「なんてったってアイドル!〜秘密の文化祭大作戦〜」第3話
第3話
○一王山高校・生徒会室(夕)
山口「みなみん、ちょっと来て!」
みなみ「どしたの?」
山口「ちょっとマジで一瞬きて!緊急事態!」
みなみ、不安げな顔。
みなみM「今度はなに……?」
○同・廊下~視聴覚
みなみ「なんで視聴覚室?」
山口「まぁまぁまぁ……」
みなみ、山口に押される形で視聴覚室に入る。
踏ん張るみなみ。
部屋で待ち構えていた十数人が湧く。
団扇やサイリウムなどみなみを応援している様子。
みなみ、唖然とした顔。
みなみM「は? なんなのこの人たちは……!?」
スクリーンに『工藤みなみ 第一回ファンミーティング』と書いてある。
山口「みなさん、お待たせしました!」「それでは工藤みなみさん自己紹介をお願いします」
みなみ、山口を見て訳がわからないという顔。
山口、挨拶を促す。
みなみ「みなさん、少々お待ちくださいね」
みなみ、山口を押し出す形で一旦廊下へ。
みなみ「なんなのこれは?」
山口「見ての通りみなみんのヲタが集まってるんだよ」
みなみ「な、何?」「私、忙しいんだけど」
山口、『再生可能エネルギー100%電力への切り替え要請書』と書かれた書面を見せる。
みなみ、少し驚く。
山口「今日参加してる人はみんなここに署名してもらった」
みなみ「それはさ……」
山口「さぁ世界が君を待ってる」
再び中に入る2人。
拍手が起こる会場。
いまだに状況が理解できないみなみの顔。
みなみM「な、な、なんなの……?」
× × ×
スクリーンに『工藤みなみに100の質問』と表示。
生徒A「最近知って驚いたことは何ですか?」
みなみ「シロクマの毛って白じゃなくて、光が反射して白く見えるらしいです」
「へぇ~」という会場。
生徒B「みんなに言いたいことは?」
みなみ「言いたいこと……」
みなみ、意を決した顔。
みなみM「そうだ、ここでみんなに気候活動について知っておらおう」
みなみ「みなさん知ってますか?」「日本人は気候変動が起きてると答える割合は世界でもトップクラスですが、気候活動に参加したいと答える人の割合は世界で最下位なんです」「最下位ですよ」「みなさんには是非今すぐ行動して欲しいんです」
みなみ、得意げな顔。
みなみM「よし、どーだ!」
会場、無反応。
みなみ、気まずい表情。
みなみM「え?」
山口「まぁ、ここにこうやって集まったのも立派な活動の一つですよ!」「みなさん!」
拍手が起きる会場。
戸惑っているみなみ。
× × ×
握手会が行われている。
みなみの写真がプリントしてるTシャツ。
みなみ、引いてる顔。
小山「これ勝手に作っちゃったんですけどいいですか?」
みなみ「(苦笑しつつ)ど、どうぞ……」
小山「ありがとうございます!」「もっとみなみんをみんなに布教します!」
小山を剥がす山口。
熱量に苦笑いのみなみ。
神谷「いつも応援してます! 大文化祭に出るって本当ですか?」
みなみ「え? いや出ないかと……」
神谷「えぇ! 絶対出て欲しいです!」
と言いながら剥がされる。
目暮「環境問題もいいけど、歌って踊るみなみんが見たいなぁ」
みなみ「(むっとして)いやそれはですね」
目暮「募金しましたよ!」
みなみ「あっ、ありがとうございます」
目暮「だから今度写真撮ってください!」
山口にはがされる。
目暮「(みなみから離れながら)募金したので、写真を~!」
唖然としてるみなみ
○生徒会室(夕)
みなみ、納得いかない様子。
山口「名簿も募金も集まって良かったじゃん」
みなみ「いやぁ…どうなんだろう」「何か罪悪感というか…」「みんな気候変動に興味があってやったことではないよね」
山口「みなみんに興味持ってやったことじゃん」「別に結果は同じなんだからいいでしょ」
みなみ「いやぁ……」
沈黙。
山口、スマホを見て
山口「それより非公式のファンアカウントが増えてる」「さっきのも違法アップロードされてるし」
先ほどの様子を見せる山口。
みなみ「山口くんのだって公式じゃないでしょ」
山口「だからだよ。ここらでちゃんと学校公式のアカウントにして、体裁は学校全体で気候活動に取り組んでることにした方が良くね?」
みなみ「(思案して)確かに……」
○同・職員室(日替わり)
机に向かい作業をしながら話す小嶋。
小嶋「ダメに決まってんだろ」
小嶋の前に立っているみなみ、山口。
みなみ「なんでですか?」
小嶋「個人が特定されたり、ネット犯罪とか色々あるだろ」
みなみ「まだそんな世紀末みたいなこと言ってるんですか?」
小嶋、イラッとしてみなみを見る。
山口「先生、これ見てください」
山口、スマホを小嶋に近づける。
小嶋、迷惑そうに顔を向ける。
脚を出し制服姿で踊る一高女子生徒の動画。
小嶋「こらっ! やめなさい」
小嶋、見まいと振り払う。
山口「一高の生徒です。すぐに特定できるし、コメント欄を見ると犯罪に巻き込まれそうです」
小嶋「とにかく大人しくしといてくれるか?」「もし問題が起きたら誰が責任取るんだ」
みなみ「小嶋先生です」「だからお願いしてます」「一高全体の広報にもなりますよ」
小嶋「それはもうホームページが――」
みなみ「Windows95で作ったやつですか?」
小嶋「工藤、お前は言い方に気をつけろよ」
みなみ「でも先生夏休みに言いましたよね。(真似して)『生徒が言うから意味があるんだ』」
小嶋「……(むかつきと図星で黙る)」
山口、小嶋の椅子をグイッと回す。
小嶋「おいっ」
山口「先生、一高の校訓って何でしたっけ?」
小嶋の視線の先『独立自営』と達筆で掲げられている。
小嶋、観念し、ため息をつく。
小嶋「お前らは全く……」
したり顔で見合うみなみ、山口。
○工藤家・みなみの部屋(夜)
パソコンで気候活動について長文を書いているみなみ。
書きながら頭の中で回想。
山口「そうだ。誰も見てないHPもリニューアルしてブログも書こう!」「アイドルといえばブログだ!」
みなみM「ブログ書いてるからってアイドルにはならないよ」「ただ確かに山口くんの言うことも一理ある」「何をしたか記録に残す必要はある。後で検証できるように」
着信音が鳴る。山口から。
みなみ「(パソコンしながら)はい」
山口「みなみん、これ読むのに3日かかるよ」
みなみ「シリーズの1回目なんだけど」
山口「もっと今日何があって何をしたとかどうでもいい日常が読みたいのに」
みなみ、意に介さずタイピング。
山口「あとさホームページできた」
みなみ「まじ?」
みなみ、パソコンを操作する。
企業のような生徒会のHP。
みなみ「え?」「すごくない?」
山口「(笑って)本気出した」
みなみ「これならジーコも文句言わないよ」
山口「(俺こんなに頑張ったの人生で初めてかも」
みなみ「そんな大袈裟な……なにこれ?」
唖然とするみなみ。
HP上でみなみの画像が次々とオーバーラップする。
みなみM「なんか私がオーバーラップしとる!」
山口「いや本当に」「この前アイドルの定義聞かれたじゃん」「俺あの後ずっと考えてたんだけど、推しを見ると俺も推されんの」
みなみ「ちょっとこれ……どうやったら止まんの?」
山口「なんていうかさ、勝手に元気になるっていうか俺も頑張れるっていうか」「だからこのホームページも実質みなみんが作ったようなもんなの」
みなみ「いやどう考えても作ってないけど」
みなみ、PCとスマホをもってベッドに移動。
山口「神が7日間で世界作ったっていうじゃん」「あれは多分作らせたんだよ。神が」
みなみ「さっきから何の話?」
パソコンを色々操作しているみなみ。
山口「だからアイドルは神って言うか……世界を変える存在なんだよ」
みなみ、動きが止まり、瞳があがる。
みなみM「……私と同じじゃん」
みなみ「これ募金のリンクも貼ろうよ」
山口「え、俺の話聞いてた?」
みなみ、冷静になって
みなみM「……いやいやまさかね」
○通学路(夕)
並んで歩いている2人。
山口「みなみんがテンション上がることは?」
みなみ「急になに?」
山口「HPにみなみんの百問百答のコーナーつくるから」
みなみ「……じゃあ山口くんも答えて」「私はセイウチの群れを襲うシロクマ」
山口「誰がセイウチだよ」
みなみ「何も言ってないじゃん。山口くんは?」
山口「……食べ放題」
みなみ「食べ放題?」「食べ放題はフードロスがあるからもうやめよ」
山口「俺は残さないよ」
雨が降ってくる。
少し駆け足になる2人。
みなみ「山口くんが残さなくても廃棄は出んの」
山口「ね!」「そうだ」「もうすぐSNSの総フォロワー数が全校生徒の数超えそう」
みなみ「それいいことなの?」
強くなる雨。
走る2人。
○公園(夜)
ゲリラ豪雨が降っている。
遊具で雨宿りしてるみなみ、山口。
みなみ「やっぱり良くないんだ」「これは地球から私たちへの警告だよ」
山口「将来の夢は?」「アイドル以外で」
みなみ「(雨を指し)この問題放置してたら将来寿司食べられなくなるよ?」
山口「それは困るな」「で夢は? 環境関係?」
みなみ「……まぁ」
山口「え?」「他になんかあんの?」
みなみ「(思案して)……やっぱいいや」
山口「うわ、一番気になるやつじゃん」
みなみ、真剣な表情。
山口、みなみを見つめる。
みなみM「山口くんには言ってもいいかな……」
× × ×
みなみの妄想。
みなみ「私総理大臣になるんだ!」
山口「えぇ……(ドン引き)」「あっ、そっち系ね……」
みなみM「絶対こうなりそうだけど……」
× × ×
みなみ「私総理大臣になるんだ!」
山口「マジで!最高じゃん!」
みなみM「って言ってくれそうな気も……」
× × ×
山口、「ん?」という顔でみなみを見る。
みなみ、意を決して口を開く。
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