(公開シナリオ)珍妙な二人

Online Writers' Clubでは初めて5話連続物のショートZoom演劇を撮影してみました。例の如くシナリオを公開したいと思います。シナリオはご連絡さえ頂ければ自由にお使い頂いて構いません。

〈第一話〉

○ズーム画面(オーセンティックバー)

  シックなオーセンティックバーを背景に、義重と
  夏美、ズーム画面越しにグラスを重ねるジェスチ
  ャー 

義重「乾杯」

夏美「うん」

  修哉、画面オン。

修哉の語り「お洒落なオーセンティックバーといえば、
 カップルが愛を育む場所。素敵なカップルが店で愛
 を育んでくれるのを見るのが、バーテンダーとして
 の俺の一番の喜びなんだ」
  
  義重と夏美、親密な雰囲気で話す。

義重「ねえ夏美、俺のことどう思う?」

夏美「えっ…それは…面白い人だと思ってるけど…」

義重「…。そういうことじゃなくて、好きとか嫌いとか…」

夏美「えっ…。好きか嫌いかで言うと…」
  
  微笑ましく義重と夏美を横目で眺める修哉
 (グラスを磨くなどのアクションをしながらだと尚良
  い)。

夏美「嫌い!!整理的に無理!!顔が全然タイプじゃな
 い!!肌も汚いし、近くにいるだけでイライラする
 !!」
 
  驚愕して夏美を見る修哉

〈第二話〉

○ズーム画面(オーセンティックバー)
   
  夏美と義重、距離を開けて、違う方向を見ながら飲
  む。
  夏美は義重から離れたそうなそぶり。

修哉の語り「お洒落なオーセンティックバーといえば、
 カップルが愛を育む場所。素敵なカップルが店で愛を
 育んでくれるのを見るのが、俺のバーテンダーとして
 の一番の喜び、ではあるんだけど…」
  
  義重と夏美、ぎこちない雰囲気。

義重「えっ。俺のこと嫌いなの?でも一緒にこうしてバ
 ーまでついて来てくれるってことは、俺のこと、そん
 なに嫌じゃないんだよね?」

夏美「今は嫌い。生理的に無理。でもこの石鹸を使って
 くれれば好きになると思う(石鹸が無ければシャンプ
 ーでも化粧品でも可)」

義重「はあっ?」

夏美「この石鹸は米国スタンフォード大学で開発された
 特別なアンチエイジング石鹸で、これを使えば細胞が
 生まれ変わるの。今なら、特別価格3個30万円」

義重「30万?」

夏美「いやいや、高く感じるかもしれないけど、他に会
 員を紹介してくれればその分お金も入ってくるんで、
 むしろお得なんですよ。私たち、ウルトラゴールデン
 マルチマーケティングって呼ばれるすごく最先端の方
 法でやってるんだけど、いや聞いて、マルチ商法とは
 ちょっと違うの、言ってみればマルチ商法のものすご
 く進化させた感じのやり方で…(会話の途中でエンド
 にする)」
   
  驚愕して夏美を見る修哉。


〈第三話〉

○ズーム画面(オーセンティックバー)
 
  夏美、石鹸を片手に義重の方を向いている。
  義重、夏美とは違う方向を向いて、露骨に引いてい
  る雰囲気。 
  客を横目で見ながら働く修哉。

修哉の語り「お洒落なオーセンティックバーといえば、
 カップルが愛を育む場所。でも残念なことに、時折、
 詐欺商法の勧誘をやってる人もいる・・・」
  
  夏美、石鹸を見せ、義重に話す。

夏美「この石鹸は米国スタンフォード大学で開発された
 もので、これを使えば、汚れが落ちるだけじゃなくて、
 細胞が生まれ変わるの。本当だって。だから、三個3
 0万円でも安いくらいなのよ」

義重「・・・」

夏美「疑ってるでしょ。一回使ってみれば、分かって貰
 えると思うんだけど、どう?友達価格で1個5万円に
 してあげようか」

義重「…。石鹸はいらないな…。俺、ウルスラクリスタ
 ル仏教っていう宗教の信者なんだけど、ウルスラクリ
 スタル仏教に入信してくれれば石鹸なんて使わなくて
 も、肉体が完全に浄化されるんだ」

夏美「はあっ?」

義重「嘘じゃないんだ。ヒミ氷見彦大先生の教えを受け
 れば、宇宙エネルギーと一体になって、第七チャクラ
 が開放されるんだ。それによって、生きとし生ける凡
 ゆる生命体との集合的無意識と感応することができ、
 ヒミ氷見彦大先生と同様の永久不滅の肉体を持つクリ
 スタル超人になれるわけで、すなわち、あらゆるカル
 マが…(会話の途中でエンド)」
 
   驚愕して義重を見る修哉。

〈第四話〉

○ズーム画面(オーセンティックバー)
   
   義重、夏美の方向に身を乗り出して話す。
   夏美、義重とは違う方向を向いて、露骨に引いて
   いる雰囲気。 
   客を横目で見ながら働く修哉。

修哉の語り「お洒落なオーセンティックバーといえば、
 カップルが愛を育む場所。でも時折、宗教の勧誘をや
 ってる人もいるんだ…」

義重「ウルスラクリスタル仏教を信仰すれば、人間の潜
 在能力が全て開花するんだ。僕も半信半疑だったんだ
 けど、初めてダイナミック瞑想をやった時、3日後に
 物凄い量の宿便が出たんだ。その宿便といったら、便
 器が全て油でギトギトになるようなモンで」

夏美「はあ…」

義重「疑ってる?一度、ダイナミック瞑想会に来れば、
 分かって貰えると思うんだけど」

夏美「…。私、今まで黙ってたけど金星からテレポート
 して地球にやってきた宇宙人なの。だから、貴方には
 理解できないだろうけど、そもそも私には肉体という
 概念もないわけで、人間の観念で捉えられるレベルの
 話されてもさ、複数宇宙を行き来できる私からしたら
 宗教なんてお伽話みたいなモンで」

義重「はあ?夏美は金星人じゃないだろ」

夏美「確かに地球人の理論で言えばそうなるわね。でも
 ちょっと聞いて。複数宇宙の観点から言えば、ここに
 私がいると言うことはもう一つの宇宙では私はいない
 ということ。ここに金星人である私がいないと言うこ
 とは異なる宇宙には金星人たる私が存在しているとも
 言えるわけ。要するに金星人としての私が存在しない
 ことが金星人である私の存在を証明していて、複数宇
 宙を統一するイデアとしての私が、私と私でないもの
 の全てをあなたの前で表現しているのよ!ほら、あり
 のままの私とありのままでない私の全てを受け入れな
 さいよ、ねえ!」

   驚愕して夏美を見る修哉。

  
〈第五話〉

○ズーム画面(オーセンティックバー)
  
   夏美と義重、テンション高めで話す。
   ドン引きしている修哉。

夏美「私、金星から来た宇宙人なの。複数宇宙を経由し
 ながら地球にやってきた全ての概念を統合するイデア
 としての私を見なさいよ」

義重「へえ、僕、今まで黙ってたけど、実は3千年後の
 未来からタイムマシーンに乗ってやって来たんだ。今
 僕の脳内には全ての時空間に存在する夏美の姿が見え
 る」

修哉「ちょっと、そこのお客さん、様子おかしいっすね。
 どうしたらいいんだか…」

  修哉、画面オフ。
  義重、急にカメラ面線で語る。

義重「お洒落なオーセンティックバーといえば、カップ
 ルが愛を育む場所。ここで僕達は突拍子もない話をし、
 バーテンダーの驚く顔を見るのが楽しみなんだ」

夏美「今日も楽しかったね。ちょっと酔っ払っちゃった。
 そろそろ行こっか」

義重「ああ…」

   義重と夏美、ズーム背景が夜道に変わる。
   二人、手を繋いで歩く。
  (ズーム画面の切れ目で手を繋ぐジェスチャー)

義重「ひとしきり店長を驚かせたあとは、二人でゆっくり
 手を繋いで帰る。これが平凡な僕たちの」

夏美「ちょっと人とは違う」

義重「密やかな愉しみ」

 
 (了)

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