後の2曲「ゼア・イズ・ア・ライト」と「サム・ガールズ」がお気に入りだ。「ゼア・イズ・ア・ライト」は、多分シンセサイザーの音だと思うのだけれど、それがとてもカッコ良くて、ストリングスと合わさってとても幻想的な曲に仕上がっている。穏やかなボーカルのメロディーも大好き。「サム・ガールズ」はリズムが気持ち良い疾走感のある曲だ。哀愁あるメロディーが魅力的。後半のギターの絡み合いとか聴いていてゾクゾクする。実に耳に心地良い2曲だ。
そんなわけで、聴いてからハマったスミスさんだけれど、私はほとんど知らなかったが、結構熱烈なファンが多いバンドのようだ。本国イギリス以外の国ではあまり人気はなくて、バンドとして活動した期間も5年程度と短かったみたい。知る人ぞ知る的な伝説のバンドという感じかなと思う。少なくとも私の周りで、今まで「ザ・スミス」という言葉を発した人は居なかった。そのせいなのかスミスさんのレコードは若干お高めで、私の好きな帯付きレコードはほとんど見たことがない。一度「ザ・クイーン・イズ・デッド」の帯付きレコードを見かけたけれども、5万円以上の値がつけられていてとてもじゃないが手が出せなかった。これだけ気に入ったアーティストなんだから、ほかのアルバムも聴いてみたいなとは思いつつも、せっかくならレコードで聴きたいなという想いがあって、結局「ザ・クイーン・イズ・デッド」以外のアルバムは聴けていない(「ザ・クイーン・イズ・デッド」は、まだレコードを集め始める前に洋物のCDで聴いた)。スミスさんは聴きたいけれど、せっかくならレコードで聴きたいけれど、帯付きが欲しいけれど、高いから輸入版で妥協したいけれど、日本語訳がないからそれなら日本版のCDで我慢したいけれど、せっかくならレコードで…といった感じで堂々巡りをしてしまい、未だにほかのスミスさんを聴けていないの現在の状況だ。誰か優柔不断な私を叱ってください。

CDなら
無理に聴くけど(クイーンイズデッド)
聴き済す(スミス)

季語はスミス。

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