(公開戯曲)カフカのLGBTQ

劇団クラウンクラウンの公演で使って頂きました、須澤真織さん一人芝居用シナリオです。FBページ上で公演の様子がみられます。1:00〜頃からです。昼公演、夜公演ともに須澤さんは優勝されたようです。

Online Writers' Clubでは脚本の執筆依頼を承っております。本件公演のようにOWC以外で発表の場がある方でしたらどなたでも承ります。

Online Writers' Clubのチャンネルやアカウントでしか発表の場が想定されない場合は、依頼を受けた場合「書けたら書きます。。。」くらいのスタンスなのですが、OWC以外の場に関する依頼についてはほぼ100%ちゃんと書きます。

中の人の花緒のスタンスとしては、依頼は「OWCだか何だか知らないが、お前らやれんのか」という依頼主からOWCへの挑戦と捉え本件執筆のように役者さんにチャレンジする気持ちで書かせて頂く方針です。

花緒としては一人芝居本の作成は役者VS書き手のバトルと捉えていますので、基本、攻撃的な本になる気がします笑。OWCの他のライターは違うスタンスかもしれませんが。


カフカのLGBTQ   作:花緒


○講演会会場

  舞台に女が登壇する。

女「本日はLGBTQの未来を考える会に
お招き頂き有難うございます。

ただ、正直よく分からないのは、どうして
僕がLGBTQの未来を考える会に呼ばれ
たのか、ということなんです。どうして僕
を呼んだんですか?僕は所謂、性的マイノ
リティとは全然違いますから。

僕は村林雅史と言います。3年前までは男
でした。男としては、ええ、相当背が低く
て、体も異常に細くて、だからモテるわけ
ないですよね。物心ついた時から分かって
いました。こんな身体じゃ女から愛される
ことは一生ないんだろうと。

女のことはずっと考えないようにしていま
した。それなのに、高校生の時、好きな子
が出来てしまって…。どこにでもいるよう
な詰まらない女ですよ。須澤真織っていう
名前の女で、演劇部に所属してたんです。
彼女に近付きたいばかりに僕も演劇部に入
りましてね。

彼女から愛されないことくらい分かってま
したよ。僕みたいなガリガリのチビがモテ
るわけないですから。だから、彼女の近く
にいられるだけで満足するつもりだったん
です。でも人間ってどうしようもないです
ね。次第にそばにいるだけでは満足できな
くなっていったんです。

ある日、彼女が演劇部の部室から出てきた
時です。熱に浮かされたように思わず声を
かけてしまったんです。

『ぼ、僕と付き合ってくれませんか。真織
さんが僕のこと好きじゃないのは分かって
ます。でも真織さんと付き合うためなら僕
なんでもします』って。

すると彼女はこう言いましたよ。

『ごめんなさい、私、他の人には言わない
で欲しいんだけど、実は女の子が好きなの。
だから雅史君が女の子だったら良かったの
に。雅史君が女の子だったら私、好きにな
ったと思う』って。

僕はその言葉を間に受けたんです。いずれ
にせよ、通常のやり方では、僕みたいな男
が真織さんから愛されるはずはない。でも、
女になれば真織さんは僕を好きになってく
れるかもしれない。

そこから先は変な夢を見ているみたいでし
た。気が狂ったようにバイトして、お金を
溜めてそれで性転換手術を受けたんです。
手術まで漕ぎ着けるのに5年以上かかりま
したけどね。可笑しいですか皆さん。
人から愛される自信の無い男が、初めて愛
される希望を持ったんですよ。

僕は女になって須澤真織に近付きました。
OLになった彼女は今でも演劇をやってい
て、僕も彼女と同じクラウンクラウンって
いう社会人劇団に入ったんです。

同じ劇団員として僕は彼女に話しかけまし
たよ。

(以下、一人で二人を演じる)

『真織さんて今、彼氏とかいるんですかあ
〜?それとも、彼女だったりして』

『何。いるんですかあ〜って。もうずっと
彼氏できなくてマッチングアプリやってん
のよ最近』

『え、マッチングアプリで彼氏探してるん
ですか』

『え、なんか悪い?良いじゃん、マッチン
グアプリ。効率的に男と出会えるし』

『真織さんって女の子が好きなんじゃなか
ったんですか』

『何それ、誰から聞いたの?確かに高校の
時は好きな女の子いたけど、そういう年頃
ってあるでしょう?私、当然だけど、男し
か好きになれないよ?』

『そう…なんですね。でも、マッチングア
プリっていうのはどうでしょうか。例えば、
真織さんのことを狂おしいくらい好きな男
…とか女とかがいるとして、兎に角真織さ
んじゃなきゃダメだと、真織さんから愛さ
れるためには何でもやると、そういう人間
がいるかもしれない。
そういう可能性に対して、マッチングアプ
リってなんか失礼な感じしませんか?もは
や誰でも良いんですよって宣言しちゃって
るような感じがあって…。もし、真織さん
が誰でもいい誰かと出会いたいなんて言っ
たら、真織さんのために全てを投げ売った
人間はどう思いますかね?そういう可能性
を否定してー』

『何熱くなってんの?気持ち悪いよさっき
から。マッチングアプリで知り合って何が
悪いの?きっかけがあって、気に入る感じ
だったら、別に誰でも良いじゃない!みん
なそうやって生きてるでしょ!』」
 
   
    間。


女「本日はLGBTQの未来を考える会に
お招き頂き有難うございます。

ただ、正直よく分からないのは、どうして
私がLGBTQの未来を考える会に呼ばれ
たのか、ということなんです

私はゲイではありません。レズではありま
せん。バイセクシャルでもトランスジェン
ダーでもありません。今となっては、私は
男でもなければ、女でもありません。

以前持っていた名前はもう失いました。

私はこの身体を脱ぎ捨てて、

誰でもいい誰かになりたいんです」


(了)

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